異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
上 下
26 / 1,722
攻略、リド砦

PHASE-26【ギスギス】

しおりを挟む
「躊躇するとは情けない」
 反面ベルは冷たく俺を見下すように言ってくる。

「でもさ、俺、命を奪うとか――」
 経験が無いと、続けようとしたところで、胸ぐらを掴まれてしまう。
 強く引かれてガクンと首が動く。むち打ちになるかと思った……。

「ふざけるな! 私たちにだけ命を奪う役をやらせ、お前は高みの見物か!」

「そ、そうじゃなくて」
 く、苦しい……。凄い剣幕と炯眼だ。
 目を合わせることも出来ない。
 だからこそ余計に苛立ったのか、歯を軋らせる音が耳朶に届く。

「だ!?」
 倒された。地面に尻餅をつく。岩肌だから凄く痛い。

「なにすんだよ」

「黙れ腑抜け!」

「命のやり取りに意を唱えて、躊躇したら腑抜けなのかよ!」
 殺すことが正しいのかよ。感性あわねえよ。

「こんな男が私たちを呼び寄せたとは! さっさと元の世界に帰してもらいたいな」

「そんで命の奪い合いか? 殺せることがそんなに偉いのかよ」

「なんだと!!」
 ベルの周囲から大気がひりつき始める。
 俺だけでなく、近くにいる女性たちも怯える。

「いい加減にするんだ。こんな寒空の下で、女性たちをこんな姿のまま、いつまでも放っておくつもりか?」
 ゲッコーさんが間に入る。
 ベルはフンと鼻先であしらうと、俺に背中を見せる。

「彼の世界で、彼が住む国は平和なんだ。こういう事から縁遠いんだよ」
 フォローをしてくれるゲッコーさん。

「だとしても、心構えの問題です。自分で行動と実行が出来ない者と行動すれば――」

「――皆が死ぬ。それは理解している。だが、もう少し待ってやれ。こういう状況下だから、待つのも歯がゆいだろうが、待ってやれ」
 なだめてくれている。
 最後の一言は凄く迫力があった。その声を受けて、ベルは俺を瞥見。
 でもそれだけだ。後は目も合わせてくれない。
 やれやれとばかりにゲッコーさんは笑んで、煙草を吸い始めた――――。

「いけそうか?」
 紫煙を口から吐き出しつつ、問うてくる。

「たぶん。というよりゲッコーさんは出せませんか?」

「ああ、無理だな」
 どうやら装備武器とかアイテムまでしか出せないみたいだな。
 二人で会話をしつつ、女性陣の移動方法を考える。
 流石に裸足で全裸に近い状態で、ここから王都まで歩きなのは酷だ。
 五十人ほどいる女性たちを一気に運べる案を出し合っていた。
 ゲーム内のトラックをと考えて、ゲッコーさんに頼んだけど、出せないとの返答。
 それを聞いてむしろ安心ではある。ゲッコーさんの作品には、核兵器搭載の二足歩行兵器もあるからな。
 あれだけは絶対の禁じ手だ。それを俺がコントロール出来るのはいい事かもしれない。
 もちろんゲッコーさんの事は信じているけども。そう、ゲッコーさんは……。

「俺にも見せてくれよ。奇跡の力を」
 何も無いところから銃器を出していることも、十分に奇跡だとは思うけども。
 言われてプレイギアを出し、

「輸送トラック」
 言えば、6×6輪駆動の幌付きのトラックが現れる。
 出せるんだな。人だけじゃなく、こういった物も。となると、ゲッコーさんの作品に出る二足歩行兵器は、絶対に召喚はしないようにしよう。
 じゃないと、俺が魔王を凌駕する大魔王になってしまう。

「M 939 5tトラックか」
 念のためにもう一台召喚する。

「十分だ」
 と、ご満悦だ。
 ただ二台召喚したのはいいけども、俺は運転はできない。
 無免許で法律違反とかはここでは関係ないけども。単純に運転経験が無い。

「……ベル、運転できるか?」
 さっきの事でちょっとギスギスしてしまったから話しかけづらいけども、勇気を出して話しかけてみた。

「――――見せてもらえたらな」
 ちょっとの間が凄く長く感じたぞ……。
 でも運転は出来るようだな。
 モチーフがWW1なんだし、軍将校なんだから、運転くらいは出来るよな。
 ――――見せてもらえたならと言っていたが、使用はほぼ変わらないようで、問題なく運転してくれる。
 ただ……。
 ゲッコーさん気をつかってくれたのかな……?
 正直よけいなお世話と言いたいよ。
 ベルが運転するトラックで、ベルの隣には俺……。
 はあ~……。なんて森閑だ……。トラックの駆動音と、揺れる音がよく聞こえるぜ……。
 異様に喉が渇く。大体、俺は女の子と会話とか普段はしないんだけど。
 それなのに、こんなスタイル抜群の美人の隣とか、ハードルが高いとかってレベルじゃねえぞ!
 トラックに併走する白馬に乗った方が、俺の精神世界アストラルサイドも穏やかってもんだ。
しおりを挟む
感想 587

あなたにおすすめの小説

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...