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チートがほぼ無い冒険

PHASE-284【恵まれすぎ!】

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「会頭!」
 クラックリックとすれ違い様に挨拶をしながら俺の元に来るのは、タチアナを先頭としてライ、クオンのリア充コンビ。
 俺って慕われてるね~ってな具合に、人が寄ってくる。
 しかも女の子がだ。日本にいた時では考えられないね。

「三人でどうしたの?」

「私達、新人でパーティーを組んだんです」
 ほう……。
 後衛で、しかもアコライトとヒーラーという回復特化の魔術系二人を率いた剣士ね~。
 後衛は美少女二人か……。
 生意気だなライ。いくらなんでも新人がそこまで恵まれていいと思っているのかな?
 とんでも試練を与えたくなるね~。

「あの、なんで……しょう」
 おお、怨嗟を纏った俺は、ついついライを睨んでいたようだ。

「で、女の子二人をはべらせて、どこ行くんだい?」

「はべらせるって……。なにか怒ってます?」

「いや、別に」
 中々に荒ぶる内心を抑えるのは難しいもんだな。メンタル鍛えないとな。
 圧を受ける中でライは息を整えて――、

「近くの洞窟にゴブリンが出たって情報がありまして、魔王軍前線部隊の残党が潜んでいる可能性もあるので、討伐に出るんです」
 ――……新人が洞窟でゴブリンとか大丈夫なのか? 変なフラグとか立ってないよな。
 メチャクチャにされたりしないか心配になってくるぞ。

「無茶はするなよ。いいか、武器の長さは洞窟にあったものだぞ」

「問題ないですよ」
 得意げに佩剣した左腰をライが俺に向けてくる。
 横に座るギムロンも、これまた得意げに団子っ鼻からふふんと息を出す。
 約束していた報酬である、魔法の鉄扉から作りだした剣がそこにはあった。

「ショートソードをもらいました」
 長物は数打ちのブロードソードを所持しているから、狭いところを想定してショートソードを選択したそうだ。
 鋳型に流し込んだ量産物だが、ギムロンが叩きに叩いて不純物を取り除いた一品。
 ドワーフが作りだした量産物は、人間が作る名剣に匹敵すると、打った本人が自慢げに、灰色の髭をしごきつつ述べる。

「これにコーティングも出来てたら魔法付与だけでなく、切れ味、強度が更に向上するんじゃがな」

「コーティング?」

「おう、素材が手に入りにくくなったが、ミスリルなんかの鉱物で武具を作った時に出る鉄粉みたいなのが馬鹿にできんのよ」
 ミスリル装備はとても高価。それ以上の鉱物になれば更に希少。
 それらを加工した時に出る粉末も無駄には出来ないという事で、鋼鉄製の武具なんかにその粉末を塗布して加工すれば、希少鉱物から作られた物に比べれば質は落ちるものの、利器ならば切れ味と強度が大きく向上するそうだ。
 
 ギムロンは希少鉱物は全てにおいて無駄が出ないと、気分よく言い切れば、木皿を口にくっつけて、流し込むようにガツガツと稗粥をかっ込む。

「コーティングなんて。そこまでしてもらったら流石に行きすぎですよ。恐れ多くて使えません」

「そうですよ。今でも十分に行きすぎなのに」

「なにおう!」
 やめろリア充。俺の前で見せつけるんじゃない。
 俺をそこまでしてダークサイドに落としたいのか……。
 楽しそうだな。男一人に女二人とか。俺もそんな冒険がしたかったよ。
 
 苦楽をともにする事で、幼馴染みの存在の大切さ、アコライトの美少女との急接近イベントなんてのもあるかもしれないな。
 
 対して俺ときたら……。
 美女、美少女と行動してはいるんだが……。
 
 事あるごとに俺に鉄の味を堪能させてくれる傾国の中佐。

 俺をさんざっぱら弄んだまな板。

 風紀委員を設立させた、彼氏いない歴が年齢である、約二千歳のエルフ。

 暴に物を言わせるやつらばっかり!

 俺自身がチート持ちじゃなくてもいいんだ。ライみたいにコツコツと強くなっていくのでいいんだ。そばにこんな献身的な女の子達がいてくれるなら……。

「どうしました?」
 ふさぎ込んでいた俺の顔を心配そうに覗き込んでくるタチアナは、正に聖女のようだった。
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