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死霊魔術師

PHASE-552【アルトラ】

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 例えイリーのような魔法剣が使用出来る手練れがいたとしても、それだけの実力者が多くいるなんてあり得ないし、冒険者の協力を得ても勝利は難しい。
 
 となれば、大英雄に対してこちらが出来る事は、

「頭を下げてお願いすればいいのかな?」

「聞き入れてくれればよいですが」

「かなりの偏屈?」

「以前のことがきっかけで、人と――というより、世俗と関わるのが嫌になっているようです」
 人の闇の部分に嫌気がさしたのか。
 だとしても、姫をヴァンピレス化させる事の理由にはならない。

「派兵して刺激を与えるより、少人数でいった方がいいかもな」
 このゲッコーさんの発言には皆して首肯。もちろん俺以外の皆がね。

「ふぃ~……」
 嘆息しか出ねえ……。

「勇者殿!」
 勇者殿という発言だけで、侯爵の期待という感情がしっかりと伝わってくるね。

「……アンデッドか。魔術師のアンデッドってなるとリッチかな? 最上位の魔術師だからリッチが相応しいよな」

「いえ、ただのリッチではなく、彼女のみに与えられた称号、アルトラリッチが正しいです」
 重々しく口にするリズベッド。
 なんだよアルトラって。
 アルトラ。ゲッコーさんの補足では、超や過度を意味する。
 アルティマやウルティマなんかと同じ意味合い。
 アルティマか……。究極魔法の名前に似ているな。つまりは究極のリッチってことなんだろうな。
 もし戦闘になったら嫌だな~。面倒くさそうだぞアンデッドとか。
 しかもその本人がアンデッドも使役してくるわけだからな。ゾンビとか本気で嫌なんだけど……。
 見ただけで恐怖状態に陥ること間違いなしだ。
 映画とかで見るのは大丈夫だけど、ゲームでキャラを動かすと追体験しているみたいで、怖くてホラーゲームは出来ない男だからね。俺。
 風呂入って髪洗ってる時、背後に気配を感じるくらいにビビりだから。
 俺みたいなビビりに、生のゾンビが迫ってきたら大混乱だ。
 もし戦闘に発展しても、混乱しながらもなんとか対処はするだろうけど、接近戦だけは絶対に嫌だ。
 ズルリと音を立てて部位が落ちるとかは無しでお願いしたい。
 ゼノに支配されていたドドメ色の方々でも怖かったのに、体が朽ちてる本物さんに来られたらたまったもんじゃないね。

 ここは戦いを回避して穏和な解決を――、

「おもしろい! 相手がアンデッドならば弱点は火! つまりは私の出番ですね」

「うるさいよ」
 戦いに発展させたくないのに、なんでこのまな板は戦いたがってんだよ。
 大体、アンデッドが火に弱いっていっても、ファイヤーボールくらいには耐性あるんじゃないのか? 通用してもせいぜい下級アンデッドくらいが関の山だ。
 まあ俺の火龍装備ならまったくもって問題はないだろうけど。
 
「難しいと思いますが、まずは話し合ってみてください」

「だよな。姫とライラにはもう少し辛抱しててほしい」

「私はいつまでもお待ちしています」
 リズベッドの意見を第一として、今度こそヴァンピレス化を解いてやらないとな。
 姫は待つとはいっているけど、後ろに立っているライラの憂いある表情を見てしまえばやるしかない。
 先生も俺を信じて王様には無用な報告はしないという考えなんだし。



「結局、進展はなかったわけですね」

「そうだね~」

「申し訳ありません……」
 コクリコとシャルナに謝罪するコトネさん。その後ろではランシェルも頭を下げていた。
 姫との謁見も済ませた俺たちは、本邸の大広間でくつろいでいる。
 侯爵はリズベッドやガルム氏たちと共に、今後の生活拠点に必要な物資の話し合い。
 最低限の物は直ぐに揃えられるとは言っていたけど、亜人の生活には何が必要なのか、人間の範疇では齟齬が生じる恐れがあるからと、再度入念に話をするとのことだった。
 女好きでも領主としての仕事はしっかりとこなす辺りが、一流の統治者なんだろうな。

 亜人たちの拠点の手伝いとは別に、本邸に残り普段通りの仕事をこなすメイドさん達の足取りは軽い。
 リズベッドの無事が本当に嬉しいようだ。
 でも、コトネさんとランシェルは違う。
 俺たちに対して申し訳ないという気持ちで、先ほどからドリンキングバードみたいになっている。
  
 魔大陸に行くことになったのは地龍を救い出すことと、姫の呪いを解くためであり、リズベッドはその過程でもいいから救ってほしいとの懇願だった。
 なのに、リズベッドが救われて、姫の呪解はならなかった。
 姫の呪いを解ける可能性がリズベッドにあると言った手前、いたたまれないんだろう。
 くつろいでいる俺たちに対し、必死になって身の回りの世話をしているのがいい証拠だ。
 本当は主であるリズベッドの側にいたいはずなのに。
 こっちがいたたまれないよ。
 
 進展しなかった発言の一人と、それに相槌を打った一人は、しまったとばかりに、慌てながらコトネさんとランシェルに謝罪していた。
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