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極東

PHASE-371【隣のメイドさんが可愛すぎる件】

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「ところで姫様は」
 話題を変えての対処を試みる。
 
「そうでしたな。白髪の美女に心を奪われてしまい、それ以外が虚空へと飛んでおりました」
 そんなことを言えばベルが喜ぶと思っているようだが、それを言われて喜ぶ対象は、愛玩のモフモフ達からの場合だけだろう。
 ただ、飾りっ気もなくサラッとくさい台詞を言えるところは、男として学びたくもある。

「姫はご健在です。既に聞いているでしょうが、私が使用していた本邸で生活をしています。政務の手伝いをしてくださりましてな。本日は休暇を取っております。急ぎ拝謁したいでしょうが、久しぶりの休暇なので、会うのは明日以降にしていただきたい」

「無事どころか、政務までこなしているほどご健在と聞けば、こちらも安心します」

「流石は王の血を引く御方と、毎日が感嘆ですよ。――お、手が寂しそうですな。ランシェル、勇者殿に食事をよそって上げなさい」

「畏まりました」
 言われれば、座ったまま一礼をする、俺の隣にいる八重歯っ子のメイドさん。
 ランシェルっていうのか。可愛いな~。
 優雅でありながら、素早く皿へと食事をよそう動きは大したもの。
 目が合えば、ニコリと笑みを返してくれる。
 ――――これですよ! これ! 俺に必要なの!
 可愛い女の子が俺の為に甲斐甲斐しく世話をしてくれるっていう環境。

「どうぞ」
 手渡される皿。俺を真っ直ぐに見る黄色い瞳は、宝石のシトリンのように美しく、魅入ってしまう。

「あの……そんなに見つめられると、照れてしまいます」
 くぅぅぅぅぅぅ。
 俺は心の中で幸せの悶絶をする。
 恥じらうメイドさんとか可愛すぎだろ。
 しかも皿を受け取る時に手に触れてしまった。
 柔らかいよ~。可愛いよ~。
 本当は口に出したいが、勇者がそんなことを口に出すのはよくないのである。

「ニタニタと」

「違うぞベル。これはニヤニヤだ」
 指摘されても慌てることなく余裕を持って返すことで、聞く者にはユーモアとして受け取ってもらえるのだ。
 はたして正に、可愛いメイドのランシェルちゃんはクスクスと笑ってくれる。
 この可愛い笑みで、メイドさんの中で一番のお気に入りになりました。
 今なら推しメンに多額のお金を投入している人達の気持ちの一片を理解できた気がした。
 いや~、ランシェルちゃんと仲良くなりたい!
 この子を次期メイド長に推薦したいです!

「ふぅわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 ――……まったく。俺が気分良くしている時に、コクリコが馬鹿まる出しの声を上げている。
 さっきまでしがんでいた骨が、ぽっかりと開いた口が原因で床に落ちてる。
 へんてこな声を上げるコクリコの視線を追えば、湯気を濛々と上げながら運んでこられるもの――――、

「おお……」
 肉だ。元々、目の前にもあったが、高杯に盛られた肉は部位だけだった。
 今現在ここに運ばれてくるのは、でっかい皿に乗った、ほぼまるまる一頭の肉の塊だ。
 上腕二頭筋が立派な男二人が、やっとこさで運んで来ている。

 あの大きさ、存在感。コクリコが興奮するのも仕方がないことだな。というか、朝食で持ってくるものかね?

「分厚くお願いします!」
 興奮に染まるコクリコに、運んで来た二人は引き気味だ。

「薄く切るからいいんだぞ」
 と、ゲッコーさんが言ったところで、

「けちくさい食べ方ですよ。そんなのは」
 お里が分かる発言だぜ。

「薄く切るといっぱい食べられるぞ」
 ゲッコーさんに続けば、

「分厚く切って、いっぱい食べます」
 何を言っても無駄だという事は分かった。
 
 ――…………まあ、皆して黙るよね。
 凄いぞコクリコ選手。ここまで来ると、見ていて気持ちがいい。
 コイツ一人で肉の塊の殆どを平らげた……。

「すみません。こういうヤツでして」

「い、いえいえ。流石は勇者殿のお供の方ですな……」
 侯爵、完全に呆れてるよ。いや、これは引いてるな……。
 やっぱり、身内の粗相ほど恥ずかしいものはないな……。

「御代わりのほうは」
 暴食の存在に比べて、俺の隣で甲斐甲斐しく世話をしてくれるランシェルちゃんのなんと可愛いことか。
 胸はコクリコとどっこいどっこいでも、人としての品性が違いすぎる。
 
 流石に酒ばかりを飲んでいたので、ここいらでお茶か水をと頼めば、俺から距離を取ってから立ち上がり、準備をしてくれる。
 埃がたたない配慮なんだろうな。本当によく出来た子だ。
 ――グラスに注がれた杏色の飲み物をもらう。

「――――ん? なんか変わった味だね。美味しいけど」

「この辺りではよく飲まれるハーブティーです。悪酔いの防止になるんですよ」
 確かにキリッとした味だ。
 氷で冷やしていたようで、冷たくて美味しい。
 酒で火照った体をクールダウンさせるには丁度いいお茶だった。
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