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極東
PHASE-361【思考が狭まるのはよくない】
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「これはまずいんじゃないですか」
「みたいだね……」
コクリコとシャルナの声に焦燥が混じる。
「閉じ込められた……」
二人の声で俺にも更なる焦りが生まれる。
完全に身動きがとれない。
そこに、通常よりも長い槍とクロスボウを持った兵士たちが、格子の向こう側で横隊にて展開。
こちらにそれらを向けてくる。
「心配するな。コイツの防弾なら、矢はまず通らない」
それ故なのか、ゲッコーさんは座席に体を預けて余裕綽々。
こういう時こそ器の大きさが試される。俺も余裕を持たないとな。
「そう言えば、王都にはポートカリスはなかったですね」
「本来は攻められないと思っていた拠点だったからだろう」
「だから王城には以前、急造で第二の門が造られていたのでしょう」
強者は本当に落ち着いている。
ベルとゲッコーさんは冷静に会話をしている。
ベルの言うポートカリスってのは、落とし格子っていう、攻城戦に対して使用される門の補助みたいな物らしい。
余裕だから、質問すれば直ぐに教えてくれる。
前後に展開することで、敵をそこへと閉じ込めて殲滅する戦術もあるらしい。
閉じ込めて殲滅か……。
現在の俺たちは、その一歩手前ですよね。後は殲滅を待つだけですよ……。
即席の牢屋の中で、俺の心臓の拍動が大いに乱れる。
あの格子の隙間から矢だったり、リーチのある槍で攻撃が加えられるって事か。
うむ。ピンチだ。
更に乱れる拍動。
「奇怪な乗り物から出てこい! 王都より来たという者よ!」
若干、震えが混じった声。
声の主はルクソールから報を受けている。
ルクソール同様にクレトスと呼ばれるモヒカン兜の男。
鶏冠は縦ではなく横になっている。扇を開いたようなデザインだ。
ルクソールの立ち振る舞いからして、扇状の鶏冠の方が上の階級みたいだな。
動悸は高くなっているが、状況判断は冷静に出来る俺の胆力。
「――だ、そうだぞ」
「へぇ?」
助手席のベルは肩越しに俺を凝視してくる。
まるで俺だけ降車しろと言わんばかりの目力。
――……言わんばかりというか、これは完全に出ろって言ってるな……。
隣に座るコクリコに目を向ければ、途端に俺から目を反らす。
普段なら即目立とうとするくせに!
シャルナは作り笑いを顔に貼り付けて、俺を見るだけ。
ご愁傷様っていう心の声が聞こえてくるね。
「世知辛えぜ……」
なんで俺はこんなにも自己解決しなければならないんだろう。
俺を守って戦ってくれるっていうヒロインはいないのかな……。
現在の境遇に、自己憐憫に浸る。
「…………え~。大した歓待、痛み入るよ」
降車しての第一声は皮肉。
内心はバクバクだが、余裕を相手に見せつけるように胸を張る。
頼りになる仲間はハンヴィーから降りてこないが、大丈夫だ。俺には火龍の装備がある。
火龍装備、精神安定を全振りしている。
俺が開いた口を閉じると同時に、クロスボウが一斉に俺に向けられる。
まったく。何を怯えているのか。
俺たちが王都方面から瘴気を乗り越えて来たことで、完全に魔王軍だと思って怯えているようだ。
ルクソール達に対しての説明はなんだったのか。
結局は信じてなかったってことなのかな……。
「もう一回見せるぞ。ほらこれ。六花の紋が入ったマント」
「信じられるものか! 魔王軍の手の者め!」
ええ……。
ダメだ。ルクソールと違って、この場を仕切っているのは怯えている。
怯えることで、考えることをやめているってやつだ。
それが伝播しているのか、いよいよ魔王軍がここまで攻めてきたという恐れが、全体を支配している。
おいおい、極東の兵は精強なんじゃないのか?
「とりあえず、話を――――」
「団長を呼んでこい」
バブル時に、お立ち台なる所に立って踊っていたお姉さん達が手にしていたような扇子を兜に付けたヤツは、人の話がちゃんと聞けないヤツだ。
派手な扇子兜の言を聞き入れて、駆け出す一人の兵士。
その背中を見ていれば――、
「もう一度、問うぞ。何者なのだ」
と、恐れの混じるその声に視線を戻す俺。
いや、これあれだろ。言ったところで信じてくれないやつだな。
呆れてしまって口を閉ざせば、青筋を立ててから、
「答えろ!」
と、発すると同時に右手が挙がる。
この場合は――、放て! の予備動作なんだろうな。
動作に合わせて、クロスボウのストックをしっかりと肩に当てて狙いを定め始める。
「いや、だからさ。勇者だよ。勇者だから瘴気も平気なの。何たって勇者だから」
「信じられるものか」
やはりな、言っても無駄なやつだ。
「よっしゃ! 堂々巡り。結局は信じられない発言に導きたいだけだろうが! お前みたいなのが冤罪の人に対して、取り調べで自白強要をしてくるんだろうな!」
むかついたのでついつい大声を出してしまった。
ルクソールの時からずっと溜まってんの!
器がどうとかベルに言われて、深呼吸で我慢していたが、こんなにもしつこいと、流石にむかつきますよ。
だって俺、勇者である前に、人間だもの。
十六歳の多感な年頃の――――、少年だもの。
「みたいだね……」
コクリコとシャルナの声に焦燥が混じる。
「閉じ込められた……」
二人の声で俺にも更なる焦りが生まれる。
完全に身動きがとれない。
そこに、通常よりも長い槍とクロスボウを持った兵士たちが、格子の向こう側で横隊にて展開。
こちらにそれらを向けてくる。
「心配するな。コイツの防弾なら、矢はまず通らない」
それ故なのか、ゲッコーさんは座席に体を預けて余裕綽々。
こういう時こそ器の大きさが試される。俺も余裕を持たないとな。
「そう言えば、王都にはポートカリスはなかったですね」
「本来は攻められないと思っていた拠点だったからだろう」
「だから王城には以前、急造で第二の門が造られていたのでしょう」
強者は本当に落ち着いている。
ベルとゲッコーさんは冷静に会話をしている。
ベルの言うポートカリスってのは、落とし格子っていう、攻城戦に対して使用される門の補助みたいな物らしい。
余裕だから、質問すれば直ぐに教えてくれる。
前後に展開することで、敵をそこへと閉じ込めて殲滅する戦術もあるらしい。
閉じ込めて殲滅か……。
現在の俺たちは、その一歩手前ですよね。後は殲滅を待つだけですよ……。
即席の牢屋の中で、俺の心臓の拍動が大いに乱れる。
あの格子の隙間から矢だったり、リーチのある槍で攻撃が加えられるって事か。
うむ。ピンチだ。
更に乱れる拍動。
「奇怪な乗り物から出てこい! 王都より来たという者よ!」
若干、震えが混じった声。
声の主はルクソールから報を受けている。
ルクソール同様にクレトスと呼ばれるモヒカン兜の男。
鶏冠は縦ではなく横になっている。扇を開いたようなデザインだ。
ルクソールの立ち振る舞いからして、扇状の鶏冠の方が上の階級みたいだな。
動悸は高くなっているが、状況判断は冷静に出来る俺の胆力。
「――だ、そうだぞ」
「へぇ?」
助手席のベルは肩越しに俺を凝視してくる。
まるで俺だけ降車しろと言わんばかりの目力。
――……言わんばかりというか、これは完全に出ろって言ってるな……。
隣に座るコクリコに目を向ければ、途端に俺から目を反らす。
普段なら即目立とうとするくせに!
シャルナは作り笑いを顔に貼り付けて、俺を見るだけ。
ご愁傷様っていう心の声が聞こえてくるね。
「世知辛えぜ……」
なんで俺はこんなにも自己解決しなければならないんだろう。
俺を守って戦ってくれるっていうヒロインはいないのかな……。
現在の境遇に、自己憐憫に浸る。
「…………え~。大した歓待、痛み入るよ」
降車しての第一声は皮肉。
内心はバクバクだが、余裕を相手に見せつけるように胸を張る。
頼りになる仲間はハンヴィーから降りてこないが、大丈夫だ。俺には火龍の装備がある。
火龍装備、精神安定を全振りしている。
俺が開いた口を閉じると同時に、クロスボウが一斉に俺に向けられる。
まったく。何を怯えているのか。
俺たちが王都方面から瘴気を乗り越えて来たことで、完全に魔王軍だと思って怯えているようだ。
ルクソール達に対しての説明はなんだったのか。
結局は信じてなかったってことなのかな……。
「もう一回見せるぞ。ほらこれ。六花の紋が入ったマント」
「信じられるものか! 魔王軍の手の者め!」
ええ……。
ダメだ。ルクソールと違って、この場を仕切っているのは怯えている。
怯えることで、考えることをやめているってやつだ。
それが伝播しているのか、いよいよ魔王軍がここまで攻めてきたという恐れが、全体を支配している。
おいおい、極東の兵は精強なんじゃないのか?
「とりあえず、話を――――」
「団長を呼んでこい」
バブル時に、お立ち台なる所に立って踊っていたお姉さん達が手にしていたような扇子を兜に付けたヤツは、人の話がちゃんと聞けないヤツだ。
派手な扇子兜の言を聞き入れて、駆け出す一人の兵士。
その背中を見ていれば――、
「もう一度、問うぞ。何者なのだ」
と、恐れの混じるその声に視線を戻す俺。
いや、これあれだろ。言ったところで信じてくれないやつだな。
呆れてしまって口を閉ざせば、青筋を立ててから、
「答えろ!」
と、発すると同時に右手が挙がる。
この場合は――、放て! の予備動作なんだろうな。
動作に合わせて、クロスボウのストックをしっかりと肩に当てて狙いを定め始める。
「いや、だからさ。勇者だよ。勇者だから瘴気も平気なの。何たって勇者だから」
「信じられるものか」
やはりな、言っても無駄なやつだ。
「よっしゃ! 堂々巡り。結局は信じられない発言に導きたいだけだろうが! お前みたいなのが冤罪の人に対して、取り調べで自白強要をしてくるんだろうな!」
むかついたのでついつい大声を出してしまった。
ルクソールの時からずっと溜まってんの!
器がどうとかベルに言われて、深呼吸で我慢していたが、こんなにもしつこいと、流石にむかつきますよ。
だって俺、勇者である前に、人間だもの。
十六歳の多感な年頃の――――、少年だもの。
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