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レティアラ大陸

PHASE-488【ウルク戦】

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「お呼びではないよエルフ。我が欲するのは勇者の首――――よ」
 おっと、ここまで来ると普通に動きが速い。
 瞬間移動じゃないけど、ラピッドを使用したような歩法で、一足飛びで一気に指呼の距離まで詰めてくる。
 抜かれるブロードソードがギラリと不気味に輝き、横薙ぎで迫るそれを俺は籠手で防ぐ。

「――うそん!?」
 ふわりと無重力になる感覚。俺の両足が床から離れていた。
 なんて力だよ。体躯的には標準より筋肉質って感じだけども、膂力は巨体のトロールを彷彿させる。
 姿勢を整えて着地しようとしたところで、

「マッドボルト」
 いまだ宙に浮いている最中に目にするのは、着地予定地点の床に、土色の槍状のものがいくつも生えてきた光景。
 タイミングドンピシャないい攻撃。
 串刺しの危険性がある中で、籠手からイグニースを展開しようとしたが、

「ふん」
 他愛なしとばかりに、護衛軍を掃討しながらの、ベルのレイピアが横一閃。
 鋭角な土の槍が根元から刈り取られた。

「助かった」
 真っ先に思い浮かんだ言葉を口に出す。

「大したものだな。人間の女」
 ベルに警戒したのか、ウルクの追撃はこれ以上はなかった。

「副官って呼ばれているだけあって、現場にいる敵のエースと考えていいな」
 無事に着地してベルに語る。

「そのようだ。どう対応するのだ?」
 うん。絶対にそう言うと思っていたよ。
 なので――、

「勇者としての素養の向上のために、あいつには糧になってもらう」

「よく言った。露払いは任せてもらおう」

「おう、皆と一緒に周囲の相手を頼むけども、仲間として危険と感じたら、さっきみたいにフォローしてね」

「約束しよう」
 よしよし。一人でやれ! って、冷たい言葉はなかったな。
 フォローがあるならと思えば、肩に無駄な力も入らないってもんだ。
 訓練時の立ち回りと力加減を思い出しつつ、

「いくぞウルク。勇者、遠坂 亨が相手をする」

「ガリヤード・ツヴォイク・ズーダ。貴様を糧にする者」
 しっかりと聞いていたか。長い耳なだけあって、良い聴覚だ。

「いくぞガリヤード」
 今回のはまだ覚えやすい名前だから助かる。
 一足飛びで接近を試みれば、相手も同様。
 双方の刀剣がぶつかり合う。

「魔法付与か」

「一合で理解するか」
 俺の残火に耐えうるって事は、ゼノが使用した、血液から出来た剣と同じ方法がとられているって事だからな。
 ただのブロードソードではないわけだ。
 軽快に剣を振ってくる。
 力に任せた剣筋ではなく、流れるような軌道は一流の技巧。
 だが、対応できないわけではない。
 躱して捌いて、いなす。
 ガリヤードがバランスを崩したところで追撃の一撃を見舞おうとするが、ガリヤードが体勢を崩したまま、手を床につけ――、

「マッドメンヒル」
 俺とガリヤードを遮るように巨大な土の壁が現れる。
 後方にさがって壁を見れば、壁というより柱と表現するのが正しかった。
 縦の長さが三メートルはあり、先端は鋭角なもの。
 巨大生物に対して大きなダメージが期待できる魔法のようだ。
 今回は自分の体勢を立て直すために使用したってところか。

「やるな。流石は勇者よ」

「そりゃどうも」
 俺は阻害している土の柱に対して、残火にて袈裟斬りを振るう。
 バターのように土の柱を斬って、正面からガリヤードを睨んで、切っ先を向けて正面からの突撃。

「何という切れ味……」
 回り込んでくると予測していたようだけども、まさかの正面からの攻めに浮き足立つ。
 一瞬の焦燥を見逃さなくなった事も、成長の証だ。
 斬った柱の根元を蹴って、ガリヤードへと一足飛び。

「ウインドスラッシュ」
 それがどうしたの精神。
 横に振り切る腕の高さをちゃんと見て、それより身を低くして進めば、勢いのある風が俺の頭上を通過する。
 撫でる程度なので、ノーダメージ。
 なのでそのまま低い姿勢を維持しつつ、ガリヤードの腹部に目がけて残火を突き刺す。

「ぐぅ……」
 鎧皮のブレストプレートを貫通。
 しっかりとしたダメージがあった事を伝えるかのように、苦痛に染まった声が、俺の上方より漏れる。
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