上 下
216 / 1,668
色々と進めていこう

PHASE-216【道化を演じさせられたよ……】

しおりを挟む
「え!? なんで。どうして!?」
 あまりの驚きに俺は弦を放してしまう。
 ビュボス! と、強弓というのが容易に理解できる弦音が耳朶に届けば、同時に弓の弾性により生まれた衝撃が、俺の体にしっかりと届く。

「これが師事です」

「…………は?」
 首を傾げて疑問符を浮かべていたら、カイルの発言に周囲のピリアが使える勢も頷いている。

「は?」
 継いで出るのは先ほど同様の第六行第一段。

 ごめん、意味が分からない。
 察してくれたのか、

「ピリアの師事は、マナのコントロールが可能な者が可能な者に触れることで、体内マナに干渉し、能力発動を可能な状態にするんですよ。会頭は大魔法が使用出来るほどにネイコスのマナコントロールも可能な方。体内コントロールであるピリアの基礎なら、こうやって会頭に触れて干渉すれば、容易く伝授できるんです」

「へ? つまりは、めっちゃ簡単だって事か?」

「はい。会頭は体外マナのネイコスのコントロールが出来ますからね。簡単に出来て当然なんですよ」
 なるほど。得心がいった。
 だからここにいる皆は、俺が痛い目に遭ったってのが全くもって理解できなかったんだな……。

 ――……と、言うことは……。

「俺はコクリコに茶化された…………のか?」
 ――……………………。
 
 どうした? なぜ皆して俺と視線を合わせようとしないのだ?

「つまり俺はお馬鹿な道化ということ…………か?」
 ――……いいんだぞ。頷いてくれても。

 ハハ……。この勇者でありギルド会頭の遠坂 亨が、あんなまな板バーティカル中二病のノービスに言い様にされたわけか……。
 
 ――……!? なるほど。点と点が繋がって線になった。
 
 俺がタフネスに成功した途端、あいつは急によそよそしくなった。
 本来ならあんな事ではタフネスを習得することは出来なかったんだな……。
 
 本当に普段の意趣返しがしたかっただけのようだ……。
 俺を痛めるのを楽しみながらも、タフネスの取得には協力してくれていると思っていた。
 だが、それは違った。俺はあいつの悪質な児戯に付き合わされていただけだ……。

 まあ、それでも習得しちゃう俺って凄いな。という感情も芽生えるのだが、それ以上に負の感情は芽生えるどころか、一瞬で世界樹にまで育ったよ…………。

「ハハハハハ…………カカカッ……」

「か、会頭!?」
 俺が急に抑揚のない不気味な哄笑を発した事で、カイルを始め、周囲にいる古参から新米までが戦く。

 ――…………これが笑わずにいられるか!

 この俺が、あんな小娘に朝から昼過ぎまで、体のいいサンドバッグとして利用されてたんだからな。
 シャイニング・ケンカキックまで受けたんだからな!

 心の底から叫びたいよ。【ガッデェェェェェェェェェム!】ってな!

「初めてだよ――――カイル」
 仄暗さを纏った俺の声に後退りするカイル。

「な、なにがでしょう……?」
 それでも恐る恐る聞き返してくれる。

「ここまで俺をこけにしてくれたお馬鹿さんがいるなんてな」
 大人気漫画の宇宙の帝王様みたいな台詞が出てしまった。

「す、すいません!」

「?」
 なにを勘違いしたのか、カイルが頭を下げてきた。

「いや、違うよ。カイルじゃないから」
 と、言えば。なぜか、ほかの面々が頭を下げてきた。
 どうやら、カイルじゃないということは、自分たちの誰かが、俺の逆鱗に触れたと思ってしまったようだ。

「違うよ! あんた達じゃないから。頭を上げて」
 お願いだから! 新米さん達を見て。まるで俺が、普段から恐怖を振りまいているような存在として見えているようだから。
 そんなんじゃないから! 俺は優しい会頭だから! アットホームなギルドを目指してるんだ。だから辞めないでね。俺のところはパワハラとか無いから!

 というかお前等。会話の流れから、俺がコクリコに怒りを抱いてるって分かるだろうが!
 俺の発した負の感情に気圧されて思考を止めるな!

「まあいいや。あのおしゃまなまな板は、拳骨、グリグリからのお尻ペンペンのコンボでしばくとして、もっと師事してくれ」
 
「わ、分かりました! 次は矢を番えてみましょう。ですが、放す時は頭の位置に気をつけてください」

「了解だ」
 未だ恐れ戦くカイルから指導を受けながら、番えた矢の末端である筈部分をしっかりと指で摘まんで、放さないように注意する。

「にしてもすげぇな……インクリーズ」
 強弓を引いたままの状態でも、全くもって疲れない。
 二、三十分くらいなら、余裕でこの体勢を維持できる自信がある。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...