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死霊魔術師

PHASE-601【デカかろうが可愛ければOK】

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「もう一戦!」
 最初の頃のふんぞり返っていた時とは違って、荒ぶる声で召喚をするアルトラリッチ。
 凄いのはどのオベリスクも光らないということ。
 アンデッドを使役する召喚には、オベリスクの魔力を使用するという事はないようだ。
 地力のみでグレータースケルトン百体ほどを再び召喚。

「面倒くせえ」
 流石にちまちまとやるのは時間の無駄。
 地龍からもらった首にかける曲玉を手に取り、先端を床に走らせる。

「こいゴロ丸!」

「おお!」
 と、名前を呼べば、ベルから乙女な喜びの混ざった声が上がった。
 デカくても可愛ければOK。

「いけゴロ丸。敵を掃討しろ!」

「キュ!」

「なんと愛らしい返事なのだ」
 ゴロ丸にときめく乙女さん。
 先程までの無双スタイルは、何所へやらだな……。

「ミスリルゴーレムを召喚できるって報告通りね。形は変だけど」

「何だと」
 低く突き刺さるような声を発するのはもちろんベルさん。
 可愛らしいものを侮辱されるのは許さないとばかりに、更に一本のオベリスクを断ち切る。
 今度のは黄色に輝くオベリスクだ。

「斬らないでよ!」

「貴様が不遜な発言をするからだ」

「本当に、なんなのよ。この女は……」

「どうするの。あのミスリルゴーレムからやる?」

「そうね」
 オムニガルとアルトラリッチのやり取りがしっかりと聞こえるが、そんなことは――、

「私がさせるわけがない」
 跳躍して一気に同じ目線にまで移動し宙に立つ。
 アイコンタクトによるコンビネーションなのか、シャルナが板状のプロテクションを寝かせて宙に留めたことで立つことを可能としている。
 一瞬で間合いに詰め寄ってくるベルに、雪肌と玉肌のアンデッドが顔を引きつらせる。
 今までのような見下すような余裕はすでにない。
 俺やコクリコだけならあんな表情は見せる事はないだろう。

「ダークフレイムピラー!」

「ガストストライク!」
 オムニガルに続いてアルトラリッチの魔法は耳にしたことのないもの。
 オベリスク先端の緑の球体が光るところからして、上位以上の魔法クラス。
 視認できる大気の圧縮。
 蜃気楼が一塊になったような魔法。
 緑色に輝く球体とクリスタルのオベリスクは、風を司るものと見ていいようだ。
 漆黒の炎が直下よりベルを覆い、圧縮された風がそこに入れば、漆黒の炎も呑み込んで風の中で炎が乱れ散っていく。
 風の中に無数の漆黒の炎の刃が舞っているかのような光景。

「無駄だ」
 何事も無いとばかりに、自身の炎に包まれたベルが二人の魔法に痛痒を感じることなく佇んでいる。
 そんな姿を見せられれば、アンデッドにまでなって魔法の研鑽を積んできたアルトラリッチの努力は無意味と言わんばかりだった。
 絶望の二文字が頭内を支配していることだろう。

「で、次は?」
 とまあ、嘲笑を浮かべて相手の精神世界アストラルサイドを攻撃していくのがベルだよ。
 王都でバニー姿にした後に、ボコボコにされた一連の記憶が甦り、ついつい両腕をさすってしまう。

「トール。見てないで周囲に対応しましょう」
 元気なコクリコの跳び蹴りが俺の目の前を通過する。
 ガシャリと金属音がすればグレーターが一体倒れる。

「油断しすぎです」

「油断? これは余裕っていうんだ」

「ほう。随分と言うようになったな」

「あ、すいません……」
 しっかりとベルのとこまで聞こえてたんだね……。
 でも実際、コクリコに言われなくてもちゃんとグレータースケルトンの動きは見えていたからね。
 でもってコクリコだけで対応できるってのも分かっていたからね。
 周囲の状況判断が出来るほどには成長はしています。
 それに見てよ。俺のゴロ丸を。

「キュキュ、キュゥゥゥゥゥゥゥウ!」
 短い足による見事なフットワークからの、短い腕でのワンツーで三体を素早く倒し、群がってくるのに対してはゴロゴロと転がりながら踏みつぶしていく。
 まるでロードローラーのように。

「なんと素晴らしい戦士なのだろうか! 我らの新たなる仲間は!」
 目の前の強敵よりも、愛らしい存在に目が行く時点でベルは余裕のようだ。
 俺の余裕とは別次元の強者による本物の余裕。
 しかもしっかりとゴロ丸を仲間確定しているし。
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