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死霊魔術師

PHASE-586【多彩なピラミディオン】

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「コクリコ」

「なんです」

「お前は才能あるんだから、これから合うヤツにも堂々としてろよ」

「珍しいですね、そんなことを言うなんて。ではその根拠を聞かせてください」
 ほう、あれか? 不安なのか? だから根拠がほしいのか?

「相手はリッチだぞ。対してコクリコは生者。長い時間をかけて培った力なんて卑怯なだけだろう。もし、お前がリッチと同じ時間の流れを生きていたとしたら?」

「フフフ――――」
 俺の発言に目に力が宿ったかのように琥珀色が輝き、コクリコが含み笑いをすれば、

「愚問ですね。私を超えられるのは私だけなのです!」
 こういう単純なヤツは、褒めちぎっていれば直ぐに元気になるからいい。
 しっかりと力を見せつけてやればいいさ。それを可能にする為のパーティーでもあるんだからな。

 偉大なる力を見せつけてやります! と、意気込んで調子に乗ってくれる方が、ベルに指摘を受けて拗ねたり、オムニガルに言い様に言われて憤ったりするよりはましだからな。
 焦りから苛立つ事もあるだろうけど、それらも自分を奮い立たせる為の糧にすればいいんだよ。

「いいタイミングでの鼓舞だな」

「俺、ゲッコーさんを差し置いてこのパーティーのリーダーなんで」

「頼りにするぞリーダー」
 俺もガッツリと頼らせてもらいますけどね。
 チラッとベルを見れば目が合ってしまう。
 柔和な笑みを俺へと向けてくれた。
 俺、頑張れる。これだけで頑張れる。
 ヨイショして調子づかせたコクリコよりも、俺の方が簡単だな。と、自分で理解したよ。

「さあ、行きましょう!」

「元気になったのはいいけど、一応は後衛な」
 調子づかせたのは俺だが、調子にはのってほしくないという矛盾。

 ――――カツカツと複数の足音を響かせながら真っ直ぐな階段を下りていく。
 灯りは必要ではない。
 ジオフロント同様に、壁は白光色によってしっかりと照らされており、足元に不安はない。
 加えて階段はコンクリート製ではなく、青白く輝く鉱物で出来ている。
 壁の灯りがなくても階段だけで十分に明るいし、靴底から伝わる感触から、階段の表面がザラザラしているというのが分かる。滑りにくい構造だ。
 足元が万全の階段である。
 手すりもあるし本当によく出来ている。
 アンデッドやオムニガルのようなポルターガイストには必要なさそうなんだけどな。
 ジオフロント然り、無駄にこっているようだ。
 下りれば鉄扉が目の前に現れる。
 ゲッコーさんと二人して警戒し、鉄の扉を押せば、重厚な音と共に開いていく。

「ほほう」
 何とも幻想的じゃないか。
 クリスタルが光を発しているのはジオフロントでも目にしたけども、ここは床全体がクリスタルで出来ているようだ。
 真っ平らなクリスタルの床。
 空間の広さは結構ある。うちの高校のグラウンドぐらいかな。
 一周が二百メートルほどだけど、それくらいの広さが巨城の地下に造られていた。
 等間隔に設置されたクリスタル製の柱は、先端部がピラミディオンからなるもの。
 デザイン的にオベリスクと見ていいだろう。
 そのオベリスクは一本一本が様々な色に輝いており、ピラミディオンの先端から柱と同色の球体が宙に浮いていた。
 赤、黄、青、緑、白、紫、黒と様々だ。
 床のクリスタルは淡い緑色に輝いており、その輝きは波を打つように律動している。

「幻想的だな~」
 ファンタジーもファンタジー。
 柔らかな白光色が空間全体を照らし、様々な色に輝くクリスタル製のオベリスクの先端からもカラフルな輝きを放つ。
 今まで見てきたこの世界の中で、最もファンタジーとして幻想的な空間を作り出している。
 ラスボスでも出てきそうな空間だ。

「本当に美しい」

「ああ。美しい故に――だな」
 俺は素直に美しいと思ったけど、ゲッコーさんは違うようだ。
 それが正解とばかりに、

「冗談じゃないよ……」
 と、シャルナが震えた声で返してくる。
 表情は声同様に弱々しく、雪肌が青ざめていた。

「大丈夫か!?」

「ここは私にとって最悪の空間だよ」
 この幻想的な空間が最悪とはね。
 悪寒は確かにするけど、シャルナほどプレッシャーは感じ取れない。
 むしろこの幻想空間に見入ってしまって、悪寒がかき消されていたほどだからな。
 悪霊の類いが蔓延しているって事だろうか。

「ベル」
 もう一人の感知タイプに問うてみれば、

「城に入ったとき以上の不快感はある」

「本当に、ここにはいたくないかな。気持ち悪すぎるよ……。最悪!」

『人の敷地でずいぶんな言いぐさね。エルフ』
 聞かない女の声。

「やっとご尊顔を拝する事が出来そうだ」
 言いつつもレイピアをいつでも抜ける状態で述べるベル。
 戦闘になるかは不明だからね。即、抜かないところは流石です。
 俺もベルの所作を真似つつ、ベルが向けている視線を追う。
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