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海賊退治

PHASE-96【29番目で24番目】

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「――腕が動いているぞ」
 双眼鏡で監視するゲッコーさんが、シーゴーレムに反応があるとのことで、俺も知りたいので双眼鏡で覗けば、伝説の左腕の如く、腕を大きく振りかぶって――――、気持ちのいい振りきりだ。
 ――――なんか、こっちに飛んでくるぞ。

「仰角四十五度での投擲。一番距離の出る角度。お手本のようだな」
 感心するゲッコーさんは飛んでくる物体を双眼鏡で追いかける。

「これは、躱さないといけないやつなのでは?」

「トール――――その通りだ!」

「ゲッコーさん! 間はいらない! 回避!!」
 俺の大音声に、後方にいる人々が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「落ち着け! よく見ろ。落下し始めるところを注視して躱すんだ」
 ここはゲッコーさんの発言を信じ、落下し始めるのを待ち、そこから着弾位置を把握して距離を取る。
 なるほど、無駄に逃げ回るより、ちゃんと落下予測してから動くことが大事だというのがよく分かった。
 ――ズドン! 質力があるというのが容易に理解できる、重く鈍い音だ。
 土埃が晴れれば、見た形状だ。
 港に転がってたり、半分埋まってたものだ。
 投石機かと思っていたが、以前の攻撃はシーゴーレムが原因だったんだな。
 着弾して埋まった丸い大石は、プスプスと煙を上げている。近づけば熱を感じた。触れれば火傷は免れない。
 当たれば、その時点で火傷とか言ってられないからな。視覚的な恐怖に加味するものだろう。

「砲艦外交だな」

「なに悠長に言ってるんです。早いところ撃ち返してくださいよ」
 ジャベリンとかなら余裕でしょう。

「流石に岩の塊にはかなり撃ち込まないと駄目なんじゃないか?」
 なぜに自信なく言うんですか。らしくないですよ。
 ここに来てファンタジーが本腰入れて牙を剥いてきたよ。
 相手が岩だと、ベルの炎も効果が無いかもしれない。しかも海上だし、射程だってあそこまで届くかどうか。
 本格的にまずいな。しかもシーゴーレムってのは三体いる。
 後方には海賊船も数隻いる。追い払ったのもいやがる。
 海賊船と見比べても、シーゴーレムはそれに負けてない大きさだ。
 単純に三十メートルはあるバケモンだ。
 化け物の登場に、住人は恐怖に支配された。
 それでも、手にもった武器は放さずにここに居続けるって事は、根性を見せてるって事だろう。大したもんだ。俺は逃げたい!

GBU-28ディープ・スロートでもあれば……」
 地中貫通爆弾バンカーバスターは無いな……。無い物ねだりだ。
 無いものを口にし始めるってのは、追い込まれてる証拠ですよ。伝説の兵士!

「何か無いんですか! 勇者でしょう!」

「うるせぇ! お前、アレをシーゴーレムって言えたよな。あいつらがこの町を攻撃した事を知ってたんだろ! もっと情報をよこせ!」
 事前に知っていれば、対応も変わってたんだぞ!

「この面子なら余裕だと思ったんですよ。王都の英雄でしょ!」
 唇尖らせて反論しやがって! 実際に目にした英雄はうだつの上がらない十六歳でしたってか! なめんなよ!

「!? ひょうぅ!」
 言い争ってる最中にも、砲艦外交は続いている。

「ポンポンポンポンポンポンポンポン投げやがって! スペインはバルセロナ伝統の祭り、トマティーナじゃないんだぞ!」
 あったまきた! やってやろうじゃねえか!

「ゲッコーさん。この港の端から端までどのくらいあります」

「待ってろ」
 何か策があると即理解してくれる。【なんでそんなことを?】みたいな事は聞くこともない。
 双眼鏡に備わるレンジファインダーで測定してくれる。

「百九十に百三十。ざっと三百二十メートルだ」

「十分です」

「頼むぞ」

「任せてください。パーレイなんて言わないですよ。向こうが砲艦外交なら、こっちも同様の手段を行使するだけです。度肝抜かしてやりますよ」
 シーゴーレムとかいう、モビルアーマークラスなんて一撃で没セシメテヤル!
 相手は魔導の力で動いてる存在。ゴブリンやオークの命を奪う事に比べれば、こっちの精神状態もましだ。

「さあ! 恐れるといい。そして背後で怯える人々よ、俺の奇跡で救いましょう」
 件の如く、プレイギアを前に出し、向ける先は港。
 ――――俺が口にした名を耳にするゲッコーさんのテンションは、珍しく高くなる。
 子供のようにはしゃいでいた。
 いままでにないくらいの巨大な輝きが港だけでなく、町を照らす。
 絶対勝利を得ることが可能な、神々しい輝きだ――――。

「――――!? 目の前に急に、黒い……壁……?」
 眼前の光景に訝しい目をするコクリコ。
 実際は黒だけじゃない。
 他にも灰色も交えた雲形迷彩なんだけどな。
 全体を見る事が出来ていないな、少女よ。

「こいつは、最高だな!」
 実物を目にすれば、更にテンションが上がるゲッコーさん。
 キラキラと碧眼を輝かせている。
 日本人の俺よりも、ゲッコーさんの方が浪漫を感じざるを得ないだろうからね。

「なんと巨大な……。我が帝国が有するものの倍はある……」
 コクリコと違って、全体を見ていたベルは感嘆して佇む。
 存在の威光に当てられたのか、両腕がダラリ弛緩している。
 ベルの世界設定は、第一次世界大戦ダブダブワンがモチーフになっているからな。あの当時の代表的なのは、ドレッドノートで百六十メートルくらいか。
 こいつは二百七十メートルあるぜ!

「こちらの視界は遮られてしまったが、沖にいる海賊たちの驚く顔は容易に理解できるってもんだ」
 でっかいことはいい事だ。俺の気分も高揚してしまう。

「トール……。なんですかこれは……」
 ベルの視線を追って、ようやく全体に目を向けたコクリコが生唾の飲みつつ、震える体で問うてくる。
 尻餅までついてら。
 あまりの存在感に、恐怖が植え付けられてしまったようだな。

「紹介しよう! これは戦艦。戦う船だ。名は――――、アイオワ級三番艦、ミズーリだ」
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