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チートがほぼ無い冒険

PHASE-251【真新しい洞窟】

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 周囲を照らすクオンのファイアフライでランタンも松明もお役御免だ。

 火の光源よりも強い輝きによって、暗闇の不安も無く洞窟内を快適に進むことが出来る。
 このクオンって子は、魔力を持続させる集中力の持ち主なんだろうな。
 トロールと戦っている時も、終始ファイアフライを展開していたし。
 集中力だけを切り取れば、コクリコ、タチアナよりも上かもしれない。

 ――――先頭を歩く三人は初めての道ではないようで、足早に進んで行く。
 横合いの通路も存在する。一人を除き、二人は見向きもせずに進んで行く。

 この洞窟は俺たちが通ってきた道とはまったく違う。
 天井も横幅も広いし入り組んでいる。それに凸凹してない地面は歩きやすい整地されたものだ。

 先ほど倒したトロール達には丁度いい広さと歩きやすい通路だろう。
 というか、こうなるとトロールがこの洞窟を穿ったのだろうか?

 ギムロンの方を見てみると、初めて歩くといった感じで周囲をキョロキョロとしている。
 クラックリックも同様だ。
 そんな中でも先頭の三人は、迷う素振りも見せずに進んで行く。まれにコクリコが横合いを覗き込むが、更に先を行く二人に続くといった感じ。あいつだけはちゃんと道を覚えていないみたいだな……。

「やはり真新しいの~この洞窟は」
 見渡すギムロンは眉をひそめている。
 トロールの出現もあったから、コボルト退治の簡単なクエストとはいかなくなったと考えているようで、両手で握るバトルアックスはいつでも振るえるといった気概。

 こうなると、トロールなんかがまた出てきそうだもんな。
 俺も真似て刀の柄に手を添えておく。

「トロールがやっぱり掘ってるのかな」
 思ったことを質問してみれば、

「違います」
 と、間髪入れずに言ってきたのは、洞窟の専門家であるギムロンではなく、コクリコだった。

「じゃあ誰なんだよ?」

「彼らです」
 ――――――?
 
 ――――!?

「コボルト!」
 コクリコの発言に対して、絶妙なタイミングでカットインとばかりに壁から頭だけを覗かせるのが一体。
 あの先に横道があるようだ。
 俺の声にビクリと体を震わせるコボルトの毛並みは黒い。
 洞窟の入り口で狙撃してきたのとは別物だ。

「備えるかい?」
 気合い十分とばかりに、眼前のコボルトを威圧するかのようなギムロンは、諸手で握るバトルアックスを搾るように握り直す。
 
 トロールが通るような通路だから長物でも十分に振り回せる。なので俺も抜刀して警戒。
 矢を番えていつでも放てると、クラックリック。

「ちょっと待ってください!」
 俺たちとコボルトの線上にコクリコが大の字で立ちふさがる。
 同様にライとクオンの二人もコクリコに続く。

「なんだ?」
 先発組三人の行動から、戦いの必要は無いと判断は出来るけども。
 
 やはり三人は戦わなくていいと言う。それを聞けば、俺たちは体を弛緩させて構えを解き、俺は刀を鞘に収める。
 
 覗き込んでいるコボルトも俺たちが構えを解けば、安堵したかのように呼気を漏らしていた。

「安心してください。彼らは私達の仲間ですから」
 と、コクリコが笑みを湛えてコボルトに発すれば、更に安堵したのか、プルプルと震えて生気のない顔に、活力が巡るのが見て取れた。

 そして、頭だけでなく体全体も見せてくれる。
 手には木の棒を持っている。
 一応は武器のつもりなんだろう。棒の先端は鋭利に削られている。
 長さはコボルトと同じくらいで一メートル程の棒。
 彼にとっては長物のポールウエポンなんだろうけど、俺たちの感覚では刀剣の長さといったところ。
 それくらいにコボルトの身長は小さい。
 ゴブリンとほぼ変わらない背格好である。

 ボロボロの布の服は元々は白だったんだろうけど、洗濯もせずに着続けているのか、色あせ、首回りは伸びていて、破れもありとても見窄らしい。
 毛並みだって悪い。別に動物に詳しいわけではないが、明らかに栄養が行き届いていない。

「この感じじゃとコボルトは無害じゃな。害をなすような力も持っていないようだしの~」
 立派な髭をしごき、俺に続いて、ここでようやく手にした得物を器用に背中に仕舞うギムロン。
 俺以上に警戒は怠らないのは経験の差だな。安心だからと、簡単に納刀するのはよくなかった。

 クラックリックは俺に目配せをして指示を仰いでくる。
 なので小さく頷けば、番えた矢を矢筒へと仕舞った。

「ふぅ」
 俺たち後発組を代表するかのように、タチアナが息を漏らした。

「よし、コクリコ説明を頼む」
 しっかりと、琥珀の瞳に視線を合わせて問えば、

「それは……私が」
 コボルトが立つ位置から声がした。
 棒を持つコボルトが口を開いたわけではない。

 コボルトは横合いの方向に頭を向けている。
 続いてとった行動は、手にした棒を壁に立てかけて横合いへと足を進め、俺たちの眼界から姿を消した。

 ――――俺たちの視界に再び入るコボルトは、杖をついたコボルトの体を支えて、共に歩く姿だった。
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