上 下
90 / 1,668
海賊退治

PHASE-90【悦に入る】

しおりを挟む
「炎は出さないんだな」
 思っていた事を口にすれば、

「万が一にも、宿に当てるわけにはいかないからな」
 なるほど。別段、相手が弱いからってことじゃないのか。
 
「そうだ、この愚か者たちには、宿のドアだけでなく、この町の修繕を全てさせよう」
 海賊たちに嘲笑を向けながら継ぐベル。
 嘲笑で理解できた。やはり、相手が取るに足らないからってのも、炎を出さない理由に含まれているようだ。

「それはいい。まずはここと王都のラインを確立して、ギルドメンバーを駐留させよう。で、こいつらを人足にすれば、金がかからなくていい。言うことを聞かないなら、メンバーに制裁をって言っとけばいいだろう」

「素晴らしいぞトール」
 すでに勝った気でいる俺とベルが話を交わせば、やり取りが耳朶に届いた海賊たちの顔は、茹で蛸みたいに真っ赤かである。
 それを気にも留めない俺は、

「あ、そうそう。間違っても宿は焼くなよ」

「や、や、焼きませんよ! なんですか、そのベルさんとのあつかいの違いは!」

「信頼関係の差だよ」
 開幕前にいきなり魔法を相手の顔面に打ち込む奴と比べるのは失礼だろう。
 しかも俺が指摘した時の慌てっぷり。宿にまだ敵がいるかもと考慮して、宿ごと燃やそうと考えていたに違いない。
 恐ろしい十三歳だ。

「――――フッ」
 小気味のいい呼気を吐きつつの蹴撃。
 長い足から打ち込まれるそれが、大男の首に直撃すれば、他愛なく撃沈。
 モデルも驚くすらりと伸びた脚の動きには、こちらまで見とれてしまって、相手に攻撃できなかった。
 そんなアホな童貞な俺の隙を突いて、

「ふんが!」
 原始人かよ! と、ツッコミを入れたいかけ声と共に、先端にトゲトゲの付いた刀剣サイズの棍棒を振り上げる海賊。
 あの棍棒、確かレイダークラブとかいうやつだな。
 などと、分析していないで行動しろ俺! 自分を心底で叱咤しながら、先端部分に触れないように、鉄棒部分にしのぎをぶつけて受け止め、捌き、バランスを崩す。
 狙ってくれと言わんばかりに延髄が露わになったので、峰を打ち込む。
 やはりベルのように、ワンコンタクトで戦闘不能には出来ないな。
 どうしても、躱したり捌くのが動作に入るが、まあ、俺としては上等だな。

「野郎!」
 背後から別のが俺に迫るも、パシュンと音がすれば、力なく崩れ落ちる。

「ありがとうございます」
 麻酔銃を構えたゲッコーさんは笑みで返してきた。
 俺がポカしても完璧なフォローがあるから、大胆に立ち回れる。

「――――あれ、もう半分は倒したんじゃないか?」
 余裕だな。

「なめるなよ!」
 正面から筋肉隆々の禿頭とくとうで、顔下半分を隠す髭の持ち主が、戦槌を大きく振りかざしている。
 こういう得物を持っているのと戦うのも経験済みだ。
 振り下ろされる前に、瞬時に懐には入ってからの胴打ち。

「が!?」
 苦痛の声を上げるのが耳に届く。
 戦いって、やはり覚悟だな。ビビって仰け反ったり動けなくなれば、戦槌が頭上に落ちてきてたんだろうが、対応できる自信があれば、体が恐れることなく、考えと同時に動いてくれる。

「くそ!」
 あら?
 浅かったようだ。ギロリと目玉が俺を捕捉する。掴まれそうになったところで、

「最後まで気を抜くな」
 注意をしつつ、禿頭の顔面に長い足からの蹴りが入れば、それでダウンだ。

「次ぎに活かす」

「ならばいい。だが、生きていなければ、活かせないぞ」

「了解です中佐」

「馬鹿にしてるのか?」

「してないよ」
 中佐だから中佐って言っただけだろうに。
 まだまだ冗談を言い合うような仲には進展していないな。
 ――……しっかし、まだ出てくるのか。結構いるじゃないか。
 明らかに二十人以上はいる。
 少数から得る情報は、やはり信憑性に欠けるな。
 多方向から情報を得て、そこから答えを出さないといけないね。
 これも今後に活かそう。

「まどろっこしいですね。わらわらと!」
 ちびっ子がポージングをしながら口を開く。
 大勢相手に有利に事が運んでいるのと、自分が先制を仕掛けたことでテンションが上がっているようだ。
 ――……というより、自分に陶酔しているな……。

「一気にいかせてもらいますよ!」
 悦に入るコクリコは、ワンドを手放す。
 不思議とコクリコの胸の高さでワンドが宙に浮く。
 そこにマナを込めているのか、ファイヤーボールが胸の位置に顕現。
 いままでのより大きめなスイカサイズ。
 将来はそのくらいのものを持ちたいという願望なのかな? と、口から漏れそうになった。
 球体に炎がほとばしる様は、太陽のプロミネンスみたいだ。

「実戦でこれが使えるとは、集中に時間をかけてしまうので、一人だと隙が生じますが、今回、実戦初披露です!」
 昂奮した声音に、先ほど以上に琥珀色の瞳を輝かせ――――、

「さあ、恐れ戦き、体に刻むがいい! ランページボール」
 発動すると、スイカサイズの火球が相手の前まで飛んでいく。
 速度はファイヤーボールに比べると遅い。躱すのは容易いだろう。
 が、火球は海賊たちの指呼の間でピタリと留まり――――、

「うわぁぁぁぁっぁ!?」や、「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」って声が上がる。
 そして――――、

「ひぃぃぃぃぃぃ1?」
 と、俺も声を上げる。
 ランページボールなる火球の魔法は、留まったかと思えば、その場で高速回転を始め、四方八方に炎をまき散らしていく。
 スイカサイズの火球から、イチゴサイズの火球が激しく飛び散る。
 触れればボンと爆発し、それによって海賊たちは地に伏す。
 当たらなかった奴らも大混乱だ。
 ついでに俺も大混乱だ。
 だって、俺にも飛んできてるからね!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...