241 / 1,668
チートがほぼ無い冒険
PHASE-241【おいゴラァ! 目的と違うじゃねえか!】
しおりを挟む
「コイツは返すよ」
新しく掘られたという洞窟は広い。さっきまでとは別物。刀でも十分に振ることが出来る。なのでミスリルのショートソードをギムロンに返そうとすれば、
「まだ持っとれい。あって困るもんじゃないじゃろ」
言は正しいので、有りがたく借りておく。
ミスリルはベルトに挟んで、ギムロンの数打ちで仕立てた刀を鞘から抜く。
ランタンや松明の明かりに照らされて、抜いた動作の中で白刃が残光を煌めかせる。
想像と実際は違うもの。念のために刀を振り、天井や側面の壁にぶつかる心配が無い事を確認。
俺の行動を目にして鷹揚に頷くと、ギムロンも手斧からバトルアックスに変更。
クラックリックもダガーから得物の弓に変更。
後は――、
「ファイヤーボール」
おう! 快活な声が聞こえてきやがる!
未だに元気なご様子。
自然と進む足は強い踏み込みとなり、前を見る目は炯眼になるってもんだ。
無事であるから早く救いたい――――。なんて感情からの強い踏み込みじゃない。
無事だと分かれば沸々と怒りが湧いてくるからな! 俺をさんざっぱら痛めつけやがって!
「ファイヤーボール」
更に声が近くなる。
「ぐぬぬ……」
通用しなくてうなり声を上げるのもパターンだな。
――――ん?
「ファイヤーボールじゃコボルトは倒せないのか?」
「いえ、十分すぎる効果でしょう」
問題ないとクラックリック。じゃあ、コクリコのうなり声はなんだ?
まあ直接、目にすればいいことか!
「コクリコォォォォォォォォォォ!」
視界にようやく捕捉。
黄色と黒の二色からなるフード付きローブは紛う方なき、なんちゃらウィザード。
「げぇっ、トール!」
「げぇっ、トール! じゃねえよゴラァァ!」
横山大先生の漫画かゴラァ!
「ゴァ?」
「ゴァ?」
突如と耳朶に届く声にオウム返しをしつつ、コクリコに向かって進めていた足を止める。
広い洞窟を抜ければ大空洞である空間に足を踏み入れた。
空洞内は明るい。照らしているのは、コクリコと一緒に行動をしているヒーラーの女の子――、たしかクオンとかいう子だな。
黒の中に紫の光沢がある長い髪をサイドテールでまとめている美少女。
そんな美少女が手にしたスタッフからやや離れた所に、燦然と輝く光の玉が顕現している。
便利な魔法だな。タチアナも使用出来るというファイアフライって魔法だろう。
ランタンとは比べものにならない光の強さ。
フラッシュライトの光量を全体に拡散させたかのような輝き。そのおかげで大空洞の隅々まで照らされている。
俺もゲッコーさんからフラッシュライトを借りてくればよかったな。
湿地を歩いた時と同様の、備え不足を反省してしまう。
――……じゃねえよ!
「トール!」
「オイゴラァ! どチビまな板、絶壁の北壁バーティカル無乳ナイチチAAAのクレーター!」
「なんか、メチャクチャに言ってくれますね」
「どういう状況だゴラァ!」
「見ての通りですよ!」
見ての通りだぁ?
こっちはそれが分からないから聞いてんだろうが! コボルト退治はどうしたんだよ!
「ゴァ!」
「うるせえ! ゴァ! じゃねえよ! ゴラァじゃボケッ!」
声の主が俺に気圧されたようで、でっかい体がやや弓なりとなる。
「流石は会頭」「迫力のある大音声じゃわい」「素敵です」と、今回、随伴してくれるメンバーから感嘆の声が上がる。
「で、なんでコボルトじゃないんだよ。なんでこの――――トロールと向かい合ってるんだよ!」
なんだよトロールって! 大空洞に出たと思ったらトロールがいるじゃねえか! しかも三体!
「詳しいことは後で話します。まずは目の前の脅威から対処しましょう」
「お前、話は聞くけど分かってるだろうな? こっちは落とし前をつけにきたんだからな。終わった後にお前に待っているのは絶対不変の地獄だと知れ!」
拇指を立てて自分の首を掻き切るようなジェスチャーを見せる。
「反省はしてますから。とにかく目の前に集中してください。脅威です!」
脅威っていってもトロールだろ。
何度も目にしてるっての。俺にとってはすでに脅威――――、
ズガシャ!
――……んん……。
何という音だ。暴力を体現したかのような音じゃないか。
広い空洞内をよく反響する暴力の音。発信源はトロールが手にする電柱のような丸太を簡素に加工した棍棒。
後ちょっとで俺の頭上に見舞われるところだった。
新しく掘られたという洞窟は広い。さっきまでとは別物。刀でも十分に振ることが出来る。なのでミスリルのショートソードをギムロンに返そうとすれば、
「まだ持っとれい。あって困るもんじゃないじゃろ」
言は正しいので、有りがたく借りておく。
ミスリルはベルトに挟んで、ギムロンの数打ちで仕立てた刀を鞘から抜く。
ランタンや松明の明かりに照らされて、抜いた動作の中で白刃が残光を煌めかせる。
想像と実際は違うもの。念のために刀を振り、天井や側面の壁にぶつかる心配が無い事を確認。
俺の行動を目にして鷹揚に頷くと、ギムロンも手斧からバトルアックスに変更。
クラックリックもダガーから得物の弓に変更。
後は――、
「ファイヤーボール」
おう! 快活な声が聞こえてきやがる!
未だに元気なご様子。
自然と進む足は強い踏み込みとなり、前を見る目は炯眼になるってもんだ。
無事であるから早く救いたい――――。なんて感情からの強い踏み込みじゃない。
無事だと分かれば沸々と怒りが湧いてくるからな! 俺をさんざっぱら痛めつけやがって!
「ファイヤーボール」
更に声が近くなる。
「ぐぬぬ……」
通用しなくてうなり声を上げるのもパターンだな。
――――ん?
「ファイヤーボールじゃコボルトは倒せないのか?」
「いえ、十分すぎる効果でしょう」
問題ないとクラックリック。じゃあ、コクリコのうなり声はなんだ?
まあ直接、目にすればいいことか!
「コクリコォォォォォォォォォォ!」
視界にようやく捕捉。
黄色と黒の二色からなるフード付きローブは紛う方なき、なんちゃらウィザード。
「げぇっ、トール!」
「げぇっ、トール! じゃねえよゴラァァ!」
横山大先生の漫画かゴラァ!
「ゴァ?」
「ゴァ?」
突如と耳朶に届く声にオウム返しをしつつ、コクリコに向かって進めていた足を止める。
広い洞窟を抜ければ大空洞である空間に足を踏み入れた。
空洞内は明るい。照らしているのは、コクリコと一緒に行動をしているヒーラーの女の子――、たしかクオンとかいう子だな。
黒の中に紫の光沢がある長い髪をサイドテールでまとめている美少女。
そんな美少女が手にしたスタッフからやや離れた所に、燦然と輝く光の玉が顕現している。
便利な魔法だな。タチアナも使用出来るというファイアフライって魔法だろう。
ランタンとは比べものにならない光の強さ。
フラッシュライトの光量を全体に拡散させたかのような輝き。そのおかげで大空洞の隅々まで照らされている。
俺もゲッコーさんからフラッシュライトを借りてくればよかったな。
湿地を歩いた時と同様の、備え不足を反省してしまう。
――……じゃねえよ!
「トール!」
「オイゴラァ! どチビまな板、絶壁の北壁バーティカル無乳ナイチチAAAのクレーター!」
「なんか、メチャクチャに言ってくれますね」
「どういう状況だゴラァ!」
「見ての通りですよ!」
見ての通りだぁ?
こっちはそれが分からないから聞いてんだろうが! コボルト退治はどうしたんだよ!
「ゴァ!」
「うるせえ! ゴァ! じゃねえよ! ゴラァじゃボケッ!」
声の主が俺に気圧されたようで、でっかい体がやや弓なりとなる。
「流石は会頭」「迫力のある大音声じゃわい」「素敵です」と、今回、随伴してくれるメンバーから感嘆の声が上がる。
「で、なんでコボルトじゃないんだよ。なんでこの――――トロールと向かい合ってるんだよ!」
なんだよトロールって! 大空洞に出たと思ったらトロールがいるじゃねえか! しかも三体!
「詳しいことは後で話します。まずは目の前の脅威から対処しましょう」
「お前、話は聞くけど分かってるだろうな? こっちは落とし前をつけにきたんだからな。終わった後にお前に待っているのは絶対不変の地獄だと知れ!」
拇指を立てて自分の首を掻き切るようなジェスチャーを見せる。
「反省はしてますから。とにかく目の前に集中してください。脅威です!」
脅威っていってもトロールだろ。
何度も目にしてるっての。俺にとってはすでに脅威――――、
ズガシャ!
――……んん……。
何という音だ。暴力を体現したかのような音じゃないか。
広い空洞内をよく反響する暴力の音。発信源はトロールが手にする電柱のような丸太を簡素に加工した棍棒。
後ちょっとで俺の頭上に見舞われるところだった。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる