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極東
PHASE-441【毒針、増殖して再登場】
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戦いに集中できるこの状況は喜ばしいけども、出来る事なら、ここにいる兵士や冒険者の力を借りず、俺たちだけの力で事で終わらせたい。
主にS級さん達の力を見せる事で、俺たち一行の評価を上げておきたい。
今後の対人関係のやり取りをスムーズにしたいからね。
可能なら侯爵にも目にしてもらいたいんだけども、
「侯爵の意識はまだ?」
「ええ、数人のメイド達が世話をしてくれています」
不服そうな表情。
話を耳にする俺としては、なにそれ。羨ましいんですけど。って感想だ。
イリーは未だにサキュバスさん達の事は信用していないようだから、侯爵の周囲には腕っこきの騎士団も配置し、サキュバスさん達が妙な行動を起こさないように監視しているそうだ。
念入りに女騎士による編制。チャーム回避の為だろう。
「じゃあ、侯爵が目覚めた時に都市がありませんでした。とならないように、頑張っていこうか!」
俺なんかが鼓舞したところで。とも思っていたが、S級兵士の皆さんから快活良く返事をもらえた。
連鎖反応とばかりに、兵士や冒険者たちも雄叫びを上げる。
気炎万丈ってやつだ。
後は勝つだけだ。
ぐっと残火の柄を強く握りしぼる。
心配はないと考えているし、多分だけど俺が残火を振るうことはないだろう。
レベル95がどの程度の力なのかを知れば、今後の指標にもなるだろうけど、正直、現状ではまだ戦いたくはない。
と、黙考している矢先に、甲高い鳴き声が遠く離れた空から聞こえてくる。
鷹のようなピィィィィィィィィィィィっという鳴き声だった。
「…………いや、お前が鳴いとるんかい!」
カラス頭のクロウスが、上空に嘴を向けて鳴いているのをビジョンで捕捉。
そこはカァカァとかじゃないのかよ!
合戦開始を伝える鏑矢の如き鳴き声に続いて、鬨の声が上がっている。
「いよいよか」
一人の冒険者が口にする。
両手に持つクロスボウは、自然と後床が肩に当たっている姿勢に変わる。
一人がそうすれば、皆それを真似て同様に構えたり、矢を番える。
射程に入れば、引き金を引いたり、弦を放すという動作に移るだけの状態。
「――――妙だ」
強敵が迫ってくるというのに、何とも緊張感もなく、淡々とした口調なのはもちろんベルだ。
ゲッコーさんから借りた双眼鏡で迫ってくる敵を見やれば、動きに違和感を感じていた。
「確かに」
素人である俺でも理解できる違和感。
てっきり全軍で攻めてくると思ったのに、攻めずに留まっている連中が結構いる。
「全体の二割ほどに動きがない」
「後詰めみたいなもんかな?」
「こちらの方が数で勝っている。相手は全力をもって行動しなければならないんだがな。それだけ自分たちが強いと考えているのか」
頤に手を添えるベルを横で眺めつつ、相手の行動の意味を思案していれば、俺とベルの間にゲッコーさんが入ってきて、
「別の理由があるのかもな」
「その理由は?」
「簡単だ。迫ってくる奴らを倒せば分かる」
「なるほど。じゃあ、倒しましょう」
俺はあえてゲッコーさんではなく、見える範囲のS級さん達に目を向ける。
俺の意図することを理解しているようで、目出し帽から見える目は、任せてもらおうという気概に溢れた強いもの。
「トール、余裕だね」
流石に三爪痕の軍勢が攻めてくるという脅威には、ハイエルフのシャルナでも緊張を隠せないでいる。
別段、余裕ではない。
相手の動きも気になるし、高レベルの存在が結構いると考えると、脅威でしかない。
平常心を保てているのは、相手が高レベルであろうとも、それらを撃滅してくれる力を有した方々が、今回は多数いるからだ。
それに余裕という発言は俺ではなく、壁上の縁に立って、ポージングにてスタンバっているコクリコに言ってやるべき台詞だろうな。
いつでも来いって感じだが、多分だけど、お前のノービスが一切通用しない相手ばかりだと思う。
ギョワギョワ。ギャアギャアと、独特の鬨の声を上げつつ接近してくる翼幻王の軍勢。
壁上から見て、距離にして約二キロ地点を飛翔。
「射程範囲は?」
俺はそこんとこが詳しくない。
質問には主語が含まれていないが、
「好天だしな。八キロは問題ない。四キロ以内なら更に問題ない。まず外さない」
ゲッコーさんの返答は本当に問題ないという気持ちを俺に与えてくれる。
相手からしたら、自分たちに何が起こったのか理解する前に終わってしまうだろうな。
両手を合わせて迫ってくる敵に対して、
(安らかに)
と、心の中で念仏を唱えた。
「アンダー・コー、射撃準備。迫ってくる者たちだけをターゲットとする」
ゲッコーさんの指示がS級さん全員に飛ぶ。
即座に宙空より百一人が手にするのは――、王都防衛戦にてゲッコーさんがヒッポグリフに使用した兵器。
FIM-92 スティンガー地対空ミサイル。
主にS級さん達の力を見せる事で、俺たち一行の評価を上げておきたい。
今後の対人関係のやり取りをスムーズにしたいからね。
可能なら侯爵にも目にしてもらいたいんだけども、
「侯爵の意識はまだ?」
「ええ、数人のメイド達が世話をしてくれています」
不服そうな表情。
話を耳にする俺としては、なにそれ。羨ましいんですけど。って感想だ。
イリーは未だにサキュバスさん達の事は信用していないようだから、侯爵の周囲には腕っこきの騎士団も配置し、サキュバスさん達が妙な行動を起こさないように監視しているそうだ。
念入りに女騎士による編制。チャーム回避の為だろう。
「じゃあ、侯爵が目覚めた時に都市がありませんでした。とならないように、頑張っていこうか!」
俺なんかが鼓舞したところで。とも思っていたが、S級兵士の皆さんから快活良く返事をもらえた。
連鎖反応とばかりに、兵士や冒険者たちも雄叫びを上げる。
気炎万丈ってやつだ。
後は勝つだけだ。
ぐっと残火の柄を強く握りしぼる。
心配はないと考えているし、多分だけど俺が残火を振るうことはないだろう。
レベル95がどの程度の力なのかを知れば、今後の指標にもなるだろうけど、正直、現状ではまだ戦いたくはない。
と、黙考している矢先に、甲高い鳴き声が遠く離れた空から聞こえてくる。
鷹のようなピィィィィィィィィィィィっという鳴き声だった。
「…………いや、お前が鳴いとるんかい!」
カラス頭のクロウスが、上空に嘴を向けて鳴いているのをビジョンで捕捉。
そこはカァカァとかじゃないのかよ!
合戦開始を伝える鏑矢の如き鳴き声に続いて、鬨の声が上がっている。
「いよいよか」
一人の冒険者が口にする。
両手に持つクロスボウは、自然と後床が肩に当たっている姿勢に変わる。
一人がそうすれば、皆それを真似て同様に構えたり、矢を番える。
射程に入れば、引き金を引いたり、弦を放すという動作に移るだけの状態。
「――――妙だ」
強敵が迫ってくるというのに、何とも緊張感もなく、淡々とした口調なのはもちろんベルだ。
ゲッコーさんから借りた双眼鏡で迫ってくる敵を見やれば、動きに違和感を感じていた。
「確かに」
素人である俺でも理解できる違和感。
てっきり全軍で攻めてくると思ったのに、攻めずに留まっている連中が結構いる。
「全体の二割ほどに動きがない」
「後詰めみたいなもんかな?」
「こちらの方が数で勝っている。相手は全力をもって行動しなければならないんだがな。それだけ自分たちが強いと考えているのか」
頤に手を添えるベルを横で眺めつつ、相手の行動の意味を思案していれば、俺とベルの間にゲッコーさんが入ってきて、
「別の理由があるのかもな」
「その理由は?」
「簡単だ。迫ってくる奴らを倒せば分かる」
「なるほど。じゃあ、倒しましょう」
俺はあえてゲッコーさんではなく、見える範囲のS級さん達に目を向ける。
俺の意図することを理解しているようで、目出し帽から見える目は、任せてもらおうという気概に溢れた強いもの。
「トール、余裕だね」
流石に三爪痕の軍勢が攻めてくるという脅威には、ハイエルフのシャルナでも緊張を隠せないでいる。
別段、余裕ではない。
相手の動きも気になるし、高レベルの存在が結構いると考えると、脅威でしかない。
平常心を保てているのは、相手が高レベルであろうとも、それらを撃滅してくれる力を有した方々が、今回は多数いるからだ。
それに余裕という発言は俺ではなく、壁上の縁に立って、ポージングにてスタンバっているコクリコに言ってやるべき台詞だろうな。
いつでも来いって感じだが、多分だけど、お前のノービスが一切通用しない相手ばかりだと思う。
ギョワギョワ。ギャアギャアと、独特の鬨の声を上げつつ接近してくる翼幻王の軍勢。
壁上から見て、距離にして約二キロ地点を飛翔。
「射程範囲は?」
俺はそこんとこが詳しくない。
質問には主語が含まれていないが、
「好天だしな。八キロは問題ない。四キロ以内なら更に問題ない。まず外さない」
ゲッコーさんの返答は本当に問題ないという気持ちを俺に与えてくれる。
相手からしたら、自分たちに何が起こったのか理解する前に終わってしまうだろうな。
両手を合わせて迫ってくる敵に対して、
(安らかに)
と、心の中で念仏を唱えた。
「アンダー・コー、射撃準備。迫ってくる者たちだけをターゲットとする」
ゲッコーさんの指示がS級さん全員に飛ぶ。
即座に宙空より百一人が手にするのは――、王都防衛戦にてゲッコーさんがヒッポグリフに使用した兵器。
FIM-92 スティンガー地対空ミサイル。
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