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チートがほぼ無い冒険

PHASE-250【牙を剥くのはまだ尚早】

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 直撃を受ければトロールは唸る。で、暴れるだけの思考を停止した戦い方。コクリコ並みのパターンを見せてくれる。
 もはや相手は一体。他の攻撃を警戒しなくていいから、唸って暴れ出すトロールだけを見ていればいい。

「シッ」
 クラックリックの矢が背中に突き刺さる。
 インクリーズによる一矢は、トロールの筋肉に深く突き刺さる。
 矢羽がかろうじて見えるくらいだ。
 
 射手を睨むトロールの顔は片方が潰れていた。煙が上がり、隻眼になりながらも、自己再生を待つことなく、クラックリックに向かって足を進める。
 相手がパターンに入るのはありがたい。
 行動が読みやすくなる。そうなると、余裕が生まれる。
 
 余裕は冷静さを与えてくれる。
 普段から冷静になれれば、もう少しましな立ち回りが出来るんだろうが、俺は絶対的な強者ではないからな。
 経験から研鑽していくしかない。
 
 格好つけた片膝状態から立ち上がり、第二矢を番えるクラックリックに迫るトロールの背後に回り込み、未だ回復が間に合っていない右の膝裏にもう一太刀。
 確実に深く刀身が入り込む感覚が柄より伝わる。
 この時だけは渋面になってしまう俺。

 余裕が生まれれば、冷静になった分、斬る感覚はダイレクトに不快感を与えてくる。
 興奮している時は軽減するんだけどな。

 インクリーズによる膂力の向上に、ラピッドによる俊足。
 俺の斬撃とは思えない程の威力を見せてくれる。
 
 返す刀で二太刀目を三度みたび同じ場所に見舞う。この三太刀目によって、トロールの右足を膝から断ち切った。

「ア゛ァァァァァァアアア゛」
 空気を振動させる悲鳴。
 トロールから飛び散る涎と脂汗。
 不憫だ……。これ以上、痛みを持続させるのは、勇者の一団がとる行為ではない。

「いけ!」
 未だ頭部は回復していない。
 阿吽の呼吸とばかりに、言えば即座に――、

「ファイヤーボール」
 回復が間に合っていない同様の箇所に、火球がゴウゴウと音を立てて直撃。
 声がなくなり、痙攣。
 ――程なくして痙攣も止み、巨体は活動を停止させた。

「やりましたよ!」

「ああ、やったな!」
 喜ぶコクリコに俺も喝采を上げる。
 命を奪っておいてこれだからな。馴染んできたよ異世界に……。
 
 全員が無事であったことに対する喜びに変換できるようになったのも慣れなんだろう。

 ――――亡骸三体に向かって手を合わせる。
 俺が転生してるわけだから、命を落とした者たちにも後世があると信じたい。

「それにしてもよく駆けつけてくれましたトール。ベル達はいないようですが」

「ああ、皆してパッシブスキル・単独行動アーチャークラスみたいなヤツ持ちだからな」
 言ったところで首を傾げる動作が返ってくるだけだが。

「ありがとうございました!」

「助かりました。まさか会頭に助力していただけるなんて」
 コクリコを皮切りに、ライとクオンのリア充コンビからも感謝される。
 そんな大層なものではないと二人の肩に手を置けば、会頭に触れられた事が新米さん達にとってステータスなのか、キャッキャと喜んでくれた。
 嬉しいような、むずがゆいような。
 
 ――――本当に大層なものじゃないんだよな。俺の主目標は徹頭徹尾コクリコであって、助力が目的ではないのだから――――。

「で、なんでトロールと戦ってたんだ?」
 一段落したが、ここでコクリコに怒りの牙を剥き出すことはしない。
 現状の把握が第一だ。
 
 現にコクリコは俺がいつ怒りを爆発させるのかと警戒もしているようで、感謝はするが、ライとクオンとは違い、俺から一定の距離をとっている。
 まずは警戒心を解き、油断したところで絶望の奈落に突き落とす。
 単純に拳骨からのグリグリお尻ペンペンよりも、恐怖に歪む表情に変えてからの方が――、俺は悦に浸れる。

「…………あの?」

「おっとすまない。ライ君だったね」
 ついついコクリコが泣きじゃくる姿を想像して、トリップに耽ってしまった。
 ギムロン達も俺の姿に心配していた様子。
 相当に変な表情になっていたようだな。

 嘘くさく咳払いをして、ライに発言を求めるように手を向ける。

「詳しい話は場所を変えてからにしましょう。付いてきてください」
 ライはそう言うと、後発の俺たちを案内する為に先頭にて誘導する。
 彼に続いてクオンにコクリコも歩き出す。
 
 俺たち後発組は、三人の後に続く。
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