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ダンジョン何階まで潜れる?

PHASE-686【異世界の御器噛りは金になる】

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「なんとも騒々しいな……」

「まあそう言わずに俺たちの凱旋を祝ってくれよ」
 ベルが些か柳眉をつり上げているのは、大勢の男達から衆目をあびているってこともあるだろうが、一番の理由は別だろう……。

 ドヌクトスの目抜き通りにて最も大きい酒場である【銀色の鬣】を丸々貸し切り。
 この酒場は三階建てとなっていて、二階と三階は宿場としても使用されており、この酒場を拠点としているギルド・シークランナーが殆どの部屋を利用しているそうだ。
 シークランナーはバランド地方の中で最も大所帯のギルドで、名は体を表すとばかりに、ダンジョンや城趾などを走り回ってお宝を探しているという。
 
 翼幻王ジズの軍勢が攻めてきた時には、城壁にて迎撃に参加していたんだ。と、俺の真向かいでそう言うのは、灰色の顎髭を貯えた禿頭の中年男性。
 ロイ・ラカンという人物。
 身長は俺とあまり変わらないので、屈強な冒険者たちの中だと小柄な方。
 だが170センチ台とは思わせないほどに筋骨隆々な体は、腕も太股も丸太を思わせる。
 初見だと完全なパワーファイターと判断するが、得物は重量級ではなく――レイピア使い。
 自らの筋肉を最大限に活かすために選択したのは、膂力ではなく速度。
 刺突、斬撃の速度をただひたすらに向上させる理由で選んだのが、リーチのある片手剣のレイピアだそうだ。
 爆速至上主義の攻撃スタイルのようである。
 だからなのか、レイピア以外の得物はダガーナイフだけである。
 しかもしっかりと肉抜きしている強度を無視したナイフだった。
 攻撃の邪魔になるからと、ショルダーガードなしの茶系の鎧皮製の鎧は軽量であり、レア生物の鎧皮ってことで鉄製の鎧以上の防御力を有しているそうだ。
 加えてレア生物が有している炎耐性もあるそうで、火炎系魔法にも強いという。

「いや~大したもんだ。流石は勇者殿だな。あれだけのお宝を手に入れるなんて」

「どうも」

「しかも俺たちに場所まで教えてくれる。加えてこの奢り。太っ腹な男は最高だぜ!」
 この距離感を保たないで無遠慮にズカズカと踏み込んでくる感じは、如何にも冒険者といえる馴れ馴れしさ。
 普段から胸襟を開いているからこそギルドメンバーには人気があるようだ。
 冒険者として裏表がないというのが、行動を共にする者達にとっては最高の信頼になると、側にいるメンバーの一人が言えば、

「裏表がないとか俺が普段から何も考えてねえみてえじゃねか」

「考えてねえよ。リーダーは」
 と、ひょうきんな声でヤジが返ってくれば、そっちに向かって肉を食べ終えてしゃぶっていた骨を投げつけていた。
 剛胆で愛嬌もある人物はどこでも人気。
 ギルドの会頭として学ぶべきところもあるな。
 パーティーメンバーを除けば、カイルたち古参の連中は未だに俺には敬語で恭しいからな。
 もっとこんな風に距離を縮めてもいいんだけどね~。
 大胆なようで礼節をわきまえるのがカイルのいいところでもあるけど。

「じゃんじゃん楽しんでくださいよ。同じ冒険者として、ご助力をお願いしたい時もありますので」

「堅苦しいぜ勇者殿。このドヌクトスが危機に瀕した時、あんたとあんたの仲間達が一瞬にしてあの翼幻王ジズ軍を撃退したんだからな。もしあいつ等に攻め込まれていたら、ここは無くなってただろうさ。むしろこういった席を設けたいのは俺たちだぞ。奢らせてくれよ」

「その通り」

「まったくだ」
 などと、肯定が酒場から一斉に上がるのは照れくさいが素直に嬉しい。

「でも、今回は俺の奢りなんで」

「違うでしょう! 私も入れないといけないでしょう!」

「そうだった」
 俺とコクリコからと言い直して再度、乾杯を発せば唱和となって返ってくる。
 二桁は超えた乾杯の音頭だったけど……。
 皆、酒に強い。

「しかしトール。流石に使いすぎでは?」
 些か心配の共同出資者。
 侯爵に頼んで競売にかけている貴重な品々が生み出す富は、未だ懐には入っていない。
 直ぐさま競りってわけにもいかないから、日を要するようだ。
 なので俺たちの懐に入っているのは、繁華街の店で買い取ってもらったアイテムによる富だけ。
 心許なくなるのも仕方がないくらいに、皆さんの開かれた口に、次々と食べ物と酒が流し込まれていく。
 ギルド、野良の冒険者だけでなく、非番や公休の兵士。約束通りオジマさんもいる。
 皆、成長期かな? って思えるくらいに食べて飲む。

「まったくだ。いくら得た物が大きかったからといって、羽目を外しすぎだ」
 と、ここでベルも不機嫌な声音でコクリコに追従。

「得ようと思うなら先ず与えよってゲーテも言ってるの。これで懇意の間柄になれれば安すぎるぐらいだ」

「確かにな。人材こそ最も高価な存在だ」

「ゲッコー殿は飲みたいだけでは?」

「そうツンケンするなよ。トールがダイヒレンを持ち帰ったくらいで。ここの飲食は黒光りのおかげでもある」

「うう……」
 ベルがずっと機嫌悪いのはこれなんだよな~。
 トラックから下ろす時、至近で見てしまって乙女の悲鳴が上がったのは言うまでもない。
 俺としては以前みたいに抱きついてほしかったけど、今回は悲鳴だけで終わって残念な気持ちもあった。
 繁華街で売ったアイテムと、素材として引き渡したダイヒレンによる利益はここで全て消えて無くなるだろうな。 
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