409 / 1,668
極東
PHASE-409【ルーマニアが発祥地というわけではない】
しおりを挟む
「次はどうするの」
ファイアフライを唱えてくれたシャルナは直ぐさま左手で弓を握り、右手には矢を持ち、後は番えるだけといったところ。
ベルはレイピアを抜剣。
コクリコも貴石を輝かせたワンドを手にし、いつでも迎え撃つといったろころ。
ゲッコーさんは――――、流石だ。
麻酔銃を手にしていた。メイドさん達が無理矢理に戦わされているって事を考慮してくれている。
じゃあ、俺も――――、
佩刀する残火を鞘ごと腰から外し、鞘に収めたまま柄を握る。
「甘いかもしれないけど、どうしてもメイドさん達は不殺でいきたい。迷惑かけるから先に謝っとく」
「無理にソフトキルを貫き通すなよ。彼は強い。先ほどのトールへの打ち込み。間合いに入ってくる身のこなしは一流のものだ。あと素手の方が強い」
ゲッコーさんの後半の発言を耳にして、俺の見立ては間違っていなかった。と、伝説の兵士に俺自身が褒められたみたいな気がして、嬉しくて口元が緩んでしまう。
やはりランシェルちゃんは徒手空拳タイプだよね。
でも前半の発言は申し訳ないけど、俺は無理を貫き通したい。
彼女を可能な限り無傷で行動不能にしたいところ。
彼女だけでなく、他のメイドさん達も。
「まあ、いいだろう。あの侯爵殿はメイドを道具のように使うようだしな」
いつもなら覚悟が足りないとか言うベルだが、女性蔑視に対して不快感を抱いたらしく、俺に賛同してくれる。
シャルナも賛同。
内のギルドの風紀委員だからな。この二人は。
「道具のように使って何が悪いのか。美姫よ。出来れば貴女とハイエルフは私の物になってもらいたい」
おっと、虎の尾を踏むとは正にこの事。
執務室から出て来れば、ゆったりとした歩みでメイドさん達の前に立ち、余裕ある発言をする侯爵。
愚かな発言でベルの怒りを買ったな。
「――――なるほど」
一言ベルが返事をするが、それはとても冷たい声音だった。
ベルを中心にゾワリという擬音が聞こえてきそうなプレッシャーが発生すれば、不可視の壁がドーム状に広がりを見せるようにして、ゲッコーさんを除く俺たちパーティーと、メイドさん達が、ベルを中心にして一歩後退する。
でもって、何となく底冷えがするし、緊張で喉が渇く……。
「よ、余計なことを言ったな侯爵」
味方のプレッシャーで俺の声は喉にへばりついてしまったらしく、出しにくかった……。
「だ、黙れっ!」
俺に指摘を受ければ、侯爵もベルのプレッシャーを受けていたようで、同様に声が喉にへばりついていたようだ。
小者感が出ちゃった………………な?
――…………。
「……オンオン!?」
「気付いたか」
と、ゲッコーさん。
「侯爵」
声を整えてから俺は問う。
「何かな?」
侯爵も声を整えてから返してくる。
「…………あんた、鏡の世界の自分を執務室に置いてきてるぜ」
「何とも詩的な台詞だね。まあ、安い詩だが」
「ほっとけ!」
分かったことがある。
「お前、本当に侯爵か?」
「正真正銘ね」
おう、不敵な笑みと共に返してくるね。
その笑みは、虚言を発していると判断したいところ。
「本物の侯爵はどこだ」
「だから、ここにいる」
にゃろ! 絶対に嘘だね。
メイドさん達を飛び越えて、あのエセ侯爵の元に攻め込みたいところ。
「落ち着け」
侯爵だけを注視して、視野が狭まっているとベルからの指摘。
このまま突っ込めば、メイドさん達から側面攻撃を受けることになるもんな。
「あながち嘘じゃないかもしれんぞ」
お互いが睨み合っている中で、ゲッコーさんが煙草を吸い始める。
嘘ではない。あれは侯爵で間違いないのだろう。と、ゲッコーさんは推測。
対して侯爵は鷹揚に頷く。
では、侯爵は最初から人間ではなかったということなのだろうか? 鏡に映らない時点で魔族的なものと判断していいよね。
「この世界はファンタジーだからな。侯爵に何かしらが取り憑いているって可能性もあるだろう」
「なるほど」
「で、鏡に映らない怪物といえば、ブラム・ストーカー原作でも有名だな」
紫煙を燻らせて佇むゲッコーさんが口にする人名は、ゲッコーさんと俺しか分かっていない。
ベルのゲーム世界はWW1をベースにしているが、架空の世界だから知らなくて当然だし、コクリコにシャルナだけでなく、相対するメイドさん達も知らなくて当たり前。
「ブラム・ストーカーとは誰かな?」
侯爵も気になったのか、問うてくる。
「ドラキュラって本を書いた人だよ。お前――――ヴァンパイアだろ」
ビシリと食指を向ける俺は、じっちゃんの名にかけたり、真実はいつも一つな、名探偵たちを模倣した所作だった。
ファイアフライを唱えてくれたシャルナは直ぐさま左手で弓を握り、右手には矢を持ち、後は番えるだけといったところ。
ベルはレイピアを抜剣。
コクリコも貴石を輝かせたワンドを手にし、いつでも迎え撃つといったろころ。
ゲッコーさんは――――、流石だ。
麻酔銃を手にしていた。メイドさん達が無理矢理に戦わされているって事を考慮してくれている。
じゃあ、俺も――――、
佩刀する残火を鞘ごと腰から外し、鞘に収めたまま柄を握る。
「甘いかもしれないけど、どうしてもメイドさん達は不殺でいきたい。迷惑かけるから先に謝っとく」
「無理にソフトキルを貫き通すなよ。彼は強い。先ほどのトールへの打ち込み。間合いに入ってくる身のこなしは一流のものだ。あと素手の方が強い」
ゲッコーさんの後半の発言を耳にして、俺の見立ては間違っていなかった。と、伝説の兵士に俺自身が褒められたみたいな気がして、嬉しくて口元が緩んでしまう。
やはりランシェルちゃんは徒手空拳タイプだよね。
でも前半の発言は申し訳ないけど、俺は無理を貫き通したい。
彼女を可能な限り無傷で行動不能にしたいところ。
彼女だけでなく、他のメイドさん達も。
「まあ、いいだろう。あの侯爵殿はメイドを道具のように使うようだしな」
いつもなら覚悟が足りないとか言うベルだが、女性蔑視に対して不快感を抱いたらしく、俺に賛同してくれる。
シャルナも賛同。
内のギルドの風紀委員だからな。この二人は。
「道具のように使って何が悪いのか。美姫よ。出来れば貴女とハイエルフは私の物になってもらいたい」
おっと、虎の尾を踏むとは正にこの事。
執務室から出て来れば、ゆったりとした歩みでメイドさん達の前に立ち、余裕ある発言をする侯爵。
愚かな発言でベルの怒りを買ったな。
「――――なるほど」
一言ベルが返事をするが、それはとても冷たい声音だった。
ベルを中心にゾワリという擬音が聞こえてきそうなプレッシャーが発生すれば、不可視の壁がドーム状に広がりを見せるようにして、ゲッコーさんを除く俺たちパーティーと、メイドさん達が、ベルを中心にして一歩後退する。
でもって、何となく底冷えがするし、緊張で喉が渇く……。
「よ、余計なことを言ったな侯爵」
味方のプレッシャーで俺の声は喉にへばりついてしまったらしく、出しにくかった……。
「だ、黙れっ!」
俺に指摘を受ければ、侯爵もベルのプレッシャーを受けていたようで、同様に声が喉にへばりついていたようだ。
小者感が出ちゃった………………な?
――…………。
「……オンオン!?」
「気付いたか」
と、ゲッコーさん。
「侯爵」
声を整えてから俺は問う。
「何かな?」
侯爵も声を整えてから返してくる。
「…………あんた、鏡の世界の自分を執務室に置いてきてるぜ」
「何とも詩的な台詞だね。まあ、安い詩だが」
「ほっとけ!」
分かったことがある。
「お前、本当に侯爵か?」
「正真正銘ね」
おう、不敵な笑みと共に返してくるね。
その笑みは、虚言を発していると判断したいところ。
「本物の侯爵はどこだ」
「だから、ここにいる」
にゃろ! 絶対に嘘だね。
メイドさん達を飛び越えて、あのエセ侯爵の元に攻め込みたいところ。
「落ち着け」
侯爵だけを注視して、視野が狭まっているとベルからの指摘。
このまま突っ込めば、メイドさん達から側面攻撃を受けることになるもんな。
「あながち嘘じゃないかもしれんぞ」
お互いが睨み合っている中で、ゲッコーさんが煙草を吸い始める。
嘘ではない。あれは侯爵で間違いないのだろう。と、ゲッコーさんは推測。
対して侯爵は鷹揚に頷く。
では、侯爵は最初から人間ではなかったということなのだろうか? 鏡に映らない時点で魔族的なものと判断していいよね。
「この世界はファンタジーだからな。侯爵に何かしらが取り憑いているって可能性もあるだろう」
「なるほど」
「で、鏡に映らない怪物といえば、ブラム・ストーカー原作でも有名だな」
紫煙を燻らせて佇むゲッコーさんが口にする人名は、ゲッコーさんと俺しか分かっていない。
ベルのゲーム世界はWW1をベースにしているが、架空の世界だから知らなくて当然だし、コクリコにシャルナだけでなく、相対するメイドさん達も知らなくて当たり前。
「ブラム・ストーカーとは誰かな?」
侯爵も気になったのか、問うてくる。
「ドラキュラって本を書いた人だよ。お前――――ヴァンパイアだろ」
ビシリと食指を向ける俺は、じっちゃんの名にかけたり、真実はいつも一つな、名探偵たちを模倣した所作だった。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
婚約破棄は結構ですけど
久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」
私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。
「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」
あーそうですね。
私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。
本当は、お父様のように商売がしたいのです。
ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。
王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。
そんなお金、無いはずなのに。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる