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俺、異世界に来たんだってよ
PHASE-11【現状、無理ゲーだというのは理解できた】
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「遠き地より降り立った勇者よ。魔を払い。我らを救ってくれ」
縋らないでくれる。いい歳した初老に、足に抱きつかれても嬉しくないよ。
周囲もそれに連動するかのように、俺に近づいて来た。
距離を取っても詰めてくる……。こいつら弱ってる割には、いい動きするじゃないか。
血色のいい出っ歯のおっさんも、俺に泣きながらしがみついてくる……。
鎧の人だけが冷静に状況を眺めている。
迫るおっさん達に、自然と脳内で、【カバディ、カバディ、カバディ――――】と連呼してしまう。
鬱陶しいのもあるが、何よりも臭い……。こいつら風呂に入るといった習慣はないのだろうか……。この臭いだけで天に召されそうだ…………。
「甘えないでいただこうか」
俺の横にいたはずのベルヴェットが少し後ろに下がって、怜悧に言い放つ。ハンカチで口元を押さえている。臭いが嫌だったようだ……。
長身からの見下ろしでもゾクリとするのに、エメラルドの様な輝きある瞳からの炯眼で、更なる迫力を与えてくる。
俺に縋っていたおっさん達がそれに気圧されたようで、一斉に離れた。正直、助かった。
「王であるなら、兵を率いて民を救うべきでしょう。それを怠り、この様な場に籠もり、その間にも民は苦しんでいる。この王城にすら避難させないとは」
二の句を継いで、この場の皆さんを批判。
ベルヴェットの威圧感。
兵たちから聞かされたであろう、炎によるオークの壊滅。
そんな武勇の持ち主の発言に、おっさん達は視線を合わせる事が出来ないでいる。
ただ一人、鎧を纏った偉丈夫だけが、真摯に発言を耳にしていた。
高慢ちきなキャラかと思っていたけど、ちゃんと敬語は使えるんだな。
皇帝に対して絶対の忠誠を誓っていると、設定集には書いてあったな。
目上への礼儀はしっかりしているようだ。まあ、軍人なんだから当たり前か。
「勇者殿、この女傑の紹介を」
と、王様が聞いてくるから、教えてやろうとすると、
「私はベルヴェット・アポロ。プロニアス帝国軍、ラドリア方面軍所属。階級は中佐」
「プロニアス? 帝国軍? ラドリア? ちゅうさ? 聞かない階級であるな」
ここって中世みたいなもんだからな。時代が違う軍階級じゃ、分からないのは当然か。
「中佐って、どのくらいの兵を指揮するんだ?」
ここは指揮できる兵の人数で教えれば、どのくらいの階級なのか理解するんじゃないのかと、俺が質問してやる。
「私が指揮できるのは三千ほどだ」
「「「「三千!?」」」」
やはりシンクロしてリアクションをとるのが、ここのお偉方の仕事らしい。
なんだよ三千って。凄いのか? まあ、一人が三千を指揮できるってのは凄いだろうけども。
三国志や戦国時代を代表する戦略タイプの歴史シミュレーションゲームなんかだと、武将が万単位で指揮してるのが当たり前じゃん。三千はそこからするとな~。
「我らの最高位が、私の千人隊長なのに、その三倍とは……」
鎧の偉丈夫が、ようやくここで口を開いた。
軍を統制する権限は、王を除けば一番のお偉いさんみたいだ。
最高が千人なら、ベルヴェットの三千って凄いな。
「貴女もこの世界の人間ではないのですよね?」
「無論です。あのような生物は見た事がありません」
偉丈夫が丁寧に聞いてくれば、ベルヴェットも丁寧に返す。
ベルヴェットも、この中では話せる人物だと思ったのか、会話のやり取り中、偉丈夫を炯眼で睨む事はしなかった。
「三千もの兵を指揮する女傑よ。我らとて挑んだ。だが、圧倒的な力を有する魔王軍によって、要所は陥落し、王都まで侵攻を受けるまでになっていた……。各地では反抗してくれている者達もいるというが、決定的な勝利を収めたとは耳にしない。このままでは人の世は終わってしまう。そんな時、王都近辺に駐留する敵を壊走させたのが貴方方なのです」
偉丈夫が王様と違い、はっきりとした語気で口を開く。
この中で唯一だろう、前線で戦ってきた気骨のある言。信頼は出来る。
発言が信頼できるからこそ、人の世が終わる一歩前の無理ゲーな世界だという事も理解できた……。
どうすんだよ。現状、この世界の殆どが魔王軍の領土になってるって事なんじゃないのか?
戦略シミュレーションゲームの場合、領土の半分を統治できたら、途端にぬるゲーになるからな。
こっちサイドは無理ゲー。魔王軍サイドはぬるゲー……。
勝ち目ねえよ……。
さっき敵は駐留って言ってたし。
相手にとって王都の戦いは、消化試合みたいな手抜きな攻めになってたんだな。俺が来る前にも、潰そうと思えば潰せてたんだろう。
おかしいと思ったんだよ。たかだか百程度で侵攻してんだから。相手からしたら事後処理もいいとこだったんだな。
きっと逃げ惑ってる兵士や住人を見て楽しみ。殺して楽しみ。奪って楽しむ。あいつらは、ここの人達をおもちゃにしてたんだろう。
「それに魔王軍は瘴気をまき散らし、大陸を人々が住めない大地へと変えているのです」
――……これ、日本に帰れなくなるんじゃないか? もう一回転生して、次のチャンスにかけるべきだと思うんだが……。
縋らないでくれる。いい歳した初老に、足に抱きつかれても嬉しくないよ。
周囲もそれに連動するかのように、俺に近づいて来た。
距離を取っても詰めてくる……。こいつら弱ってる割には、いい動きするじゃないか。
血色のいい出っ歯のおっさんも、俺に泣きながらしがみついてくる……。
鎧の人だけが冷静に状況を眺めている。
迫るおっさん達に、自然と脳内で、【カバディ、カバディ、カバディ――――】と連呼してしまう。
鬱陶しいのもあるが、何よりも臭い……。こいつら風呂に入るといった習慣はないのだろうか……。この臭いだけで天に召されそうだ…………。
「甘えないでいただこうか」
俺の横にいたはずのベルヴェットが少し後ろに下がって、怜悧に言い放つ。ハンカチで口元を押さえている。臭いが嫌だったようだ……。
長身からの見下ろしでもゾクリとするのに、エメラルドの様な輝きある瞳からの炯眼で、更なる迫力を与えてくる。
俺に縋っていたおっさん達がそれに気圧されたようで、一斉に離れた。正直、助かった。
「王であるなら、兵を率いて民を救うべきでしょう。それを怠り、この様な場に籠もり、その間にも民は苦しんでいる。この王城にすら避難させないとは」
二の句を継いで、この場の皆さんを批判。
ベルヴェットの威圧感。
兵たちから聞かされたであろう、炎によるオークの壊滅。
そんな武勇の持ち主の発言に、おっさん達は視線を合わせる事が出来ないでいる。
ただ一人、鎧を纏った偉丈夫だけが、真摯に発言を耳にしていた。
高慢ちきなキャラかと思っていたけど、ちゃんと敬語は使えるんだな。
皇帝に対して絶対の忠誠を誓っていると、設定集には書いてあったな。
目上への礼儀はしっかりしているようだ。まあ、軍人なんだから当たり前か。
「勇者殿、この女傑の紹介を」
と、王様が聞いてくるから、教えてやろうとすると、
「私はベルヴェット・アポロ。プロニアス帝国軍、ラドリア方面軍所属。階級は中佐」
「プロニアス? 帝国軍? ラドリア? ちゅうさ? 聞かない階級であるな」
ここって中世みたいなもんだからな。時代が違う軍階級じゃ、分からないのは当然か。
「中佐って、どのくらいの兵を指揮するんだ?」
ここは指揮できる兵の人数で教えれば、どのくらいの階級なのか理解するんじゃないのかと、俺が質問してやる。
「私が指揮できるのは三千ほどだ」
「「「「三千!?」」」」
やはりシンクロしてリアクションをとるのが、ここのお偉方の仕事らしい。
なんだよ三千って。凄いのか? まあ、一人が三千を指揮できるってのは凄いだろうけども。
三国志や戦国時代を代表する戦略タイプの歴史シミュレーションゲームなんかだと、武将が万単位で指揮してるのが当たり前じゃん。三千はそこからするとな~。
「我らの最高位が、私の千人隊長なのに、その三倍とは……」
鎧の偉丈夫が、ようやくここで口を開いた。
軍を統制する権限は、王を除けば一番のお偉いさんみたいだ。
最高が千人なら、ベルヴェットの三千って凄いな。
「貴女もこの世界の人間ではないのですよね?」
「無論です。あのような生物は見た事がありません」
偉丈夫が丁寧に聞いてくれば、ベルヴェットも丁寧に返す。
ベルヴェットも、この中では話せる人物だと思ったのか、会話のやり取り中、偉丈夫を炯眼で睨む事はしなかった。
「三千もの兵を指揮する女傑よ。我らとて挑んだ。だが、圧倒的な力を有する魔王軍によって、要所は陥落し、王都まで侵攻を受けるまでになっていた……。各地では反抗してくれている者達もいるというが、決定的な勝利を収めたとは耳にしない。このままでは人の世は終わってしまう。そんな時、王都近辺に駐留する敵を壊走させたのが貴方方なのです」
偉丈夫が王様と違い、はっきりとした語気で口を開く。
この中で唯一だろう、前線で戦ってきた気骨のある言。信頼は出来る。
発言が信頼できるからこそ、人の世が終わる一歩前の無理ゲーな世界だという事も理解できた……。
どうすんだよ。現状、この世界の殆どが魔王軍の領土になってるって事なんじゃないのか?
戦略シミュレーションゲームの場合、領土の半分を統治できたら、途端にぬるゲーになるからな。
こっちサイドは無理ゲー。魔王軍サイドはぬるゲー……。
勝ち目ねえよ……。
さっき敵は駐留って言ってたし。
相手にとって王都の戦いは、消化試合みたいな手抜きな攻めになってたんだな。俺が来る前にも、潰そうと思えば潰せてたんだろう。
おかしいと思ったんだよ。たかだか百程度で侵攻してんだから。相手からしたら事後処理もいいとこだったんだな。
きっと逃げ惑ってる兵士や住人を見て楽しみ。殺して楽しみ。奪って楽しむ。あいつらは、ここの人達をおもちゃにしてたんだろう。
「それに魔王軍は瘴気をまき散らし、大陸を人々が住めない大地へと変えているのです」
――……これ、日本に帰れなくなるんじゃないか? もう一回転生して、次のチャンスにかけるべきだと思うんだが……。
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