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レティアラ大陸

PHASE-509【最後の門が開かれる】

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 まったく困ったもんだな。コクリコのマウントをとりたい精神。
 もし魔王派閥の前でもこういう喋り方をされたら困るから、ギルド会頭として、マナーの向上教育を第一にせねば。

 普段はよくてもお偉いさん達の前では態度を変えさせないとね。
 俺にも言えることだけど。
 まあ、コクリコは大勢の前になれば静かになるから問題ないかな? 最近はそういう環境にも慣れてきているけど。
 やはりオンオフはしっかりと躾けないとな。
 コクリコだけじゃない。ギルドメンバーは荒くれの冒険者だからな。
 コンプライアンス強化に励まないと。
 ここから出ることが出来たとしても、やることは相変わらず山積。
 といっても先生に丸投げすれば大丈夫なのもありがたいところ。
 
 先の事もちゃんと見通せるようになるためにも、

「まずは目の前の事から対処しないとな」
 戦力ダウンはリズベッドのおかげで防げた。
 火龍の時は三人での対応だったけど、今回はリズベッドも含めれば七人だ。

 ――……。

「どうした?」

「いや……」
 チラッとベルを見てしまう。
 白い髪は、本来は真紅の色だった。
 こうなったのもベルに負担をかけさせたからだ。俺がもっとしっかりしないとな。
 会頭としてだけでなく、勇者としても!

「やってやるぜ!」

「おお、頼もしいな」

「だろ、ベル。皆も頼むよ」
 前回より倍以上の人数に、火龍の装備。
 今までで培ってきた経験。

「負ける気がしねえ!」

「助けられない気がしねえ。の方がよくないか?」

「ですねゲッコーさん。地龍を絶対に救い出しましょう」
 倒すわけじゃないんだもんね。
 これからの戦いに赴く俺たちの足取りは存外、軽い。
 仲間が多いのはやはりいい。いるだけで気持ちが安定するからな。

 ラセットブラウンの髪を揺らしながらのコクリコの軽い足取りは、スキップのようだ。
 でもって、年齢はアレだが、見た目は同い年のようなリズベッドと仲良く歩いている。
 リズベッドに対して馴れ馴れしい語り口が続くからか、ランシェルの表情が些か曇ったものになっている。
 主が気にしていないようだから、苦言を呈するとまではいかないようだけど。
 リズベッドも友人が出来たみたいで嬉しそうだしな。
 ああいう明るいやり取りを目にするだけでも、ここから先の重圧も和らぐというもの。

「いよいよだな」
 金魚鉢のあった部屋より続く、緩やかな傾斜を下って行けば――――、

「間違いなくあれだな」
 要塞と外をつなぐ門と同程度の大きさだが、質では圧倒的に上回る黒門が眼界へと入ってくる。
 木と金属の複合ではなく、金属だけを使用した門は、色も相まって、不落の門だというのが伝わってくる。
 あまりにも立派なために、門の前で番兵をしていたリザードマン二名と、オーク二名の計四名が視界に入るのが遅れた。

「――――最後の魔王護衛軍だな」
 告げるように発せば、ビクリと体を震わせている。
 視認が遅れたのをあえて利用して、間を置いて言葉を述べることで、こちらは余裕であると其れと無しに伝える。
 
 別段、要塞内の残存護衛軍がこいつらだけって訳じゃないだろうけど、指揮官に副官が倒されているから、俺たちがここに来ているのだと即座に悟った護衛軍四名の体は、俺の発言を真実として受け取ったようで、恐怖でさらに体を震わせる。
 それでも護衛軍。魔王に対して忠誠を貫く者達は、震える体でありながら、手にした利器を俺たちへと向け、気骨さを見せてくる。

「本当に戦うのか? 指令であるデスベアラーは死んだぞ」
 ドスを利かせて問えば、四人はどうするべきかと、お互いに顔を見合わせている。
 そんなやり取りをしばらく見ていると、無駄な時間だと判断したようで、

「さがれ」
 と、涼やかな声にてベルが伝える。
 声音は俺と違って威圧的なものではないし、殺気も纏わせていない。
 ただ静かに、透き通ったものだった。

 こちらにこれ以上、戦闘の意思が無いというのを声音に乗せて伝えれば、壁に沿うようにして四人の亜人たちは、俺たちを警戒するように、目を配らせながら通過していく。
 
 そこは敵対勢力という事もあり、俺たちに対して、このままで済むとは思わないことだ。と、負け惜しみにも似た発言を口にしつつ去っていった。
 負け惜しみとも捉えられるけど、地龍を救ってこの要塞から出る時には、あの四人は敵としてしっかりと俺達の前に立ちふさがるんだろうな。
 要塞から救援要請が出されれば、近くの魔王軍も押し寄せてくるだろう。

「ここも迅速にやらないとな」
 両開きからなる巨大な門の右側に両手を当てて、全体重をのせてから押す。
 流石にインクリーズを使用しても、一人ではびくともしない。
 俺に続いて皆も押してくれる。リズベッドまで懸命になって押してくれていた。
 
 皆の力によって、重厚な音を響かせながら門が開いていけば――、ボフッという擬音が幻聴で聞こえてきそうな勢いで、門の隙間から今まででもっとも濃い瘴気が漏れ出してきた。
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