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極東

PHASE-406【確定で嫌なヤツ】

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「約束は反故とする」

「「そんな!」」
 おっと、侯爵だけでなく、ランシェルちゃんと、先ほど彼女を救い出したコトネさんの声もする。
 流れからして――――、

「あれは無理に指示されているって感じだよね」
 小声で皆に問えば、ここでも首肯がそろって返ってくる。
 なんだろう、ちょっとした安堵感がある。
 ランシェルちゃんが完全なる敵じゃないという事が何となくだが理解できた。
 といっても、扉前で話を少し聞いた程度だけどさ。

 しかし傀儡とはね。ハニートラップを童貞の俺に使用してくるなんてな。
 ――……絶大な効果を発揮したのは確かだな。
 俺の部屋の前で、連日ランシェルちゃんが待機していたって話を聞けば、エロエロの夢を見せていたのはランシェルちゃんの可能性が高い。
 ランシェルちゃんが行動していた時期に、エロエロの夢を見ているわけだし。
 俺の夢に干渉できる魔法なんかを使用していたと仮定できる。
 流石はファンタジー。
 怖いぞファンタジー。

「勇者を傀儡に出来る可能性が無くなったと想定し、甚だ不本意ではあるが、直接手を下すしかないか――」
 侯爵の声音が暗さを纏う。
 仄暗さは、明らかに俺たちを始末するというのをランシェルちゃんとコトネさんに伝えるものだった。
 低い声になっても、外にいる俺たちの耳朶にもしっかりと届くところに、抹殺の決意が窺えるね。
 聞かされる俺としては、ふざけた事を言ってくれるもんだ。という感想だが。

 なので――――、

「オラッ!」
 ドアを蹴破ってのダイナミック入室を実行。

「……これは勇者殿。こんな夜分に随分と無粋な」

「おいおい、さっきまで怒鳴っていたのに、急に紳士的な口調ですな。誰に直接手を下すって?」
 聞かれていたかとばかりに、沈黙の帳が降りる。
 降りたのも束の間。わずかな静寂をやぶるように、「チッ」と舌打ちが執務室に響く。
 小さな舌打ちだったが、夜という事もあり、周囲の音がないことからよく響いた。
 舌打ちの発信源はもちろん侯爵。
 扉越しの会話だけでなく、態度を直接目にしたことで、十中八九から確定で黒となった。
 俺の装備による討伐者第一号にしてやろう。
 まあ、大貴族だし、鞘で成敗してやる。

「おおかた俺を傀儡にして、自分が王様にとって変わるつもりだったんだろう」
 この流れからして、野心が原因だと推理。
 言い訳は王様の前で語るんだな。王都まで連れて行くのが面倒だけど。
 
「フッ」
 おっと、鼻で笑ってきやがったよ。
 生意気なおっさんだ。骨の一本くらいはたたき折ってやろう。

「ランシェル」
 ここで侯爵が名を口にする。
 同時に俺は呼ばれた人物を見れば、ブルブルと震えていた。

「貴様の責任だ。この者達を葬れ。この領地から絶対に出すな」
 おうおう、随分と物騒な事を口にするな。
 この領地の兵達が俺たちを包囲したら、こちらとしてもかなりきつい状況になるだろうな。
 戦いにおいて、数の暴力は古今最強だからな。
 出来る事ならそうなる前に、この謀反人を捕らえたいところだ。
 
「どうした。震えてないで従え」
 嫌なんだな。動こうとしないのが少しもの抵抗なんだろう。
 うん、やっぱりランシェルちゃんは良い子なんだなと安堵する。

「ランシェルちゃん」
 今度は俺が名前を呼ぶ。
 侯爵に呼ばれた時と違って震えはしないけど、罪悪感に苛まれた表情で俺を見たとたんに、顔を伏せてしまった。
 直視する事が出来ないんだな。
 間違いなくこの子は悪い子じゃない。

「そんなおっさんの言ってる事に、耳をかさなくていいよ」

「黙れ勇者!」

「お前こそ黙れ謀反人。俺はランシェルちゃんと話してんだよ」

「謀反人とは、的外れもいいところだな」

「外れているとは思わないけどな。その辺は拘束してから聞かせてもらう。当たり前だけど――――、領地は没収じゃい!」
 ビシリと決めたつもりだったが、こちらを見下したかのような、ほくそ笑んだ表情だけが返ってきた。
 いや~、こんなにも不快なヤツだったとはね。
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