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極東
PHASE-363【自分磨きが出来ないと、信頼はされない】
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境界線? それがどうした。
俺は――、覗き魔だぞ。
つまりは、境界線を破壊する者だ。
「はい、ごめんなさいよ」
目に見えない境界線を作り出したのは俺だ。
いちいちビビってられない。ゆったりとした足取りで構える兵達の前に俺は足を進めた。
いや~。この余裕。まじで俺TUEEEじゃないですか。
こんなにも愉悦に浸れるんだな。
そういう気分になりたいから、俺はそんな小説を好んで読んでたわけだし。それを現在、リアルでも体験している。
たまらないものがあるが、ここは気を引き締めないとな。
チラリと後方を見れば、ベルの炯眼が俺に向けられる。
調子に乗ると、どれだけ頑張っても覆せない存在から、痛い目に遭わされるからね。
以前のボコボコの記憶が蘇って、身震いしてしまう。
新たな転生先ではスローライフ生活をと考えるくらいに、死が間近まで迫ってたもんな……。
「このギミックを壊したのは申し訳ないが、元々はそっちに問題があるからね」
優しい笑みを湛えての発言。
本来ならピリアを発動しといた方がいいんだろうが、戦闘目的でもないのにピリアを使用すれば、更なる刺激を与えかねないから、笑みだけを向ける。
「おのれ魔王軍の尖兵め」
最も後ろにいながら口だけは達者なんだからな……。ジュリセン……。
「尖兵じゃないよ。勇者だよ」
「お前みたいな平凡な顔をした勇者がいるか!」
――……こいつ……。
実を言うと、俺の精神世界を攻撃するのが目的なんじゃないだろうか?
怒りよりも悲しみの方が大きく占める俺の円グラフ……。
――……境界線をやぶっても、結局は堂々巡りで進展はない。
「やれやれ」
ドアが開くと同時に、落胆の声が背後から俺の耳朶に届いてくる。
俺の円グラフは、悲しみによる割合が増える。
ベルさんが仕方ないとばかりに助手席から外へと出る。
槍、装填し終わったクロスボウ。構えられていたそれらが地面へと向けられた。
――――魅入っている。
ハンヴィーよりまず出てきたのはスラリとした長い足。
そこからゆっくりとスタイル抜群の全体が出て来れば、魅入ってしまうのも仕方ない。
体のラインに沿ったタイトな軍服と、スリーブレスを覆うケープは美しさを際立たせる白。
長く輝く白い髪も相まって、兵達は完全に美しさに目を奪われていた。
先ほどまで俺の事を散々に疑っていたジュリセンも、口をぽっかりと開けて魅入っている。
車内越しに見るのと違って、生身を目にすれば、それだけで戦う気が削がれた様子だ。
やはりベルは、パッシブスキルでチャームを所持しているのかもしれない。
加えて佇まいは軍人として威風堂々。
上から引っ張られているかのように真っ直ぐに伸びた背筋と、切れ長の目で全体を見渡せば、威厳に当てられた兵達は、魅入るのと同時に背筋が伸びる。
俺には備わってない、美貌と威厳とカリスマ性。
「いいだろうか?」
と、一言。芯のあるしっかりとして透き通った声で問いかければ、眼前の兵達は息を合わせたように、首肯で返してきた。
本当に、俺とベルは天壌の差だな。
「私はベルヴェット・アポロ。彼の発言は真実だ。見た目は――――装備を除いた見た目はアレだが、信じていい。我々は王都ロン・ダリアスより、現王ラスター・フロイツ・コールブランド殿下の願いを聞き入れるために、辺境防備官、侯爵エンドリュー・アルジャイル・ハーカーソンス閣下が鎮護するこの城郭都市ドヌクトスへと参じた」
見た目の部分は訂正しなくてもいいんだよ……。そもそも口に出さなくていいんだよ……。
しかしまあベルは凄いね。スラスラと王様と侯爵のフルネームが出て来るんだから。
俺なんて全くもって覚えてないよ。
王様は王様。侯爵は侯爵だから。
そんなんだから目の前の兵士たちには信じてもらえないんだろうな~。
ベルみたいに細かく丁寧に述べていれば、悶着も起きなかったのだろうか? でも聞く耳持たなかったのも事実だし。
やはり魅力か……。
魅力が無かったとしても――――だ、最低限の挨拶やら社交辞令は覚えておかないといけないな。会頭として。
「どうか、手にする道具を収めて欲しい」
格好いい。あえて武器と言わずに、道具と言うところが格好いい。
相手を刺激しない言い方なんだろうな。
十八という若さで、帝国にて三千の兵を預かり指揮する中佐殿は違いますな。
「どうしたのだこの騒ぎは」
ほう――、これはこれは。
「これはどういった状況で、貴方方は何者か。血相を変えて魔王軍の尖兵が来たという報があったが、どうも違うようだな」
ベルに負けず劣らずの、美しさと凜々しさを兼ね備えた女騎士殿が、騎乗にて参上。
俺は――、覗き魔だぞ。
つまりは、境界線を破壊する者だ。
「はい、ごめんなさいよ」
目に見えない境界線を作り出したのは俺だ。
いちいちビビってられない。ゆったりとした足取りで構える兵達の前に俺は足を進めた。
いや~。この余裕。まじで俺TUEEEじゃないですか。
こんなにも愉悦に浸れるんだな。
そういう気分になりたいから、俺はそんな小説を好んで読んでたわけだし。それを現在、リアルでも体験している。
たまらないものがあるが、ここは気を引き締めないとな。
チラリと後方を見れば、ベルの炯眼が俺に向けられる。
調子に乗ると、どれだけ頑張っても覆せない存在から、痛い目に遭わされるからね。
以前のボコボコの記憶が蘇って、身震いしてしまう。
新たな転生先ではスローライフ生活をと考えるくらいに、死が間近まで迫ってたもんな……。
「このギミックを壊したのは申し訳ないが、元々はそっちに問題があるからね」
優しい笑みを湛えての発言。
本来ならピリアを発動しといた方がいいんだろうが、戦闘目的でもないのにピリアを使用すれば、更なる刺激を与えかねないから、笑みだけを向ける。
「おのれ魔王軍の尖兵め」
最も後ろにいながら口だけは達者なんだからな……。ジュリセン……。
「尖兵じゃないよ。勇者だよ」
「お前みたいな平凡な顔をした勇者がいるか!」
――……こいつ……。
実を言うと、俺の精神世界を攻撃するのが目的なんじゃないだろうか?
怒りよりも悲しみの方が大きく占める俺の円グラフ……。
――……境界線をやぶっても、結局は堂々巡りで進展はない。
「やれやれ」
ドアが開くと同時に、落胆の声が背後から俺の耳朶に届いてくる。
俺の円グラフは、悲しみによる割合が増える。
ベルさんが仕方ないとばかりに助手席から外へと出る。
槍、装填し終わったクロスボウ。構えられていたそれらが地面へと向けられた。
――――魅入っている。
ハンヴィーよりまず出てきたのはスラリとした長い足。
そこからゆっくりとスタイル抜群の全体が出て来れば、魅入ってしまうのも仕方ない。
体のラインに沿ったタイトな軍服と、スリーブレスを覆うケープは美しさを際立たせる白。
長く輝く白い髪も相まって、兵達は完全に美しさに目を奪われていた。
先ほどまで俺の事を散々に疑っていたジュリセンも、口をぽっかりと開けて魅入っている。
車内越しに見るのと違って、生身を目にすれば、それだけで戦う気が削がれた様子だ。
やはりベルは、パッシブスキルでチャームを所持しているのかもしれない。
加えて佇まいは軍人として威風堂々。
上から引っ張られているかのように真っ直ぐに伸びた背筋と、切れ長の目で全体を見渡せば、威厳に当てられた兵達は、魅入るのと同時に背筋が伸びる。
俺には備わってない、美貌と威厳とカリスマ性。
「いいだろうか?」
と、一言。芯のあるしっかりとして透き通った声で問いかければ、眼前の兵達は息を合わせたように、首肯で返してきた。
本当に、俺とベルは天壌の差だな。
「私はベルヴェット・アポロ。彼の発言は真実だ。見た目は――――装備を除いた見た目はアレだが、信じていい。我々は王都ロン・ダリアスより、現王ラスター・フロイツ・コールブランド殿下の願いを聞き入れるために、辺境防備官、侯爵エンドリュー・アルジャイル・ハーカーソンス閣下が鎮護するこの城郭都市ドヌクトスへと参じた」
見た目の部分は訂正しなくてもいいんだよ……。そもそも口に出さなくていいんだよ……。
しかしまあベルは凄いね。スラスラと王様と侯爵のフルネームが出て来るんだから。
俺なんて全くもって覚えてないよ。
王様は王様。侯爵は侯爵だから。
そんなんだから目の前の兵士たちには信じてもらえないんだろうな~。
ベルみたいに細かく丁寧に述べていれば、悶着も起きなかったのだろうか? でも聞く耳持たなかったのも事実だし。
やはり魅力か……。
魅力が無かったとしても――――だ、最低限の挨拶やら社交辞令は覚えておかないといけないな。会頭として。
「どうか、手にする道具を収めて欲しい」
格好いい。あえて武器と言わずに、道具と言うところが格好いい。
相手を刺激しない言い方なんだろうな。
十八という若さで、帝国にて三千の兵を預かり指揮する中佐殿は違いますな。
「どうしたのだこの騒ぎは」
ほう――、これはこれは。
「これはどういった状況で、貴方方は何者か。血相を変えて魔王軍の尖兵が来たという報があったが、どうも違うようだな」
ベルに負けず劣らずの、美しさと凜々しさを兼ね備えた女騎士殿が、騎乗にて参上。
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