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レティアラ大陸

PHASE-538【この世界に運転免許の概念はない】

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「準備万端。皆さんを新天地へといざないましょう」
 ワンドを彼方へと向けての宣言。

「「「「おお!」」」」
 再び上がるコクリコへの歓声と――、

「立ち居振る舞い――大賢者の如し」
 ゴブリン老のその発言を耳にして、いざなう発言のコクリコさんは、とても幸せそうな表情だった。
 大賢者じゃなくて、講談師の間違いだよね。
 にやけきってだらしなくもある笑みだが、仕方がないよな。
 今までノービスとか馬鹿にされてたポジションだったのに、大賢者なんて真逆のポジションで呼ばれれば嬉しくもなるだろう。
 歩法が常にスキップになっている。
 まあ、集落の方々も皆、似たような歩法だけどね。
 リズベッドが救われた事が本当に嬉しかったようだ。

「じゃあ行くか」

「ところでロードウィザードであり、大賢者でもある私は何に乗ればいいのでしょうか?」
 さっそく大賢者とか言ってる辺り調子に乗っていますな。
 というか久しぶりに聞いたな。ロードウィザードとかいう設定。

「トラックに乗れよ」

「いくら重さがなくなったとはいえ、集落の皆さんに荷物もとなると――」
 調子に乗っている割には気づかいは出来るんだな。
 単純に密集したところにいたくないとも勘ぐってしまったが、皆さんに対する配慮が窺えたので純粋な優しさからだったようだ。
 うむ、いいよコクリコ。育ってきてるよ。精神が。
 後は調子に乗りすぎないようになれば尚良しだな。

「よければ我々は自らの足を使うが?」
 ガルム氏の配慮をコクリコは丁重に断る。
 ゲッコーさんの隣である助手席にでもと逆に進めていた。
 モフモフキッズ達はベルと一緒に乗るみたいだし、老人であるゴブリン老もゲッコーさんの助手席。
 リズベッドはモフモフ達と一緒に最強の存在であるベルのトラック。
 ランシェルはベル運転のトラックの荷台で、家畜たちを見守ってくれるそうだ。
 地龍はマンティコアと共に家畜の方に乗るとのこと。
 なんだろうか、それでいいのか地龍。と、喉元まで出かかったけど、ぐっと飲み込んだ自分を褒めたい。

「だったらトールが運転する車両に乗ればいい」
 おっとゲッコーさんが訳分からんことを言ってきたよ。

「いやいや。嫌ですよ」
 いやを多用しすぎだよコクリコ君。
 俺だって嫌だよ。あれか? 戦車を運転するって事かな? 速度が出るとなると――――、

「カルロ・ヴェローチェを――」

「絶対に嫌です。お願いします! それだけはやめてください!」
 コクリコのトラウマが発動。
 洞窟内で俺が追いかけ回した事が今でもしっかりと恐怖として心に刻まれているのか、先ほどまで集落の皆さんの前で得意げだった姿はどこにもない。
 頭抱えて体を丸くする情けない姿に変わる。

「そもそもカルロ・ヴェローチェだと二人乗りだからな。シャルナも乗らないとだし」
 無理矢理に乗れば密着も可能というおいしいイベントも発生しそうだけど、やはり無理だろう。
 大体、豆戦車タンケッテとはいえ、不整地の道の走行は速度が出ない。
 トラックに追いつくことは出来ないだろう。

「普通にハンヴィーでいいだろう」

「無茶を言いますね」

「無茶なものか、遊園地のゴーカートみたいなものだ。米軍車両はオートマだぞ」
 アクセルとブレーキにサイドブレーキ。ギアはドライブとリバース――つまりはバックだけを覚えていれば最悪、走らせることは可能。
 この世界には車両なんて存在しない。
 ここは馬車が通る街道などではなく、敵の大陸。堂々と草原を走ればいいだけだからそこまで難しくもない。距離をとって後ろをついてくればいいだけだとゲッコーさんは言う。

「でも俺、未成年ですよ」

「この世界では大人だ。酒も飲んでるし、戦いだって経験している。だろ?」

「あ、はい」
 ――――これあれだ、断れないやつだ。
 絶対に運転しないといけないやつだ。

「移動をスムーズにするためにも、今後の事を考えても、トールは運転を覚えておいて損はないだろう。私が教えてやる」

「是非にお願いするよ!」
 即答。即答である。
 ベルが教えてくれるなら、全力で頑張れます。

「なるほど……な。王都のギルドメンバーや兵達はこんな感じで習いたいんだな……」
 渋っていた俺が、ベルが教えると言った途端にやる気を出したもんだから、ゲッコーさんが王都での鍛錬師事の時を思い出しているよ。
 自分の時は中々に人が集まらなかったから、それを思い出して落ち込んでいますよ。
 ゲッコーさんには悪いけど、俺も王都にいる皆の気持ちがしっかりと分かってしまったよ。
  ハリウッディアンなお髭のおじさんより、巨乳の美人に教わりたいよね~。

「よっしゃ! 頑張ってみるか」
 俺が気合いを口にすれば、ゲッコーさんは面白くないといった表情だ。
 でも気にせずにプレイギアを前へと向けて――、気合いも入ったことだし、折角だからいつものとは違った物を出してみよう。

「出てこいJLTV」

「何だと!?」
 ゲッコーさんの驚きを余所に、コイツを使用してみたいという背伸びな俺。
 光の中から出て来るのは、ハンヴィーより背が高く、つり目のヘッドライトからなる一台の厳つい車両。
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