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4 デイオフ

#5β3

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ひとっけのないお屋敷って不気味ですよね……
薄暗い廊下とか絶対怖いし、トイレ行く時だって勇気を振り絞らないとなりません。そんなことあるわけないと頭ではわかっていても怖いものは怖いのです。ホラー映画なんて怖くて目を瞑る派だった私が、まさかこんな目に逢うなんて思いもしませんでしたよ……。

地底湖にかかった一本の鉄橋。アンネビック式の橋梁からは黒い鏡のような湖面が一望できます。橋の中央に立つ私達の目の前に広がるこの光景だけでも恐怖の対象に十分値するでしょう。水面から伸びるように続く橋脚の上に佇む白い少女達。
彼女達は私達に気がつくとゆっくりと歩み寄り、そして……
(失礼します)トヨミさんが不意に籠から<少女たち>に
<灰>をぶちまけました。すると<少女たち>は煙のように跡形もなく霧散してしまいます。いったいこれは何の冗談か?時は十数分前に遡ります───。

トヨミさん、非常にヤバい事態っていったい何が起きるんです?騒音をたてると起きる現象ってことは理解しましましたけど!
(とりあえず順番に説明いたしますのでそのままお着替えをお続けください、ぽぽぽ)
私からの矢継ぎ早な質問を冷静にいなしていくトヨミさん。さすが年長者、いざというとき頼りになります。

あの子達は何なんですか?
(はい、あの子たちは手当たり次第に人間を<異形>に変えては食べる存在です。)
あ、やっぱりそっち路線ですよね灰ペス。じゃあ標的は私たちってことですかね?
(……ちがいます)
はい~?どう違うっていうんですか?

(トヨミとワカは異形になることはありえません)
ええ!?(なんで?)
(それはですね……)
「……<同じもの>の標的はわたしですわ」
着替えを終えたオソレがため息混じりに答えます。
あの子達、買収とか示談の通じる相手じゃないですよね多分。
となると─作者の苦手な─戦闘しかないのかな……

「ああーもうじれったい!そこで、これの出番ですわ!!ふふん♪」
オソレの指示でトヨミさんが地下室から運んで来たのは山盛りの灰が入った籠でした。
「それなに?」
「灰です」
「なるほど……」
「お清めの塩ってありますよね?」そう言って<灰>を掴んだオソレは、えい!出窓からこちらを覗いてニタニタ笑っていた<同じもの>に<灰>をぶちまけました。すると<同じもの>は煙が風で吹き散らされるように跡形も痕跡も残さず消え去りました。(こいつは…強力すぎる)

「<同じもの>はこの世のものではありません、ですから同質の力を持った<灰>をぶつければ一時的に無力化できるのです」
咳払いひとつ、オソレが告げる。
「いつの間にこんなもの準備してたんすか……」
確かにこの場所は普通じゃありません。薄々感じていた疑問をオソレにぶつけてみました。この場所はいったい何?

「この屋敷、冠水したとある研究所の中央棟ををベースに建てられたんですわ」
オソレが指差したのは<同じもの>がひしめく正門前……の向こうにかかった鉄橋。
「あの橋を渡りましょう、来た時と同じように粛々と、
いま用意できる<灰>はこれで全部ですわ、この量で充分なはず…さぁ急いで逃げましょう。トヨミが正気のうちに」
ええ?正気?
ちらり、トヨミさんを横目で伺うと澄まし顔で
「申し遅れました。わたくし<同じもの>としてうん十年お屋敷のお世話全般を任されております。このトヨミ、かわいい女の子にも容赦いたしません!」
淡々と恐ろしいことを言い放つのです。
ええ~!?
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