上 下
65 / 1,668
王都防衛戦

PHASE-65【きょういのアバカン!】

しおりを挟む
「――ふんふん」
 振れば、竹刀を持っているかのように軽い。

「いい風切り音だ」
 ここ最近、俺に対して柔らかな応対をするベルが、ここでも褒めてくれる。
 もっと頑張れば、素敵な関係になれそうな予感。
 ベルと、仲むつまじい関係になれるとか。最高かよ!

「よし、こい」
 ん? 恋?

「来い」
 来いか。って、いやいや、なぜに構える。

「見てやろう。指揮官を討ち取った実力を」
 おいおい、周りがざわついてきたぞ。
 俺としては小屋に戻って、王城から運んでもらったソファーで、横になる予定だったんだけどな。
 どんどんとギャラリーが増えてくる。「神の使いである勇者と、その従者の戦い」って誰かが言えば、「「「「おお!」」」」と、興奮した声が上がる。
 期待の声が方々から大きくなる。さながら7.1サラウンドだな。臨場感があるぜ。

「はぁ……」
 面倒くさいけども、ここで少しでも善戦すれば、ベルの好感度も上がるかもしれないな。
 バロルドの攻撃を躱して、反撃し、勝利したんだ。自信だってついてきてる。
 それに――――、ベルは体に纏った炎を使用して、とんでも威力を発揮しているが、実際の剣の腕前はどうなんだ?
 設定集にも秀でてると書かれていたし、カイルを容易く倒したのも目にしたが、もしかしたら剣だけの戦いとなると、俺にもワンチャンあるんじゃなかろうか。

「よしやるか!」
 勝ったらあれだ。俺に対して尊敬の念を抱く可能性もある。
 いいとこ見せて、惚れさてやる!

「いい気迫だな」
 レイピアみたく、片手で木剣を持って、俺へとヒュンと風を切って向ければ――――。へへ、自慢のロケットおっぱいがぷるんと揺れたぜ。
 ぱっつぱつな軍服だから余計にエロいってばよ。

「ほう」
 エロいこと考えてたのに、感心された。

「余裕があるな。無駄に力も入っていない。私の目を見ず、全体を見ている。基本はいい」
 全体ってのは誤りだ。俺が凝視してるのは94㎝のおっぱいだけだ。
 白いタイトな軍服に包まれたおっぱいだけだぜ!
 正直、その胸ポケットって意味あるの? と、言いたいね。そんなぱつぱつじゃあ、物なんて入らないだろうに。
 94㎝め! アサルトライフルAN-94こと、アバカンを今後は隠語として使用させてもらおう。
 来いよ! その脅威きょういならぬ、胸囲きょういの二点バーストを俺に見舞ってくれよ! バイ~ンとさ!

「お前は……」
 あ、やばい……。完全に気取られたよ。
 全体じゃなくて、アバカン見てるのがバレバレだよ。
 怒ってるよ……。

「ひゃ!?」
 何という移動速度! 何という振り下ろし! 俺の鼻先すれすれを木剣が通過していった。

「少しはやる気が出たか。破廉恥!」
 破廉恥なのは認めよう。むしろその口から破廉恥という単語が出たことに、俺は興奮と感動を覚える。
 しっかし、牽制でこれだからな。
 バロルドの振り下ろしなんて、ベルに比べたら止まってるようなもんだ。
 あいつのレベルって40くらいだろ。高い方だろう。
 手を抜いてるベルの方が圧倒的に早いってなんだよ。
 そもそも、ベルってレベルで評価するとどのくらいあるんだろう。
 パラメーターはこの世界でのものだとすると、武力は100のカンストオーバーだったよな。
 ――……あれ? もしかしてベルって、魔王より強いんじゃないの?
 もしそうだとすると、俺は今、魔王以上の存在と戦ってるってことかい?

「そら」

「ひぃ!」
 手は抜いてくれているようだが、にしても鋭い突きである。木剣の切っ先だって、丸みはあるけども、刺さる可能性だってあるぞ。

「今のを躱すか。ならば」
 もういいよ! 徐々に力を上げなくていいから。
 本当にごめんなさい。調子にのりました。剣の腕前だけならもしかしたら。なんて、阿呆な考え持ってすみませんでした!

「単調だぞ」

「いっ」
 たい! 語末は心の中で叫ぶぜ。
 いかんせん兵士やギルドの面々まで見てるんだ。会頭として、恥ずかしいところは見せられないというプライドもある。
 ひゃ!? だの。ひぃ! だのと叫んでしまったが、大丈夫。周囲はテンション上がってるから気にしてない。それどころか、どっちが勝利するのかと、賭まで始めた。
 なんて馬鹿な賭をしてるんだ。ベル一択だろ。なんで俺の名前まで挙がってるんだ? 大損したい奴らがいるようだな。
 万馬券なんて、この戦いには存在しないぞ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約破棄は結構ですけど

久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」 私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。 「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」 あーそうですね。 私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。 本当は、お父様のように商売がしたいのです。 ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。 王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。 そんなお金、無いはずなのに。  

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...