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王族の湯治場クレトス

PHASE-179【変なスイッチが入ったベル】

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「僕も捕まってしまったからね、何も言えないんだけどね。とにかく無事で良かった」

「ワックさんもね」

「この方々が僕を助けてくれたんだ」

「ワックさんを助けてくれて、そしてボクも助けてくれてありがとう」
 白い毛並みのぬいぐるみのような子グマが愛らしく一礼。
 
 だけども、どうしても声がハードボイルドすぎて、見た目よりそっちが目立つぞ。
 ゴロ太君よ~。

「か、かまわない! 当然のことをしただけだ」
 ――……ベルさんの鼻息が荒いんですけど……。
 こんな興奮している美人は初めて見るよ。

 若干ひいてしまうよ。その姿。

 普段は切れ長な目だが、現在はくわっと見開いて、指をわきわきしてるし……。

「捕まってはしまったが、とても勇敢だったぞ。小さい体で疲れただろう。私が、だ、だだだ抱っこしてやろうじゃないか!」
 目が危ないよ。
 エメラルドグリーンの目が血走ってるよ……。

 乙女モードが愛玩動物に心を奪われているよ。

 俺にもそのくらいの情熱を向けて欲しい……。

 ゴロ太。羨ましいぞ…………。

「お姉ちゃんごめんなさい。ボク、ちょっと怖い……」

「な!?」
 流石に血走った目で見られれば、小さい体だと怖がるよな……。

 ワックさんの後ろに隠れてこっちを窺う姿は可愛いが、ベルはショックを受けているようで、力なく項垂れている。
 見たことない姿をたくさん目にすることが出来るな。
 新鮮ではある。

「ボク、あの子と話してくるね」
 そう言って、よちよち歩きでケーニッヒス・ティーガーの子供の元へと走り出す姿は確かに可愛い。

「ああ……」
 ベルの心が完全に奪われているご様子。
 母親のようにゴロ太の一挙手一投足を見守っておられる。
 
 ――――本当に話が出来るようで、解放された後も興奮していたケーニッヒス・ティーガーの子供が、ゴロ太と会話をしていけば、興奮が収まり、ゴロ太をペロペロと舐めはじめた。

「はやく、母親の所に返してあげて」
 と、ケーニッヒス・ティーガーの子供を代弁するようにゴロ太が発言すれば、

「早く案内しろ。ゴロ太のお願いだぞ」
 と、ベルがハンター達に、それはそれは酷薄に発言した。
 完全に命を奪う勢いの語気だ。

 流石のハンター達も、ベルの気迫に気圧されて震え出す始末だ。

 
 
 ――――木製だがしっかりとした檻に、四肢を鎖で拘束されたケーニッヒス・ティーガーが捕らえられていた。

「あ! このケーニッヒス・ティーガーは!」

「左目の部分に傷がある。俺たちが山道で出くわしたのと同じ虎だな」
 俺とゲッコーさんが確認しあう。

 知っていたケーニッヒス・ティーガーだから、ベルは怒りの瞳でハンター達を睨んでいた。 

「見た感じ、怪我とかはないようだ」
 素人の俺が見たところではっきりとは診察なんて出来ないけども。

「当然さ。怪我を負わせたら価値が下がるからな」

「今回はそれが功を奏したな。怪我でもして、子供とゴロ太が悲しんだら、貴様らは首と胴が離れていただろう」

「こえぇよ! さっきからよ!」
 怖がられたのを払拭させて、ゴロ太から気に入られようと必死かよ! 
 俺にその思いをぶつけてくれよ。俺ならいつでもオープンなのに!

 こんなにもベルの心を虜にするとは! ゴロ太、おそろしい子!

 震えるハンター達が急いで檻から解放しようと近づけば、

「ガァァァァァァァ!」
 まあ、威嚇するのは当然。
 そこにゴロ太が近づき話をすれば、母親のケーニッヒス・ティーガーも静かになった。

「なんて優秀な子なのだろう」
 ここまで来ると、付き合いの長い俺とゲッコーさんは、ベルの変わり様を半眼で見る事しか出来ない。
 
 ――――山賊退治も成功。
 ワックさんもゴロ太も救えて、怪我人もなし。

 ケーニッヒス・ティーガーの親子はゴロ太となにか話、無事に山の中へと帰ることが出来たが……。
 ベルの興奮が凄いよ……。
 ゴロ太のちょっとした行動の一つ一つに、称賛の声をずっと上げている。
 本当に、いままでに見たことないよ。
 新鮮を通り越して、恐怖だよ……。

 俺とゲッコーさんだけでなく、コクリコまでひきはじめる。

「あんなの、私の知ってる格好いいベルではありません……」

「言ってやるな。褒められているゴロ太は、ベルの興奮した言い様を恐怖という形で受け取っている。で、それにショックを受けているベルの姿も見ないようにしてやれ。それが大人になる為の一歩だ」
 ゲッコーさんは疲れたような語調で言う。

 語調がその時点で、ゲッコーさんもベルの変わりように恐怖をおぼえているのかもしれない。
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