63 / 1,668
王都防衛戦
PHASE-63【暇神】
しおりを挟む
勝利を喜ぶその側では、ギルドの現在の報酬ということで、冒険者は戦いを早々に切り上げて、うち捨てられた敵の装備を我先に回収している。
さっきまでは格好良く指示していたカイルもそこは冒険者とばかりに、ヒャッハー! と、叫びながら、剣やら斧を両手で抱えるように持っている。
バロニアのハルバートや装備なんて奪い合いだ……。
「冒険者じゃなくて、野盗じゃねえか!」
「ま、あれがあるから戦ってくれるし、頼りにもなるわけだ」
勝利の余韻を煙草で楽しむゲッコーさん。
とにかく勝ったわけだ。
冒険者も兵士も、矢を放ち、最後は一斉に打って出るという活躍をした。
が、やはり。俺の側に立つベルの強さよ……。
この美人が一人で敵陣を大混乱に陥れる事が出来たから、勝てたようなもんだ。
先生のこの戦いが始まるまでの算段に、ゲッコーさんの火器とサポート。
俺がバロニアに勝てたのも、皆の支えがあったからこそだ。
――――そう、皆あっての勝利だった。だから俺をそんなキラキラした汚れなき眼で見ないでほしい、基本は女子とろくに口もきけない内気な男なんだから、そういうのは慣れてないんだ。
三爪痕、蹂躙王の配下を倒したことは、人間サイドが侵攻を受けてから初の大勝利だったようで、現在、王都では盛大に勝利の宴が開かれていた。
王様も大喜びで、俺達を待つために市井で待っていたっていうね。
あれだけ城の中に籠もっていたのに、それが城から出て、民と一緒に待っているっていうね。
俺がずっと王城に呼ばれても行かなかったのが原因かもしれないな。
民を犠牲にしてたってのもあるから、刺されるんじゃないかとも思っていたが、備蓄庫の扉を開いて、人々と共に宴の準備をしていた。
自分たちだけ安全な所に籠もっていたわりには、住民は王様に対してあんまり不服そうな顔を見せていなかったっていう不思議。
とにかく、お偉いさんから末端までが、俺とお近づきになりたいようで、相手をするのが疲れたので、現在は一人隠れて食事を楽しむ。
といっても、パンとスープだけだが。
普段から口にしてる甘いレーションに比べれば、こっちが美味しく思えてくる。
「む?」
――……スープをすくう手が震えだす。
緊張がとけたのか、急に怖くなってきたのか、震えだしてきた。
「まったく、こんな所は勇者として見せられないな」
独白しつつ周囲を警戒。誰もいないことに安堵だ。
しっかし、俺みたいな低レベルな存在がよく勝てたもんだ。
ベルやゲッコーさんのサポートがあったからってのもあるが、対峙したのは俺本人だからな。
足も震えることなく戦えたのは、サポートによる圧倒的な安心感のおかげだ。
冷静に相手の行動を見て取れたのは、命のやり取りってのはないけども、剣道で培ってきた経験も活きたんだろう。
やはり、ひたむきに高校でもやってりゃよかったと、死んでから後悔する。
こんな経験は普通ないけども。
テッテレー♪
「おっふ!?」
人気の無いところで考え事をしている時の急な音はビクッとなるね。情けない声も出してしまったし。
「この音は」
以前も耳にした音。ディスプレイを見れば、
{レベル24}
って表記だ。
一気に上がったな……。アバウトすぎるが、バロニアってホブゴブリンを倒したことでの評価か。
そうだな、これはレベルっていうか、評価だよな。
{おい、セラ}
{なに?}
――……返しが本当に早いな……。
こいつ以前もだったが、暇人ならぬ暇神だな。
ゲームも好きそうだし、年中引きこもってゲームしてそうだな。態度はアレだし、やはりボッチプレイヤーか?
{俺のレベルが上がったぞ}
{それは重畳}
{いくらボスクラス倒したからって、急激に上がりすぎじゃないか? 22もアップしたぞ}
{あのさ、これは指標だから。君の現状の努力を数値化した結果だから。大きな活躍をすればそれだけ強くなったと判断される。現実でも商談が上手くいけば出世も近づくもんでしょ}
語末の例えは学生の俺には響かないぜ。だが、思った通り、レベルというより単純に評価だな。
{いい、社会に出るとね、大きな企業なんかだと、社員の実力は全てが数値化されて、それこそゲームのパラメータみたいに、レーダーチャートで表記されるんだからね。機械的なしょっぱくて寒い時代よ}
続けて送ってくるけども、しかも社会のことが続いてるし。
{それは天界での、お前の評価で使用されてんじゃないの? さぞ低いんだろうな}
{は! 見る目が無いわね~}
見る目あると思うぞ、理由としては、メールの返しがくい気味の速度なんだよ。どんだけ打ち込むの早いんだよ。暇神め!
{まあいいや。この数値は信頼出来るんだろ?}
{出来るわよ。バロルドの実力からして、レベルで評価するなら40はあったはずだからね。レベルの差分で上がったって考えていいんじゃないの}
{あいつで40もあんのか}
振り下ろす基本がなってないから、もっと低いと思ってた。
{相性が良かったんじゃないの?}
確かに、あいつって力任せのごり押しタイプなんだよね。攻略が分かれば簡単に対応は出来る。
逆に、俺と似たタイプの技巧派が相手になると苦戦しそうだな……。
{特別にアプリ入れて上げたから}
{アプリ?}
{ゲームのカメラ機能を使って、相対する敵を映せば、レベルなんかが分かるようにしてあげたよ。使い勝手のレビューもしてくれると、とっても助かるんだけど。そんじゃ、また連絡してもいいからね}
レビューって……。やはり天界では、林檎のマークの実業家によるイノベーションが進んでいるようだ。
古い体制が淘汰されれば、そこにいた奴らは、付いていくだけで息切れしてそうだな。
メールの内容からして、きっとセラは古い体制側の立ち位置だったんだろう。と、勝手に推測。
「まあ、このアプリはありがたいけど」
ポツリと独白。
相手の情報を知ることが出来れば、相手と俺のレベル差で、どう対処すべきか選択が簡単になるからな。
情報を制した者が全てを制す。
無理っぽいのは素直にベル達に任せるのが、真の勝利者の戦い方よ。
きっと今の俺は、悪役フェイスで笑っているだろうな。
でもって、セラの最後の文面はスルーしてやろう。返信しないと、きっとあいつは不安に陥るだろう。
既読スルーなら尚更だな。
高慢ちきな死神ならぬ暇神の精神世界を攻撃したい。
このことで、俺の笑みは更に悪いものになっているはずだ。
さっきまでは格好良く指示していたカイルもそこは冒険者とばかりに、ヒャッハー! と、叫びながら、剣やら斧を両手で抱えるように持っている。
バロニアのハルバートや装備なんて奪い合いだ……。
「冒険者じゃなくて、野盗じゃねえか!」
「ま、あれがあるから戦ってくれるし、頼りにもなるわけだ」
勝利の余韻を煙草で楽しむゲッコーさん。
とにかく勝ったわけだ。
冒険者も兵士も、矢を放ち、最後は一斉に打って出るという活躍をした。
が、やはり。俺の側に立つベルの強さよ……。
この美人が一人で敵陣を大混乱に陥れる事が出来たから、勝てたようなもんだ。
先生のこの戦いが始まるまでの算段に、ゲッコーさんの火器とサポート。
俺がバロニアに勝てたのも、皆の支えがあったからこそだ。
――――そう、皆あっての勝利だった。だから俺をそんなキラキラした汚れなき眼で見ないでほしい、基本は女子とろくに口もきけない内気な男なんだから、そういうのは慣れてないんだ。
三爪痕、蹂躙王の配下を倒したことは、人間サイドが侵攻を受けてから初の大勝利だったようで、現在、王都では盛大に勝利の宴が開かれていた。
王様も大喜びで、俺達を待つために市井で待っていたっていうね。
あれだけ城の中に籠もっていたのに、それが城から出て、民と一緒に待っているっていうね。
俺がずっと王城に呼ばれても行かなかったのが原因かもしれないな。
民を犠牲にしてたってのもあるから、刺されるんじゃないかとも思っていたが、備蓄庫の扉を開いて、人々と共に宴の準備をしていた。
自分たちだけ安全な所に籠もっていたわりには、住民は王様に対してあんまり不服そうな顔を見せていなかったっていう不思議。
とにかく、お偉いさんから末端までが、俺とお近づきになりたいようで、相手をするのが疲れたので、現在は一人隠れて食事を楽しむ。
といっても、パンとスープだけだが。
普段から口にしてる甘いレーションに比べれば、こっちが美味しく思えてくる。
「む?」
――……スープをすくう手が震えだす。
緊張がとけたのか、急に怖くなってきたのか、震えだしてきた。
「まったく、こんな所は勇者として見せられないな」
独白しつつ周囲を警戒。誰もいないことに安堵だ。
しっかし、俺みたいな低レベルな存在がよく勝てたもんだ。
ベルやゲッコーさんのサポートがあったからってのもあるが、対峙したのは俺本人だからな。
足も震えることなく戦えたのは、サポートによる圧倒的な安心感のおかげだ。
冷静に相手の行動を見て取れたのは、命のやり取りってのはないけども、剣道で培ってきた経験も活きたんだろう。
やはり、ひたむきに高校でもやってりゃよかったと、死んでから後悔する。
こんな経験は普通ないけども。
テッテレー♪
「おっふ!?」
人気の無いところで考え事をしている時の急な音はビクッとなるね。情けない声も出してしまったし。
「この音は」
以前も耳にした音。ディスプレイを見れば、
{レベル24}
って表記だ。
一気に上がったな……。アバウトすぎるが、バロニアってホブゴブリンを倒したことでの評価か。
そうだな、これはレベルっていうか、評価だよな。
{おい、セラ}
{なに?}
――……返しが本当に早いな……。
こいつ以前もだったが、暇人ならぬ暇神だな。
ゲームも好きそうだし、年中引きこもってゲームしてそうだな。態度はアレだし、やはりボッチプレイヤーか?
{俺のレベルが上がったぞ}
{それは重畳}
{いくらボスクラス倒したからって、急激に上がりすぎじゃないか? 22もアップしたぞ}
{あのさ、これは指標だから。君の現状の努力を数値化した結果だから。大きな活躍をすればそれだけ強くなったと判断される。現実でも商談が上手くいけば出世も近づくもんでしょ}
語末の例えは学生の俺には響かないぜ。だが、思った通り、レベルというより単純に評価だな。
{いい、社会に出るとね、大きな企業なんかだと、社員の実力は全てが数値化されて、それこそゲームのパラメータみたいに、レーダーチャートで表記されるんだからね。機械的なしょっぱくて寒い時代よ}
続けて送ってくるけども、しかも社会のことが続いてるし。
{それは天界での、お前の評価で使用されてんじゃないの? さぞ低いんだろうな}
{は! 見る目が無いわね~}
見る目あると思うぞ、理由としては、メールの返しがくい気味の速度なんだよ。どんだけ打ち込むの早いんだよ。暇神め!
{まあいいや。この数値は信頼出来るんだろ?}
{出来るわよ。バロルドの実力からして、レベルで評価するなら40はあったはずだからね。レベルの差分で上がったって考えていいんじゃないの}
{あいつで40もあんのか}
振り下ろす基本がなってないから、もっと低いと思ってた。
{相性が良かったんじゃないの?}
確かに、あいつって力任せのごり押しタイプなんだよね。攻略が分かれば簡単に対応は出来る。
逆に、俺と似たタイプの技巧派が相手になると苦戦しそうだな……。
{特別にアプリ入れて上げたから}
{アプリ?}
{ゲームのカメラ機能を使って、相対する敵を映せば、レベルなんかが分かるようにしてあげたよ。使い勝手のレビューもしてくれると、とっても助かるんだけど。そんじゃ、また連絡してもいいからね}
レビューって……。やはり天界では、林檎のマークの実業家によるイノベーションが進んでいるようだ。
古い体制が淘汰されれば、そこにいた奴らは、付いていくだけで息切れしてそうだな。
メールの内容からして、きっとセラは古い体制側の立ち位置だったんだろう。と、勝手に推測。
「まあ、このアプリはありがたいけど」
ポツリと独白。
相手の情報を知ることが出来れば、相手と俺のレベル差で、どう対処すべきか選択が簡単になるからな。
情報を制した者が全てを制す。
無理っぽいのは素直にベル達に任せるのが、真の勝利者の戦い方よ。
きっと今の俺は、悪役フェイスで笑っているだろうな。
でもって、セラの最後の文面はスルーしてやろう。返信しないと、きっとあいつは不安に陥るだろう。
既読スルーなら尚更だな。
高慢ちきな死神ならぬ暇神の精神世界を攻撃したい。
このことで、俺の笑みは更に悪いものになっているはずだ。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる