上 下
71 / 1,668
出立

PHASE-71【転生史上、最大のピンチ】

しおりを挟む
 ――――ふぃぃぃぃ……。

「これほどまでに水が美味いと思えるのも初めてだ」
 何とか切り抜けた。
 今ごろオーク達は必死になって、俺たちのことを探してるんだろうな。
 しかし、小川の水が体の中にすぅぅぅぅって入ってくるね。

「ガブガブと直接飲むんじゃない」

「ゲッコー殿の言うとおりだ。慣れない地での水は、お腹に負担がかかる」
 あら可愛い。凛とした姿なのに、お腹って言うところが、年相応の乙女っぽかったよ。
 そういうギャップ、ウエルカム。

「なんだその顔は、随分と余裕だな」
 ムキになるのも可愛いもの。これまたありがたき幸せ。
 それにしても、相変わらずヒールの高いブーツで、下生えに、木の根が出てる足場の悪いところを平然と走れるのは流石だな。
 ――ふむ。喉の渇きはとれたけど、腹が減ったな……。
 月の明かりだけを頼って森の中を歩くのは得策じゃない。暗視ゴーグルって手もあるが、ここは足を動かすより休めたいね。
 かといって、俺はいままで安寧な日本で生活をしていた。生活水準を落とすというのは、王都の小屋や、城壁の詰所がギリだ。
 雨風をしのげるなら俺の精神も耐えられるが、こと森の中で一晩となると、ギヤマンハートな俺には過ごせるとは思えないね――――。


「……お……おお…………」
 森の中で過ごすのは辛いが、それ以上に辛い状況……。

「まったく、だから言ったのだ」
 やめて、そんな小馬鹿にした目で見ないで、事は一刻を争う……。
 水を飲んで一時間くらい経過したところで異変が生じた……。
 腸がねじれるんじゃないかと思えるぅぅぅぅぅぅぅ……、くらいの激痛が俺を襲う……。

「脂汗が凄いぞ」

「ゲッコーさん。しゅ、終末が訪れました……」

「いや、うん。お前の腹痛でいちいち最後の審判が開廷されてもな。その度にイエスが再臨して裁いてたら、オーバーワークで、甚だ迷惑な話だろう」
 なにをこんな時に、小洒落た笑いを入れてきますかね。この大人は……。
 まったく面白くないよ!

「こんな状況下で襲われたらどうする気だ?」
 冷静な問いかけはいらないよ。ベル……。
 ――……!?

「あ……」

「おい、私に近づくなよ!」

「だ、大丈夫だ。俺の括約筋はやわじゃない。耐えている」

「や、やめろ! そんなはしたない事を言うんじゃない」
 あらウブですね。紅潮してらっしゃる。可愛いじゃないか。
 ――……なんて事を思っている場合ではないのだよ。

「ムリムリムリムリ! MRYYYYYYYYYYYYYYY!!!!」

「こんな緊急時でもネタをぶち込んでくるとは」
 サムズアップいらないです。ゲッコーさん、なんとかしてほしい。
 ベルは一目散に後方に待機してるし。そういえば、王様たちの臭いが嫌で、速攻で後ろに下がってたっけ……。

「――――穴掘ってやったからやってこい。紙もあるぞ」
 多目的ツールなスコップを片手に、ゲッコーさんがそう言えば、俺は急いで紙をいただきそこへと行く。
 ――…………人生初だ。
 野糞って人生で初だよ……。
 トイレにはウォシュレットがないと、ギヤマンハートが砕け散ってしまう俺が野糞だよ。
 泣きたくなるぜ……。
 セラにはトートーって呼ばれたこともあったが、その名の恩恵はないぜ……。
 ゴロゴロと、俺の腸内は未だに衝撃が駆け巡る。

「平気か?」

「はい……」
 情けない……。
 俺はこんなところで野糞をするために、異世界に来たわけじゃない……。
 死んでしまったから、ここで活躍して生き返るってのが目標なのに。仲間の力を借りて、魔王を倒すってのが目標なのに。
 現在、活躍しているのは、括約筋ってね……。
 へ、口にすると薄ら寒いギャグだろうな……。
 寒いのはこの状況だけでいいよ。
 ゲッコーさんはまだしも、超絶美人の近くでこんな状況だからな……。
 ――……穴を埋めて、ふらついた足で立ち上がる。
 洋式になれた男は、和式スタイルは苦手だ。

「運がいいぞ。敵は完全にこっちを見失ってるからな」

「申し訳ない」

「ウンは現在、放出したのにな」
 なんでそんなドヤ顔?
 兵士としては一流でも、ギャグセンスは絶望的ですね。
 活躍と括約筋をかけた俺のギャグも、絶望的だけども……。

「へあ!?」
 ええい! 未だに俺の腸内で戦闘を継続させたいのか!

「はあぁぁぁぁ……」
 やめて、その重たいため息……。
 美人にされると、まじで俺のギヤマンハートが粉々だから。精神的に弱ってる時はとくに辛いから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...