灰墟になった地方都市でペストコントロールやってます 世界に必要な3つのこと (仮)

@taka29

文字の大きさ
上 下
56 / 58
6 私と彼女と石のつゆざむ

#5(β版)

しおりを挟む
『ちなみに幟(のぼり)のクマちゃん、あれね実在するんだよ』

道すがら、紙袋を覗いて中身を確認していたワカは、ふと、先ほど店主と交わした会話を思い出す。

『O(オー)製薬のマスコットキャラクターで名前は……ザ・ベアー、性別はメス、15さい、ボーイフレンドなし、好きな色はすみれ色』

『あのクマは仕事熱心でね。街中の薬屋に自分とこの製品を補充してまわってるんだ。うちにも月に二回、営業と補充にやって来る』

店主は得意げにザ・ベアーについて語った。

(何をバカバカしいことを……あの店主、痴呆が始まっているのでは)

そんな風に下らない事を思い出しながら歩いているから、見知らぬ小道へ迷い込む。

小道の奥でワカを待ち受けていたのは小綺麗な神社であった。

(街中のオアシス的な雰囲気、嫌いじゃない、静かだし……)

ワカはふらりと境内に足を踏み入れた。古風な賽銭箱と小さな社、絵馬かけなどが設置されている、境内には他に参拝客の姿はない。

(地図がある……)

どうやらここは地元の氏神を祀る神社のようだ。
ワカは本殿の賽銭箱に小銭を投げ入れ、ゆっくりと手を合わせた。

(厄疫退散……!)

小道の奥でワカを待ち受けていたのは小綺麗な神社であった。

(街中のオアシス的な雰囲気、嫌いじゃない、静かだし……)

ワカはふらりと境内に足を踏み入れた。古風な賽銭箱と小さな社、絵馬かけなどが設置されている、境内には他に参拝客の姿はない。

(地図がある……)

どうやらここは地元の氏神を祀る神社のようだ。
ワカは本殿の賽銭箱に小銭を投げ入れ、ゆっくりと手を合わせた。

(厄疫退散……!)

目を瞑り、手を合わせ、一心に拝礼する。

「ずいぶんと熱心に祈願されとる」
どのくらいそうしていたのか、ふと声をかけられたワカは、ハッとして後ろを振り返った。

いつの間にかそこに二人の人影が佇んでいた。
「この辺の子じゃないね?」
人影は初老の男女で、二人とも時代劇映画から飛び出して来たような和装だった。

「顔は地味じゃが若い頃のあたいにそっくり」
婆が、ワカを興味深げに眺めながら言った。
「芸を仕込めば化けそうじゃのう」
爺が腕組みをしてニヤリとする。

「あの、いったい何のことでしょうか……」
ワカの声に警戒の色が混じる。
──これは怪しい、今すぐ逃げるべきだ、頭の中で警鐘が鳴り響く。しかし、動けない。二人が進路を塞ぐように立っているからだ。

パシン!、爺は、どこから取り出したのか扇子を開けたり閉じたりする。
それは、時代劇で悪代官が悪巧みする時の所作によく似ていた。

「さて。お嬢ちゃんはこの辺りが昔からの茶屋街だって事は知っとるかのぉ?」
「最近越してきたので詳しくは…」
「かつてこの地区には女郎屋があったんじゃ。その名残の店々が残っているのだよ」
「へー、そうなんですね」
ワカは適当に相づちをうつ。

「歴史の勉強になりました、それじゃあ、私はそろそろ…」
帰りが遅いと叱られるので……、そう言って、ワカは踵を返し立ち去ろうとした。だが。

「待たんかい!!!」

突然、婆が叫んだ。

「……実はうちの若い子が最近急にやめちゃってねェ、新しい子が中々見つからんで困っとったんよ~~、ちょうど良かった、うちの店で働かんかね?」

「いえ、結構です」

ワカは即座に断りを入れた。だが、
「オメカシしてお酌するだけだから」
「明るく楽しい職場だよぉ、最後まで面倒みるよぉ」
などと、二人はしつこく食い下がる。

「…ご覧の通り、私は未成年です、持病もある、悪いけど、他を、あたッ!」
パシン!ワカがその場を退散しようとした矢先、爺はワカの頬を閉じた扇子でうち据えた。

「……うん?なんかお前さん生意気だねぇ……わからせないと、わからないみたいだねぇ」

ワカは顔をしかめた。恐怖心よりも不快感の方が勝る。

「決めた、お前はしばらく店の地下蔵で教育してから店に出す」
「泣きわめいても無駄よ、こっちは年季が入っとりますけんね!」ははははは、ほほほほほ、黄昏時の神社の境内に男女の笑い声が響く。

(…わけがわからない…)

この二人は女郎屋の主人と女将なのか。もしくはタイムスリップして自分がそういう場所に紛れこんだのか。
後者ならば辻妻は合うが、どちらにしても嫌すぎる……。

「おや、急におとなしくなって、覚悟がついたのかい!?」
「アンタ、やったね!あたいらは金の卵をゲットしたよッ!!」
ははははは!、ほほほほほ!


押し黙ったワカを見て歓喜鼓舞する二人。

(頭痛くなってきた…あと吐き気も…)

ワカがうつむき、ため息を吐こうとした、その時だった。

(…あれ?)

突如訪れた沈黙にワカは混乱する。おそるおそる様子を伺うと、二人はひどく怯えた表情で境内脇、御神木の陰を凝視している。ワカもつられて視線を移す。

そこには着物姿の女性が立っていた。美しい姿だけれど様子がおかしい。
和服女は何の冗談か、山の洋館のトヨミ、町外れの灰色教会のジェミミと同じく、クロエに『瓜二つ』だった。

「「ひっ、ひいいいいいいッ!」」
老人達は女を見つめたまま、情けない悲鳴を上げ、後退りする。
そして、しまいには二人そろって一目散に退散していった。ワカは呆然と、その光景を見送った。

つづく

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

恥ずかしすぎる教室おねしょ

カルラ アンジェリ
大衆娯楽
女子中学生の松本彩花(まつもと あやか)は授業中に居眠りしておねしょしてしまう そのことに混乱した彼女とフォローする友人のストーリー

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、娘の幼稚園の親子イベントで娘の友達と一緒にいた千春と出会う。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになると思うのでご安心ください。

【フリー台本】一人向け(ヤンデレもあるよ)

しゃどやま
恋愛
一人で読み上げることを想定した台本集です。五分以下のものが大半になっております。シチュエーションボイス/シチュボとして、声劇や朗読にお使いください。 別名義しゃってんで投稿していた声劇アプリ(ボイコネ!)が終了したので、お気に入りの台本や未発表台本を投稿させていただきます。どこかに「作・しゃどやま」と記載の上、個人・商用、収益化、ご自由にお使いください。朗読、声劇、動画などにご利用して頂いた場合は感想などからURLを教えていただければ嬉しいのでこっそり見に行きます。※転載(本文をコピーして貼ること)はご遠慮ください。

処理中です...