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レティアラ大陸

PHASE-482【虎さんはやっぱり強い】

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 続いて左側の門にも一撃を加えて、完全に開かれた門に無限軌道にて――、

『おじゃましま~す』
 予想通り、要塞内にはこちらの進行を止めるための拒馬きょばっていうのかな? 丸太をXにしたようなのを横に並べての障害物――があった痕跡がある。
 アハトアハトによって、門と共に吹き飛ばされていた。
 
 もちろん吹き飛ばされていた中には、要塞内を守る者たちも含まれる。
 赤黒い帽子を被ったオークが倒れているのが目に入った。
 中にはレッドキャップスとは違う装備の亜人もいた。
 要塞内にはレッドキャップスだけでなく、普通の部隊からなる魔王護衛軍も当然いるわけだ。
 赤帽子ばかりが守っていると思っていたが、そうじゃないと知ると、些かだが安堵もする。
 精鋭ばかりが相手となると、流石にしんどいからな。

「なんだアレは!?」
 驚きの声を上げるのは、二階ほどの高さに位置する所から。
 そこには壁に沿った通路があり、備え付けられた欄干に手を置いて、乗り上げるようにしてこちらを窺っているゴブリンのレッドキャップス。
 まあ、砲身はそっちに向けるよね。

「戦いなんだよ。ごめんよ」
 あえて外には聞こえないように独白しつつ、驚くゴブリンのいる通路に向かって――発射。
 驚きの表情だったレッドキャップスは姿が見えなくなる。
 見えるのは壁に出来た大穴。

「ゴ、ゴーレムを出せ!」
 まさかの侵入方法に浮き足立っている要塞側。
 普通の護衛軍たちが慌てふためきながら、この要塞の建設にも活躍したゴーレムを投入しようと動く。
 トロールやオーガも使用する要塞なだけあって、入り口から広がる空間はだだっ広い。
 これならゴーレムだって戦闘に参加できる。
 だからこそ、ティーガー1の力も十分に発揮できるわけだが。

『ファイエル』
 俺の声がばっちりと外へと聞こえるように、スピーカーにて発しつつ、砲音と爆発で大混乱。
 △ボタンを押してから兵装を変更。
 副兵装である、ラインメタル/マウザー・ヴェルケMG34機関銃による7.92㎜の弾丸を撃ち込んでいく。

「ぎゃ!?」
 という断末魔が、遮蔽物の向こう側から聞こえてきた。
 俺は容赦なくその方向へ弾丸を撃ちまくる。
 そして再度アハトアハトへと変更して発射。
 
 要塞入り口における戦いはティーガー1により大混乱。
 見たこともない巨大な鉄の存在に、レッドキャップス達も驚きを隠せないようで、逃げはしないが遮蔽物に隠れて状況を窺っているのが見て取れる。

「俺が行く!」
 強気な発言と共に、レッドキャップス所属の新たなるオーガが、くの字に曲がった門の残骸を盾代わりとして手にし、突っ込んでくる。
 背後からはゴーレムが数体それに続いている。

「それは勇気ではなく蛮勇だ」
 小声で独白し、心に氷を宿らせる。
 決して速くはない、のしのしとした駈け足で迫ってくるオーガに対して、砲身を向ける。
 重量の有る物を手にしながらの瞬間移動は無理なのだろうと考えながら、R2トリガーを押す。
 門の残骸と共にオーガの上半身が吹き飛ぶ
 ――――再生能力を有していても、流石に無理があったようで、倒れる下半身からは反応はなく、豊饒な鮮血が床を染め上げていった。
 もちろんオーガが吹き飛ばされる後方では、その余波によってゴーレム達も破壊される。
 動けるゴーレムには、だめ押しでアハトアハトを発射して、確実に破壊。
 
 オーガは得体の知れない存在に挑もうとする姿を見せる事で、味方を奮い立たせたかったのだろうけど、まずはゴーレムを前衛に配置すべきだったと俺は思う。
 だからこその蛮勇発言。

 まったくもって相手にならないとばかりに、赤い帽子を被っている者たち以外は、要塞の奥の方に向かって走り出す。

「情けない! それでも栄えある護衛軍か!」
 と、レッドキャップスの一人に罵声を浴びせられようとも、関係無いとばかりに、一般護衛軍の足は素直だった。
 コトネさんの言っていたように、レッドキャップスに撤退という認識はないようだ。
 森林地帯で出会ったマンティコアのようだな。
 あいつの場合は撤退はしなくても、負けと判断したら急に懐いてきた。
 でも眼前の奴らは、そんな考えを持ち合わせてはいないようだ。

「フリーズランサー」

「フレイムアロー」
 このほかにも多様な魔法が使用される。
 コクリコのファイヤーボールに比べれば、上のクラスの魔法ばかりだろう。
 だが、ティーガー1の装甲にダメージを与えるには至らない。
 それどころか魔法を放つことで、どこの遮蔽物に隠れているかが分かるので、そこへと容赦なくアハトアハトを発射していく。
 発射を繰り返せば、相手の反撃の数が確実に減っていく。

 ――――反撃がやむ。
 大きく長い呼気を行えば、肩の周辺が弛緩するのが分かる。
 圧倒的火力と、圧倒的防御力に守られながらの戦いは、ただの蹂躙だった。
 肩は弛緩しているけど、一度の戦闘で、俺個人でこれだけの命を奪ったのは初めてだったからか、プレイギアを握っている諸手には力が入っていた。
 なのでもう一度、深呼吸を行う――――。

「ご苦労さん」
 ティーガーの側面をカツンとノックするゲッコーさん。
 声は柔らかなものだった。
 俺はティーガーから出るとプレイギアに戻す。

「相手の出鼻はくじけたな」

「ああ」

「ここからは剣戟の音が主体になるだろう」

「おう!」

「いい返事だな。期待するぞ」
 俺が多くの命を簡単に奪ってしまったからか、滅入ってないかベルは心配してくれているんだろうな。
 
 仲間を心配させないためにも、宿った暗い気持ちをかなぐり捨てる。
 なんといっても、本番はこれからなんだから。滅入ったままでは仲間が危険にさらされる。
 意識を切り替えて、俺は残火の鞘を強く握りしめた。
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