187 / 1,668
王族の湯治場クレトス
PHASE-187【称号を我が手に!】
しおりを挟む
「まずは体をちゃんと洗ってから湯船だよ」
「無論だとも」
ゴロ太に従うベルの声。
なんて素直なんだベル。完全にイニシアチブはゴロ太が持っているようだな。羨ましい!
にしても、体を洗うか――。
男湯の湯船に目を向ける。
お湯は――、乳白色だ。底は見えない
つまりは湯船に入ってしまわれると、見えなくなってしまうということ。
それでは覗き魔の称号は得られないも同じ!
ゲッコーさんの言うように、ここが攻め時か。
遠坂 亨、十六歳。男として実行に移さねばならない。
大丈夫、子グマに夢中なんだ。それに俺だって、この世界で死線をくぐり抜けて来たという自負もある。
胆力もついてきてるってもんだ。
いける! 今の俺ならやれるに決まっている!
「男の目になったな」
「でしょ!」
腰に手ぬぐいを巻いた男二人が口角を上げて見つめ合う様は、第三者がここから目にすれば、完全に勘違いされること間違いなしだ。
――だが、この結束力を断ち切れる者はいないだろう。
「「俺たちは、ナンバーワン!!」」
がっちりと腕相撲形態の握手を交わし、状況開始である。
ハンドサインによるやり取り。
ゲッコーさんは上を指し、俺には仕切りを指差す。
俺はゲッコーさんとは違う。登れと言われても、掴む箇所の無い竹の仕切りを登ることなど不可能。
よって、俺が実行するのは仕切りの隙間を見つけることだ。
常套手段だが、常套故に新米でもこなせるってやつだ。
――…………ううむ……。
「dammit!!」
仕切りには1ミリの隙間も存在しない。
妥協を許さない作りである。
物作り大国日本のような力を発揮しやがって! 和テイストだからって、ここまで必死こいてやらなくていいんだよ!
少しくらい隙間があるのが、愛嬌と遊び心ってもんだろうが!
このままでは俺は岩風呂を堪能するだけになってしまう。
ゲッコーさんはどうか?
――……あれ!? いない!
どうしてだ! あのおっさん、敵前逃亡でもしたというのか!
なぜか段ボールだけが残っている。
最悪だ! 俺たちはナンバーワンってシンクロさせたのは虚言だったのか!
ちきしょょょょょょょょょょょょょょょょょょ!!!!
現在、ゲッコーさんに対する俺の思いは、幻滅の二文字だ!
同士を失った喪失感は大きい……。
「ま、前はいいぞ」
――……喪失感は大きいと思っていた時も、数秒前まではあった。
が、別の大きいものを持っていらっしゃる中佐の声に、俺の耳はピクピクと動く。
「ごしごし~」
「く、くすぐったいぞ」
嫌がっているのかと思っていたが、喜んでいるじゃないか!
くそ、生殺しだ。
あの子グマ! 声だけなら完全に犯罪なのに!
前か!? 前を洗っているのか! どうなっているんだ!
「ええい!」
しんぼうたまらん! 意地でも隙間を探してやる!
――……やはりない! 仕切りの向こう側ではキャキャ言っているのに!
このままでは体洗いタイムが! 覗きにおける黄金の時間が過ぎ去ってしまう。
入浴になれば見えないし、更には温泉からあがってしまう。
しかも、ここは平地に比べて高い位置にある村。正直、寒い! ばっちりと湯冷めしている。
仕方ない――。多少強引になるが。
「フー、フー」
俺はスペシャリスト。
全てのインポッシブルなミッションを華麗にそつなくスマートに解決できるスペシャリストだ。
ラマーズ法ではないが、一定の呼吸で己を落ち着かせ、竹の仕切りに爪を入れる。
隙間が無いなら作ればいいだけのこと。
「――よっし!」
気合いの入った小声。
爪より進み、指の侵入に成功。
ギギッと軋む音が俺に緊張を走らせる。
だが、仕切りの向こう側であるアルカディアでは、乙女たちの楽しげな声。
OKだ。こちらには気付いてはいない。
開く指の力が弱まれば、竹の弾性に負けそうになり、指が挟まれて涙が浮かび上がってくる……。
それでも!
「んぐぎぎ!」
根性見せる俺。剣道に本気で力を入れてた時以上に、今の俺はど根性だ。
仕切りと仕切りの間に生まれる空間。
俺が人生最大の勝負をかけた、正に乾坤一擲の思いで作りだした、聖域へと続く空間。
眼! 後はこの空間に眼を!
それにより、俺は覗き魔の称号を得ることが!
「気合いを入れろ俺の眼! エロで目覚めよ我が固有スキル! 浄天眼!」
中二全開で燃え上がる俺。
――……が、それを冷ますかのような、
「はあぁぁ……」
ため息が聖域であるアルカディアより返ってきた…………。
「無論だとも」
ゴロ太に従うベルの声。
なんて素直なんだベル。完全にイニシアチブはゴロ太が持っているようだな。羨ましい!
にしても、体を洗うか――。
男湯の湯船に目を向ける。
お湯は――、乳白色だ。底は見えない
つまりは湯船に入ってしまわれると、見えなくなってしまうということ。
それでは覗き魔の称号は得られないも同じ!
ゲッコーさんの言うように、ここが攻め時か。
遠坂 亨、十六歳。男として実行に移さねばならない。
大丈夫、子グマに夢中なんだ。それに俺だって、この世界で死線をくぐり抜けて来たという自負もある。
胆力もついてきてるってもんだ。
いける! 今の俺ならやれるに決まっている!
「男の目になったな」
「でしょ!」
腰に手ぬぐいを巻いた男二人が口角を上げて見つめ合う様は、第三者がここから目にすれば、完全に勘違いされること間違いなしだ。
――だが、この結束力を断ち切れる者はいないだろう。
「「俺たちは、ナンバーワン!!」」
がっちりと腕相撲形態の握手を交わし、状況開始である。
ハンドサインによるやり取り。
ゲッコーさんは上を指し、俺には仕切りを指差す。
俺はゲッコーさんとは違う。登れと言われても、掴む箇所の無い竹の仕切りを登ることなど不可能。
よって、俺が実行するのは仕切りの隙間を見つけることだ。
常套手段だが、常套故に新米でもこなせるってやつだ。
――…………ううむ……。
「dammit!!」
仕切りには1ミリの隙間も存在しない。
妥協を許さない作りである。
物作り大国日本のような力を発揮しやがって! 和テイストだからって、ここまで必死こいてやらなくていいんだよ!
少しくらい隙間があるのが、愛嬌と遊び心ってもんだろうが!
このままでは俺は岩風呂を堪能するだけになってしまう。
ゲッコーさんはどうか?
――……あれ!? いない!
どうしてだ! あのおっさん、敵前逃亡でもしたというのか!
なぜか段ボールだけが残っている。
最悪だ! 俺たちはナンバーワンってシンクロさせたのは虚言だったのか!
ちきしょょょょょょょょょょょょょょょょょょ!!!!
現在、ゲッコーさんに対する俺の思いは、幻滅の二文字だ!
同士を失った喪失感は大きい……。
「ま、前はいいぞ」
――……喪失感は大きいと思っていた時も、数秒前まではあった。
が、別の大きいものを持っていらっしゃる中佐の声に、俺の耳はピクピクと動く。
「ごしごし~」
「く、くすぐったいぞ」
嫌がっているのかと思っていたが、喜んでいるじゃないか!
くそ、生殺しだ。
あの子グマ! 声だけなら完全に犯罪なのに!
前か!? 前を洗っているのか! どうなっているんだ!
「ええい!」
しんぼうたまらん! 意地でも隙間を探してやる!
――……やはりない! 仕切りの向こう側ではキャキャ言っているのに!
このままでは体洗いタイムが! 覗きにおける黄金の時間が過ぎ去ってしまう。
入浴になれば見えないし、更には温泉からあがってしまう。
しかも、ここは平地に比べて高い位置にある村。正直、寒い! ばっちりと湯冷めしている。
仕方ない――。多少強引になるが。
「フー、フー」
俺はスペシャリスト。
全てのインポッシブルなミッションを華麗にそつなくスマートに解決できるスペシャリストだ。
ラマーズ法ではないが、一定の呼吸で己を落ち着かせ、竹の仕切りに爪を入れる。
隙間が無いなら作ればいいだけのこと。
「――よっし!」
気合いの入った小声。
爪より進み、指の侵入に成功。
ギギッと軋む音が俺に緊張を走らせる。
だが、仕切りの向こう側であるアルカディアでは、乙女たちの楽しげな声。
OKだ。こちらには気付いてはいない。
開く指の力が弱まれば、竹の弾性に負けそうになり、指が挟まれて涙が浮かび上がってくる……。
それでも!
「んぐぎぎ!」
根性見せる俺。剣道に本気で力を入れてた時以上に、今の俺はど根性だ。
仕切りと仕切りの間に生まれる空間。
俺が人生最大の勝負をかけた、正に乾坤一擲の思いで作りだした、聖域へと続く空間。
眼! 後はこの空間に眼を!
それにより、俺は覗き魔の称号を得ることが!
「気合いを入れろ俺の眼! エロで目覚めよ我が固有スキル! 浄天眼!」
中二全開で燃え上がる俺。
――……が、それを冷ますかのような、
「はあぁぁ……」
ため息が聖域であるアルカディアより返ってきた…………。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
王家を追放されたわけじゃないけど、世直しすることにしました。
克全
ファンタジー
アリステラ王国の16番目の王子として誕生したアーサーは、性欲以外は賢王の父が、子供たちの生末に悩んでいることを知り、独自で生活基盤を作ろうと幼い頃から努力を重ねてきた。
王子と言う立場を利用し、王家に仕える優秀な魔導師・司教・騎士・忍者から文武両道を学び、遂に元服を迎えて、王国最大最難関のドラゴンダンジョンに挑むことにした。
だがすべての子供を愛する父王は、アーサーに1人でドラゴンダンジョンに挑みたいという願いを決して認めず、アーサーの傅役・近習等を供にすることを条件に、ようやくダンジョン挑戦を認めることになった。
しかも旅先でもアーサーが困らないように、王族や貴族にさえ検察権を行使できる、巡検使と言う役目を与えることにした。
更に王家に仕える手練れの忍者や騎士団の精鋭を、アーサーを護る影供として付けるにまで及んだ。
アーサー自身はそのことに忸怩たる思いはあったものの、先ずは王城から出してもらあうことが先決と考え、仕方なくその条件を受け入れ、ドラゴンダンジョンに挑むことにした。
そして旅の途中で隙を見つけたアーサーは、爺をはじめとする供の者達を巻いて、1人街道を旅するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる