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極東
PHASE-397【不快なヤツ】
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「連れて行きますよ」
「どうぞ」
「ランシェルちゃん。立てる?」
「……は……い」
震えた声が返ってきた。
肩を貸しながらドアを目指す。
この間も、俺は侯爵から目を離さない。
濃い金眼は先ほどから変わらず、冷たさを伝える捕食者のもの。
俺たちに仕掛けないようにと、俺も睨み返しながら部屋を出る。
終始、口角の上がった余裕の笑みを湛える姿には、嫌悪感しか湧かなかった。
執務室から出た途端だった――。
「ランシェルちゃん!?」
マリオネットの糸が切れたように、膝から崩れ落ちるようにして力なく倒れ込む。
触れればぶるぶると震えていた。
これは肉体的というより、精神的な恐怖から動けなくなったと考えるべきか。
肩を貸すだけじゃ駄目かも。
と、考えていれば、
「お大事に」
「あ!」
開いたドアの隙間から、口端の上がった不敵な笑みを見せて、不快な一言を投げ捨てるように発すると、侯爵はドアを閉める。
殺意にも似た悪感情に支配されそうになるが、今はそれどころではない。
「嫌じゃなければ、背負うけど」
しゃがんでランシェルちゃんに背中を見せる。
女の子が異性――、しかも別に好きでもない男に背負われるのは、抵抗があるかもしれないけど、そうは言ってられないからな。
接し方からして、俺は嫌われてはいないだろうが。
「結構……です。ご迷……わ……くをかけ……」
「いいから!」
喋るのもやっとじゃないか。
無理矢理にでも背負えば、掠れるような声で、ありがとうがとうございますと返してきた。
耳元での声だったけど、集中していないと聞こえないくらいに、小さいものだった。
心身共にダメージが大きい。
「そうだ、俺ポーション持ってるよ」
「だめ……です……。希少なも……の」
「いやいや、こういう時に使わないと」
と言っても、頑なに拒んでくる。
使ってなんぼなんだが、希少な物は使わなくても治ると頑なに言うので、
「ならシャルナだ」
あいつなら回復魔法を使える。しかもファーストエイドよりも上位魔法を使えるはず。
俺には使ってくれなかったけども。
可能なかぎり揺らさないように、でも素早く広間まで移動。
道に迷った結果、執務室にたどり着いた俺は、情けないが帰り道を知らない。
なので、しんどいだろうけどランシェルちゃんにガイドをしてもらいながら、大広間を目指した――――。
「おおい!」
扉を体で押すような気概で開き。
皆が未だ、広間にいるかを確認。
見渡せば、皆してゆったりと時間を過ごしているのは理解できた。
「どうしたのだ」
つと椅子から立ち上がるベル。
ゲッコーさんは閉じていた両目の片方だけを開いて、こちらの様子を窺う。なんであんなに冷静なのだろう。
「シャルナ!」
付き合いもそこそこ長くなった間柄。
名前を呼ぶだけでこちらへと素早く近づけば、諸手を俺の背負うランシェルちゃんに向け――、
「ヒール」
と、唱えれば、ランシェルちゃんの体を液体のような魔法が包み込む。
水と土のネイコスを使用する魔法である、ファーストエイドの上位に位置する魔法だそうで、水と風のネイコスからなる回復魔法。
体を包む液体状の魔法が、ランシェルちゃんの傷を見る見るうちに治していく。
上位に位置するだけあって、回復速度と効果の大きさは、ファーストエイドを凌駕する魔法だった。
「すげ~」
感嘆の声を上げていれば、ランシェルちゃんが自らの力で立ち上がる。
「あ、ありがとう。ございます……」
傷は癒えたけど、精神的なダメージは残っているようで、何とか立っているといった感じ。
なので俺が体を支えて上げる。
ランシェルちゃんの両肩に手を当てて支える形だ。
――――華奢な体だ。
こんな小柄で細身の体に暴力を振るうなんて。
「侯爵!」
怒りの発露が声となって出てしまう。
俺たちが助力を願おうとしている人間は、こういう力のなさそうな女の子に、力を振るう存在だったわけだ!
「どうぞ」
「ランシェルちゃん。立てる?」
「……は……い」
震えた声が返ってきた。
肩を貸しながらドアを目指す。
この間も、俺は侯爵から目を離さない。
濃い金眼は先ほどから変わらず、冷たさを伝える捕食者のもの。
俺たちに仕掛けないようにと、俺も睨み返しながら部屋を出る。
終始、口角の上がった余裕の笑みを湛える姿には、嫌悪感しか湧かなかった。
執務室から出た途端だった――。
「ランシェルちゃん!?」
マリオネットの糸が切れたように、膝から崩れ落ちるようにして力なく倒れ込む。
触れればぶるぶると震えていた。
これは肉体的というより、精神的な恐怖から動けなくなったと考えるべきか。
肩を貸すだけじゃ駄目かも。
と、考えていれば、
「お大事に」
「あ!」
開いたドアの隙間から、口端の上がった不敵な笑みを見せて、不快な一言を投げ捨てるように発すると、侯爵はドアを閉める。
殺意にも似た悪感情に支配されそうになるが、今はそれどころではない。
「嫌じゃなければ、背負うけど」
しゃがんでランシェルちゃんに背中を見せる。
女の子が異性――、しかも別に好きでもない男に背負われるのは、抵抗があるかもしれないけど、そうは言ってられないからな。
接し方からして、俺は嫌われてはいないだろうが。
「結構……です。ご迷……わ……くをかけ……」
「いいから!」
喋るのもやっとじゃないか。
無理矢理にでも背負えば、掠れるような声で、ありがとうがとうございますと返してきた。
耳元での声だったけど、集中していないと聞こえないくらいに、小さいものだった。
心身共にダメージが大きい。
「そうだ、俺ポーション持ってるよ」
「だめ……です……。希少なも……の」
「いやいや、こういう時に使わないと」
と言っても、頑なに拒んでくる。
使ってなんぼなんだが、希少な物は使わなくても治ると頑なに言うので、
「ならシャルナだ」
あいつなら回復魔法を使える。しかもファーストエイドよりも上位魔法を使えるはず。
俺には使ってくれなかったけども。
可能なかぎり揺らさないように、でも素早く広間まで移動。
道に迷った結果、執務室にたどり着いた俺は、情けないが帰り道を知らない。
なので、しんどいだろうけどランシェルちゃんにガイドをしてもらいながら、大広間を目指した――――。
「おおい!」
扉を体で押すような気概で開き。
皆が未だ、広間にいるかを確認。
見渡せば、皆してゆったりと時間を過ごしているのは理解できた。
「どうしたのだ」
つと椅子から立ち上がるベル。
ゲッコーさんは閉じていた両目の片方だけを開いて、こちらの様子を窺う。なんであんなに冷静なのだろう。
「シャルナ!」
付き合いもそこそこ長くなった間柄。
名前を呼ぶだけでこちらへと素早く近づけば、諸手を俺の背負うランシェルちゃんに向け――、
「ヒール」
と、唱えれば、ランシェルちゃんの体を液体のような魔法が包み込む。
水と土のネイコスを使用する魔法である、ファーストエイドの上位に位置する魔法だそうで、水と風のネイコスからなる回復魔法。
体を包む液体状の魔法が、ランシェルちゃんの傷を見る見るうちに治していく。
上位に位置するだけあって、回復速度と効果の大きさは、ファーストエイドを凌駕する魔法だった。
「すげ~」
感嘆の声を上げていれば、ランシェルちゃんが自らの力で立ち上がる。
「あ、ありがとう。ございます……」
傷は癒えたけど、精神的なダメージは残っているようで、何とか立っているといった感じ。
なので俺が体を支えて上げる。
ランシェルちゃんの両肩に手を当てて支える形だ。
――――華奢な体だ。
こんな小柄で細身の体に暴力を振るうなんて。
「侯爵!」
怒りの発露が声となって出てしまう。
俺たちが助力を願おうとしている人間は、こういう力のなさそうな女の子に、力を振るう存在だったわけだ!
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