上 下
481 / 1,668
レティアラ大陸

PHASE-481【染めて得る】

しおりを挟む
「にしてもだ、後半のゴブリンとオーガが血を求めていたの何だったんだ? 特にゴブリンは鬼気迫るものがあったぞ。ヴァンパイアじゃないのに」
 隣を歩くランシェルに質問をすれば、皆も興味があったようで、ランシェルに視線が向けられる。
 全員の視線を受けて、コホンと咳を一つすれば、

「あれは、強者の血で帽子を染めたいという思いが口に出たのです」

「コトネさんも言っていたな」
 倒した強者の鮮血で帽子を染めるって。
 レッドキャップスに入るための通過儀礼みたいなのが、強者と一対一で戦い、勝利すれば晴れて入隊ってやつだったか。
 で、倒した相手の鮮血で帽子を染め上げるんだよな。
 
「あの帽子は魔装の一つです」

「魔力付与がされているって考えでいいか?」

「はい。赤黒い帽子の正式名称は、敗者の鮮血ビクターマーク
 ――――敗者の鮮血ビクターマーク――――。
 ランシェルの説明では、倒した者の血で帽子を染め上げれば、倒した者の力を帽子に封じることが可能となる。
 従来の力と、帽子の能力で、現状より倍ほどの力を手に入れることが可能なのだそうだ。
 もちろん相手が強ければ強いほど、大きな力を得ることが出来る。
 この場合、倒せればの話になるが。
 強すぎる存在であるベルの血に心を引かれた結果、ゴブリンとオーガは血を欲する発言をしたわけだ。

 敗者の鮮血ビクターマークは倒した相手の鮮血で染めるとその力を得られるが、重複はしないそうで、もし最初に倒した相手より、次の相手が弱く、誤って染め上げれば弱体化につながる。
 上書き保存タイプの魔装だそうだ。

「よかったよ。ショゴスみたいに捕食すればするほど強くなるって装備じゃなくて」

「流石はトール様ですね」
 ランシェルが褒めてくれる。
 何を褒めてくれたのだろうと首を傾げていると、

敗者の鮮血ビクターマークを作り出したのはショゴスです」

「へ~」
 この魔大陸でも高尚な魔道具を製作する存在がいたそうだが、その存在を捕食した事で、物を作る知識を得ることに成功し、作り出したのが赤い帽子。
 
 製作者の力に似たような能力の魔装、敗者の鮮血ビクターマーク
 十全でショゴスの捕食と同じような能力の魔道具を作り出すことは出来ないのだろうか。
 それとも自身と同じような存在を誕生させたくないために、あえて作らないのかは謎だけども、こっちとしては作れるのに作らない選択をしているなら有りがたい。

「――――ついたな」
 ランシェルと話し込んでいたら、目の前にはでかい壁。
 近くで見れば綺麗に切りそろえられた石積み構造。
 ブロックとブロックの隙間にはカミソリ一枚も入りそうにない。
 建築技術の高さが窺える。
 おどろおどろしくて、石積みも適当な感じが、俺が想像する魔王軍の建築物ってものだったけど、眼前のは荘厳な建築物だ。

「さて、門付近まで来たがリアクションはない」

「ですね。こういうのって、大抵が入れば虎口のような感じになっていて、十字砲火をうけるってイメージですよね」

「まあ、城や要塞の作りは得てしてそんなものだろう。で、どうやって開けてもらうんだ」
 ゲッコーさんは俺に質問をしてくるけど、どう開けるかは想像が出来ているようで、笑みを湛えながら窺うスタイルだ。

「ここは派手に行きましょう」
 プレイギアを取り出してからの、

「ティーガー1」
 輝きの中から顕現する、全長が八メートルを超える威風堂々たる鋼鉄の虎を召喚。

「これがシャルナ様が驚いたという鋼鉄の象なのですね」
 初めて目にするランシェルの黄色い瞳は恐れを宿していた。
 アハトアハトを使用すれば恐れは更に増すだろうな。

「みんな離れてて」
 そう告げて俺は乗り込み、第三帝国の凄いヤツを起動させる。
 唸るエンジン音。パーティーを待機させて、大地を揺らす無限軌道により門へと最接近。

「マスターキーで開けさせてもらう」
 木材と、補強の為の格子状の鉄から成る巨大な黒い門に対して砲身を向け、L2トリガーで目標を捕捉。 
 ディスプレイの中に移る円が絞り込まれて、円の色が赤色から緑色になったところでR2トリガーを押し込む。
 ズドンッと、大気を振動させる凶悪な発射音の後、直ぐにガギンッという金属の抉れる音がすれば、左右開きの門の右側部分がくの字になって吹き飛ぶ。
 
 直撃した補強部分の鉄にはいびつな穴が空き、曲がり、木材は木っ端となって一帯に舞い散る。
 一発の発射で右側の門は破壊に成功。
 88mm徹甲弾の威力は、この世界での攻城戦にて、無類の強さを発揮してくれそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...