上 下
531 / 1,668
レティアラ大陸

PHASE-531【騎乗系は憧れの一つ】

しおりを挟む
 流石にレッサーデーモンでは、ハインドの速度にはついてこられないだろう。
 十分に逃げ切れるだろうが不安もある、手にスタッフを握っている者がいるという報告だった。
 追跡者には魔道師系もいるってことだ。

「ゲッコーさん、魔法で狙われる可能性があります」

『こいつの無駄に分厚い装甲なら耐えられるとは思うぞ』
 空飛ぶ装甲車とも言われるらしいからな、ハインドは。

『だが念には念を入れて迎撃する。相手がレッサーデーモン、下級の悪魔なら、ハインドは厳つく凶暴な最上位の悪魔だというのを分からせてやろう』
 反転した後、機銃にて掃討すると伝えてくれば、直ぐさま射撃音が聞こえた。

『12.7㎜の敵じゃなかった』
 レッサーデーモンは痛みを感じる事なく、散っていっただろうな。
 俺が目にすることはなかった。むしろ見なくてすんでよかったけども。

「とんでもないな……」
 下の方から地龍がレッサーデーモンの末路を見ていたようで、感嘆というよりは、畏怖の声で呟いていた。
 呟き程度でもしっかりと地龍の声が聞こえるのは、ハインドのドア部分に巻き付いている蔦が原因。
 糸電話みたいなものである。
 

 ――――着陸。
 要塞より離れた森林に着陸。
 素晴らしき地龍の力。着陸する場所の木々がまるで生きているかのように避けてくれた。
 ここはコクリコがやらかしたところだな。
 マンティコアとの戦いが行われた場所。
 要塞からは近いけども、追撃があるなら遮蔽物のない空よりも、木々が俺たちを隠してくれからと、ここに着陸した。

「む」
 ピクリと体を震わせて長い首で後方を見やる地龍。

「何か――来るぞ」
 継いで発するも、警戒はしない。強者故なのか、それとも驚異ではないからか。
 などと考え込んでいれば、

「にゃ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 割れ鐘の鳴き声が俺に向かって走ってくる。
 尻尾の先端が欠損したマンティコア。
 灰色の毛並み。雄々しい獅子のような顔は、甘えた表情。
 象ほどある体躯が、俺に向かってくる様は迫力満点。
 ようやく自分で立てるくらいにはなったけども、今の状態だと対処が出来ない……。
  
 とりあえず――、

「よしよしよし」
 言ってみれば、俺の前で巨体を仰向けにする。
 さながら猫のようだ。
 お腹部分を撫でてやればゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らしながら喜んでくれる。

「か、可愛いな」
 ここでベルも参戦。
 二人して腹をさすれば、

「柔らかくて温かいな」
 と、横では若干だけど鼻息が荒くなっているベルの姿。
 美人のそれはいただけない……。
 巨大であっても甘える姿に愛らしさを見出したベルの頭の中では、きっとコイツの腹の上で寝てみたいというファンタジーな思考になっているんだろうな。
 俺もやってみたいな、巨大なモフモフの腹の上で寝るってやつ。
 寒い時なんて最高だろう。

「しかし随分と懐いてますね」
 俺たちを真似てコクリコも撫でようとすると、

「グァァァァァァ!」
 仰向けになった状態で威嚇をしてきた。
 なぜに! とショックを受けていたけども、原因はお前がいきなり襲ったからだろうな。

「この様な生き物は見たことがないが、流石は勇者よ。手なずけているとは」
 流石の地龍も人工的に造られた生物は分からないようだな。
 地龍の存在に当てられたマンティコアは、コクリコの時と違って大人しくなる。

「で、どうするのだ?」
 と、凜々しい声で言うベル。とりあえず腹を撫でながら言うのはやめようか。声と動作が一致しないから。
 俺に懐いてはいるけども、飼うということは難しいだろう。
 なんと言ってもデカいからな。餌代がね。
 そもそも飼っていいのだろうか。

「飼うのならば、私にも懐くようにしてください」

「お前がいらんことしなければよかったんだよ。でもなんで懐くようにしたいんだ?」

「騎乗したいじゃないですか。マンティコアに騎乗とか、絶対に強者として衆目を集めることが出来ます」
 なんと私利私欲な発想でしょう。そんなんだから懐かれないんだよ。
 ――――だがしかし、コクリコの考えも分からなくはない。
 地龍に乗る俺って勇者だったもの。
 俺が何もしなくても地龍が敵を倒す様とか、凄かったからね。
 自分が騎乗する幻獣やモンスターは戦わせても強い。ってのは、ロマンでもあるからな。
 ゲームなんかでも、馬や騎乗系モンスターの獲得にはこだわったりするからな。
 名馬ほしさに、ストーリーをまったく進めないで、一週間くらい雪山に籠もったこともあったな。

 現在の俺にはダイフクもいるけど、マンティコアもいいよな。
 騎乗けん戦闘用モンスター。うむ、ロマンだな!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...