上 下
624 / 1,668
死霊魔術師

PHASE-624【今は鳴るなよ!】

しおりを挟む
 ――――コクリコとオムニガル。
 二人のやりとりを見て、周囲が笑っているので、余興としてはいいものだった。
 おかげで場が和んだのか、離れた位置から姫や魔王を眺めていた貴族や豪族の面々も、次第に距離を縮めて挨拶を始める。
 ゲッコーさんは美味い酒があればいいとばかりに、普段、口に出来ないような高価な酒を浴びるように飲んでおり、侯爵がそれに付き合っていた。
 シャルナも興味があったようで、ゲッコーさんと侯爵の中に参加。
 おっさん二人が手酌で飲むってのは虚しいからな。美人エルフがお酌をすれば侯爵のテンションも高くなるというもの。

「ふぃ~」
 かくいう俺も存分に酔ってますけどね。
 ガヤガヤと賑やかな空間から避難するように、会場となっている本邸の大広間からバルコニーへと移動。
 煌々と照る満月が夜空の支配者として君臨している。
 体を撫でていく夜風は、火照った体に心地いい。
 ちょっと前まで北の地にいたけど、ドヌクトスの夜風の方が冷たく感じるのは、火龍装備を外しているからかな。
 別に鎧は普段着のようなデザインだから脱がなくてもよかったんだけども、今回はずっと装備してたからな。
 ちゃんとメンテナンスしとかないとな。
 メンテっていっても、ただ洗うだけだけど。
 鎧を服感覚で洗濯できるってのが凄いと思う。
 プールポワンとブリガンダインを合わせたようなデザインで仕立てた、ワックさんの技巧の妙なんだろうな。

「酔い冷ましか」

「ああ。喧騒からの脱出か?」

「そうだ。近隣の貴族や豪族、素封家の男性陣が立て続けに来てな。挨拶はこなしたが、流石に煩わしくなってきた」
 美人が佇んでいれば男が寄ってくるのは当たり前。
 さながら誘蛾灯に寄ってくる虫みたいなもんだよ。男ってやつは。
 ベルも珍しく頬が赤い。

「そこそこ飲んだんだな」

「普段は飲まないが、今回は祝賀だからな」
 ――うむ。

「どうした?」

「いや。なんでも」
 酔ったお顔がお綺麗ですね。とは言えない。
 サラッと言えるくらいの男になりたいもんだ。

「しかし、ここ最近のトールの成長は素晴らしい」

「ほんとか!」
 急に俺の事を褒めるから、ついつい身構えてしまう。

「嘘などつくものか。魔大陸では要塞にて指揮官である者を倒し。地龍の時も臆さず常に戦う姿勢であった。今回のリン・クライツレンでもそれは同じ」
 身構えてしまったものの、やはりベルに褒められると嬉しい。
 酔いで火照った体を冷ましてたんだけども、またも熱くなってくる。
 ベルは男は顔ではなく、生き様と言っていたからな。やはり生き様さえしっかりしていれば、ベルは俺に好意を寄せてくれると思う。
 だから頑張るし頑張れる。
 チート転生ではないけども、その分、成長する喜びを得る事が出来る。

「祝賀会を楽しんだら、数日はゆっくりとすればいい」
 だな。最近はずっと動きっぱなしだったからな。まともに休みなんてとったことがない。
 まだ高校生なのに、すごく労働している。
 将来、日本に帰った後、ちゃんと社会人として働いていける自信に繋がるというもの。
 人類が追い込まれた世界に比べれば、そこそこのブラック企業でも楽園と思えるくらいには頑張れるだろう。
 
 俺が数日ゆっくり出来るって事は、ベルもゆっくり過ごすってことだよね。
 ここは――、デ、デートなるイベントに誘ってみるのもいいのではないだろうか。
 今はバルコニーに二人っきり。他の人が立ち入ってきそうな気配もない。
 このチャンスを逃すような事はしない。
 戦いで培った経験だ。好機ならば攻めねばならない。

「あのさ――」
 ってこの後が言えなかった……。
 別段、第三者が来たわけでも、ベルが立ち去ったわけでもない。
 ではなぜか? ここで悪意があるとしか思えないテッテレー♪ が鳴ったからね!
 レベルアップの音に、これほどイラッとした事はない。
 殺意を抱いてしまう程の間の悪さだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...