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3 二つの影

#2β1

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「あー!私のロマノフが!」
「おや?もう食べちゃったのか。さすがはドク、ハチミツが大好物だねぇ」
「……ひどい……」
「まぁまぁ、実はちょっと多めに色んなお菓子を作り置きしてあったんだ。用意しようか?」
「いいんですか?やった!」
「らめれすよ~!あれはじぇんぶわひゃひの分なんれすからぁ」
ドクが目をとろけさせながら言うと、男は無視して再びキッチンへ向かった。
「うわぁ……すごい量ですね」
「どや?……」
テーブルの上に置かれたのは、パンナコッタ、マドレーヌ、クッキー、パイなどなど様々な種類のお菓子だった。どれもこれも美味しそう。
「ほら、ドク。もうすぐ始まるぞ」
二人のカップにお茶のおかわりを注ぎながら男が言う。
「あ、ほんとれすね……」
ドクがポツリと呟くと先程から代わり映えのしなかった駅前の映像の中で変化が生じた。
***
我が名はラブラクラ……
かつての名はワキイシ……ワキイシ、トナミ(48さい)。
妻(38さい)と子供二人の四人家族だった。
かつてワタシはT大付属病院、歯科口腔科に勤務する医師だった。年収は軽く1000万を超えるエリート中のエリート。
ワタシは失敗しない。……そう思っていた時期がワタシにもあった。だがワタシは失敗した。
6月のある日、いつものように業務を終えたワタシは、院長から呼び出しを受けた。何かミスでもしたのだろうか?そんな事を考えながら院長室に向かうと、そこには見なれない女の子が応接ソファーに座っていた。
その女の子は、スミレ色の瞳が印象的で、顔立ちも整った、まるで高級な人形のような印象を受ける女の子だった。
彼女はソファに座りながら優雅に紅茶を飲みつつ、洋書をペラペラとめくっていた。
チラリと目に入った本のタイトル名は和訳すると『世界の塗りつぶし方』。何とも物騒なタイトルである。……こわー
「院長、お呼びでしょうか」
ワタシは再び少女を一瞥してから院長に一礼した。
「ああ、来たか。……実は、君に会いたいとおっしゃる方がいてね、この子はその方のお孫さんなんだ」
「はぁ……私に?」
正直、嫌な予感がした。院長の話しぶりからして、キナ臭い匂いがプンプンした。
「そうだ、T新聞の夕刊にコラムを連載したり地元テレビの情報番組に出演したり最近発表した論文が高い評価を受けて近頃『勢いビンビン』の君にだ」
「……」
正直言ってワタシはこのタヌキ親父は嫌いだ。だが恩を売っておくには良い相手でもある。一応、話だけでも聞いておくか。
「わかりました。それで私は何をすればよろしいのですか?」
「うん、実は……」
トントントントントンドン……ガチャリ。
「ごめんくださぁーい、清掃業者の者でーす」
突然、院長室の扉が開き、中年の作業員が入ってきた。
「今取り込み中だ。後にしてくれ給えッ!」
ワタシは業務の疲れと話の腰を折られた事に苛立ち、つい声を荒げてしまった。
「あ、すいません。掃除しながら来たので少し遅れてしまいました……院長、この方がワキイシ先生ですね」
作業員が台車を部屋の内側、扉の脇に停めてこちらに問いかけてくる。何だこの状況?
「こっ、この度は、当院のワキイシが大変無礼な真似を!申し訳ございませんんぅ!」
椅子から弾かれるように起立した院長がまるで医療事故の謝罪会見のように謎の男に深々と頭を下げた。
(まっ、ワタシは絶対に現場で事故は起こさないが)
「院長さん、そんなに謝らないでください。こんな格好で来た私の落ち度なんですから。さぁ顔を上げて」
謎の男が目を細めて院長に優しく語りかける。どうやらあの男は院長より立場が大分上の人物のようだ。
(まぁワタシはアイツが嫌いだから一緒に謝らないけど)
「……さて、ワキイシくんと言ったかな?君に見せたいものがある。私はオソレガミ。とりあえず一緒に来てください」
「ええと、どちらへ行けばよろしいんでしょう?」
「今にわかります」
男がワタシに手を差し出す。ワタシは男と握手を交わした。
***
十数分後ワタシとオソレガミ氏とその孫の三人を乗せた高級車は、ひっそりとT市の北にある感染症研究所に向かった。数年前、急に東京から移転してきた施設だ。
「ところで……何故ワタシなんですか?私の専門は歯!ヒトの口の中、口腔のケアですよ」
先程から気になっていた事をオソレガミ氏に訊ねる。
「ふむ、そうですねぇ……それは……」
「あーダメですよおじいちゃん。それはまだ秘密にしておかないと」
オソレガミ氏の孫娘さんが鈴を転がすような声で初めて口を開く。
先程の本を読み終わったらしく今はコントローラが外れる新型ゲーム機で子供に人気の携帯ゲーム、ミニモンボーをプレイしていた。画面を覗き込むとオープンワールドの中で女の子がミニモンに指示を出し戦っているところだった。
「おっと失礼、まだ内緒だったか。実はある症状の患者さんに君がピッタリなんだよ」
オソレガミ氏が答える。
「私にぴったり?」
「ああ」
そう言うとオソレガミ氏は柔和(邪悪)な笑みを浮かべた。
「……」
一体どんな症状なんだ?もしや新型の感染症か?
***
「お待たせしました、到着です」
それからしばらくして『感染研』の地下駐車場に車を停め、三人でエレベーターに乗り込む。
「あのぉ……これからどこに行くんですか?」
「まあまあ、もうすぐ分かりますよ」
オソレガミ氏がワタシの質問をはぐらかす。
「おじいちゃん、お腹空いた~」
孫娘さんがオソレガミ氏の服の袖を引っ張って駄々をこね始めた。
「ああ、そうだなぁ……じゃあカフェで先に腹拵えしようか」
「やったー!」孫娘さんが万歳ポーズをとって喜ぶ。
第一印象はヤバい感じの子かと思って引いてしまったが、少なくともこの時点では祖父に甘える年相応の可愛らしい女の子だと見くびっていた。だが、まさかあんな事になるとは……
(ん?)
彼女が纏っているフリル付きのワンピースドレス。その胸元からチラリ、と妙なものが見えた。一瞬、アクセサリーか何かと思ったが……その宝石の結晶のような物体は彼女の胸元から皮膚を突き破って直に生えている。……ように見えた。
(……学会発表が近いから疲れが貯まって幻覚でも見たのかしら?)
困惑しているワタシと目があった彼女は人差し指を自分の唇に添えて軽いウインクと「シー」というジェスチャーをした。
(……)
「よし、では行きましょうか」
「はい」
小一時間の間、カフェのあるフロアで一旦孫娘さんの食事に付き合ったワタシ達は
再びエレベーターに乗った。そしてエレベーターが目的の階に到着する。
***
扉が開いた瞬間、目の前には……
「うわっ!?」
一面に広がる広大な白い壁のフロア。ワタシは思わず仰け反った。
「このセクションは海外から持ち込みまれた新種の病原体やウイルスの研究、謎の奇病。その他諸々をやっています」
オソレガミ氏が自慢げに解説する。
「へぇ……」
「わたし、おトイレ行ってくる」
「うん、行っておいで」
オソレガミ氏が言うと孫娘さんは小走りに何処かへと消えていった。
「さて、あなたに見ていただきたいのはこの子です」
防護服に着替えた我々は集中治療室のような部屋に通される。
仕事柄、この手の部屋へ足を運ぶことが多いワタシだが、この類いの部屋は正直苦手だ。無性に圧迫感を感じる。
オソレガミ氏が扉を解錠する。そこにはベッドの上で眠っている一人の少女がいた。
「これは!?」
少女の首から下は至って健康そうにみえる。まぁ昏睡状態なので肌の色は悪いのだが。しかし口に当てられているのは酸素呼吸器ではなく猿ぐつわに見えた。
(やべーよ、このじいさん……事と次第によってはさっさと帰らなければ……)
「ああ、大丈夫ですよ。ただ薬で眠ってるだけなんで」
オソレガミ氏がワタシの懸念に先回りするように言う
「はぁ……(いや、そっちの大丈夫じゃねーよ!)」
「近頃、子供にだけ発症する奇病が流行ってるのはご存じですよね?彼女ねぇ、お父さんが貨物船の船員でして、時々海外の珍しい病気を持って帰ってたんですよ。猿とかコウモリから移るやつ、それで一応定期的に検査してたんですけど、ここ最近忙しくてつい忘れちゃってたんらしいんですよねぇ……そしたらコレ。ちなみに奇病との因果関係は不明です」
「……」
「あっ、もしかして新型ウイルスの感染症とかだと思いました?いやいや、ご安心ください ここは対策万全の施設です」
オソレガミ氏はヘラヘラと笑う。段々このじいさんの微笑みが邪悪に見えてきた。
「……」
「で、ワキイシ先生に見せたいのはですね、この子の口の中ですよ。ほらコレ」
手際よく彼女の猿ぐつわを外したオソレガミ氏に促され、ワタシは彼女の口の中を覗き込んだ。
「えっ?」
口の中はドス黒く変色し歯がケモノ……といううより恐竜図鑑で見た肉食竜の牙のように鋭く尖り、所狭しと生えていた。
「あー、やっぱり驚きますよね」
オソレガミ氏は困ったように頭を掻いた。
「いや、別に……」
ワタシは努めて冷静に答えた。
「この子は今、奇病を患っています。まだ症状は軽いですが、放っといたら今風に言うと確実にヤバイでしょう」
「そ、そんなことってあるんですか?」
「まあ、普通はないですねぇ」
「なら何故ワタシに……んあーっ!」
急に大声を出すワタシに驚いたのか、オソレガミ氏の肩がビクッと跳ね上がる。
「な、何ですかいきなり」
「……ワタシは医者として様々な症例を見てきました。でもこんなケースは初めてです」
「はぁ、つまり……?」
「ワタシの専門領域は病理学じゃないんですよ。だから詳しい事はわかりませんが、おそらく彼女は新種の細菌のようなものに身体の内部を侵食されているはずです」
「おぉ、なるほど」
「この症状は恐らく、体内の免疫細胞が変異しているものと思われます」
「ふむ」
「このまま放置すれば、いずれ全身に『この症状』が転移するでしょうガンみたいに」
「そうか……では、やはりワクチンを投与するしかありませんね」
オソレガミ氏が焼きそばに青のりをかける?というような気安さで意見を求めてくる。
「えぇ、でもワクチンを作るには材料がいるんじゃないですか?それに作る設備だって必要だしぃ……」
「その点はご心配なく。ワクチンの材料は既に揃っ……おっと、起こしてしまったみたいですね」
「うぅ……」
少女は目を擦りながらこちらを見つめる。
「起こしちゃったかな?私だよ。キミの病気を見てもらうために大学からスゴイ先生を呼んだんだ」
オソレガミ氏は優しい口調で少女に語りかける。
「うがっ……」
少女が横になったままこちらをチラリと伺う。
(普通こういう患者は性別問わず小汚なく見えるものだが……)
少女の容姿はかなり整っていた。ワタシの見立てだと年齢は10歳くらいだろうか? 艶のある長い黒髪に白い肌。そして瞳は吸い込まれそうな深い青色。まるで異国のお姫様だ。
(しかし、この顔どこかで……いや、まぁいいか……)
「ワキイシ先生、どうします?」
「……えっ?あぁ、とりあえず血圧でも計りましょう。あまり負担をかけないように、それから栄養剤を点滴してください」
「了解しました☆」
……思えばあの時点で田舎の病院から紹介状を携えてやって来る『お客様』のようにテキトーに問診してさっさとあんなクソッタレな場所から帰るのが正解だったのだろう……もう、後悔しても遅いが
***
「生身でワタシにかなうと思うなよ、さっさと立ち去れ」
ラブラクラは駅前に急行してきた『ランナー』の生産タイプ、通称『救急車』から跳ねるように降車してきた七人の人影達を一睨みすると、吐き捨てるように言った。
だが七人の『スケット』にはラブラクラの言葉は全く理解出来なかった。彼らにラブラクラの声は意味不明な音にしか聞こえなかっただろう。
「ヨシ!」リーダー格の男の号令に従い、七人が一斉に動いた。駅廃墟のアーチ状のモニュメント、その梁を足場に器用に駆け登って行くと、アーチの天辺に記念撮影か何かのように綺麗に並んで立った。謎の逆光が強キャラ感を演出した。
「……何をやってるんです?あれは」
大画面モニターを眺めながらワカが尋ねるとドクが喉をお茶で潤しながら答える。
「ああ、あの人達、高いところ大好きなんですよ。多分なんかの儀式なんじゃないですかね」
「ふーん……まあ、いいか」
***
並び立つ七人の『スケット』。彼らは皆一様にデフォルメされたカエルのようなマスクを被り、ドラム缶のようなボディに屈強な手足を生やしていた。
「うぐっ……」
ラブラクラは樹脂製のマスクのような顔をわずかにしかめた。彼らの身体からは消毒薬と血肉が混ざったような悪臭が立ち上っているのだ。
(この匂い……やっぱりか)
ラブラクラは内心舌打ちをした。
「たったの七人に……舐められたものだ」
ラブラクラが静かに呟くと同時に「アクリ」の紐を引っ張る、と、彼女の身体が一瞬にして景色に溶け込む。そして、その姿が消えた。
「なっ!?」
突然の出来事に驚く『スケット』達だったが、すぐにメンバーの一人、どら焼きのような円盤を肩からぶら下げた
『スケット』が円盤を駅の吹き抜けに向けて構える。
「隠れても無駄やよ」
そう呟くとと共に円盤が不気味なうなり声を上げてレーダーのように回転する。
「……ヨシ!ターゲットの座標は捉えた。これで逃げ場はないぞッ、撃てぇー!」
金色の合図とともに、他の六人が一斉に手に持った銃を駅の床に発砲した。するとそこから光の線のようなものが現れ、それはあっという間に駅のフロア全体に広がった。
「やったか……」
リーダーの男が呟いた瞬間、、床から無数の黒い触手が伸びて、逃げ遅れた二人のスケットを絡め取った。「うわっ……なにこれ!?」
「離せ……ぐぅっ……」
触手はラブラクラの連れていたアクリの紐の先に繋がっており、その先端は駅舎の防火扉のの隙間へと消えている……
「……やれ!」
リーダーの男の号令に合わせて無事な者が扉に向かって発砲する。
ドォン!!
「よし、効いている!」
しかし、次の瞬間、 バン!!! 扉の向こうから凄まじい破裂音が響いて、体のほとんどを口にしたアクリが放物線を描いてこちらへ飛んでくる。そしてそれは拘束していた二人にかじりつくと、彼らを一瞬にして食いちぎってしまった。
「うわっ……何やこいつ……」
「気をつけろ、まだ来るぞ!!」
「クソッタレぇ……後退しろ!」
『スケット』達はスモークを炊きつつら出口に撤退する中、防火扉の奥からラブラクラが現れた。
「鬼ごっことは……ふむ、さっきのチビの仲間か」
先程の始末した一人が担いでいた円盤型の装置をバキンバキンと踏み割りながら
ラブラクラがポツリと呟いた。
***
「これで目眩ましのつもりか」
数十秒後、未だに晴れない煙幕の中からラブラクラの声と異形の触手が伸びる。
「クソー!」
銃を乱射するスケット達。
彼らは『ラボ』の本部からクマーリンが呼び寄せた精鋭隊であり、装備も通常の職員より充実して嬉しかったはずだ。
だがその弾丸の雨をラブラクラは平然と掻い潜ると、(どや?)と煙幕の中にフワリと姿を消す。スケッチはその身体に傷一つ付けられなかった。
「いない!?」「どこだ!?」
ボコリ……慌てるスケット達の足元の石畳が盛り上がる。
「チャン!迂闊に動くな!!」
咄嵯にリーダーが叫ぶがもう遅い、スケットの一人が足をすくわれて転倒した。
「うおぉおおッ!!!」
リーダーが駆け寄ろうとしたその時、 ドスン……
突然上から落下してきたラブラクラがスケットの上に覆い被さった。丁度おんぶ抱っこのような体勢だ
「え?」
リーダーは思わず足を止めてしまった。
「うわァーっぽお!?」
チャンの悲鳴が響く。と、ラブラクラはガシッと両手でチャンの頭を鷲つかみにすると、そのままフルーツか何かのようにグシャリと握り潰してしまった。
「ふぅ」
帰り血を浴びて白と黒と赤に染まったラブラクラはリーダーが子供時代に好きだったテレビ番組のヒーローにそっくりだった。
「あ……ああ……」
リーダーは目の前で起こったことが信じられず立ち尽くしていた。
と、「リーダーぁあー!なにも出来ないなら離れてぇー!」スケットの一人がランチャーを向けて叫んだ。
(!?)
リーダーは咄嗟にその場から飛び退いた。
直後、彼が立っていた場所に着弾し、辺り一面に破壊が吹き荒れる。
『ラボ』はある目的のために異形の核を可能な限り回収する旨をT大を通して駆除課に命じていた。だが、今回の作業では本格的な兵器の使用が許可されていた。この砲の本来の用途は『軍用スーツ』を着て脱走した兵士を現場で処分する為の野砲で通称クードグラスエギーユ(情けの一突き)と呼ばれるものだった。
その威力は凄まじく、直撃すれば、どんな頑丈な人間でも、いや、仮に装甲で身を包んだ相撲取りであっても、跡形もなく消し飛ぶだろう。
だが、今、その恐ろしい砲弾はたった一人の異形を殺すには余りに力不足であった。
「うわ……嘘やん」
「まだ、生きてるよ!?」
「おいーッ、なんなんだアイツは!!」
砲撃で完全に壁の一部が崩壊した駅舎からラブラクラがふわりと浮き上がると、そのまま外の高架に着地する。
スケットの一人が声を張り上げる。
「あいつは……あいつは俺達と同じ……」「いや、違う!」
リーダーが彼の言葉を遮って否定する。
「あれは『怪物』だ。俺たちとは全然違う。あんなやつは見たことがない。捉えたぞ、撃てぇ!」リーダーの号令のもとランチャーが再び火を吹き、轟音とともに弾体が発射される。
ドォン!! 再び着弾地点を中心に爆風が巻き起こり、土煙が舞う。高架の一部が崩落し、破片がパラパラと降る。
「やったか……?」
土煙が晴れるとそこにはラブラクラの姿はなかった、
「マジか……?!嘘……だろ……」
「……化け物め!!」
ラブラクラは触手を手足のように動かし獣のように走るアクリに跨がって高架の上を器用に移動した。
「ハハッ!さっきのはなかなか面白かったぞ!」
「ウゥー!」
立て続けに砲撃を撃ち込んでくるスケットを見下ろしラブラクラが忌々しく吐き捨てた。アクリも不機嫌そうに鼻?を鳴らす。
「全く、無粋な連中だな」
***
「!、突然ですがリュウスケサン、肩に小さな蟹が着いてマスヨ」
「ん?」
バーシアに言われたリョウスケは自分の左肩を見る。そこには確かに黒い小蟹がいた。
「あ、本当だ」
「…………(ジー)」
「えっと、どうしたの?」
見られていることに気がついたリョウスケが問いかけると、彼女は黙ったままその黒い甲殻をひょいと摘まみ上げ、
パクリと口に放り込んだ。
「!?」
ボリボリと蟹を噛み砕く音が聞こえた。
「……」
「ね、ねぇ……」
「……ナニ?」
「それ、美味しいのかな……?」
「……アジなんてしなイ」
「そ、そうなんだ……。」
「……ただの栄養補給ト尺稼ぎデス。今ので200モジは埋まりましタ」
「え、そんなに!?」
「君達、何してんの……」
「あ、クロエサン。実は……」
「それより、ヤバいことになってるみたい、さっきから小さい種類の異形が駅前から逃げ出してるみたいだ。さっきの爆発と関係があるかもしれない。少し急ごうか」
「はイ。ではワタシが先導しまスネ。」
「あ、お願いします……」
クロエ達は駅に向かって歩いた。遂に駅舎の周りに立ち並ぶ廃ビル街の地帯にやって来た。すると……
***
「叩き落とせぇー」
「生き埋めにしろぉ」
スケット達はラブラクラの捕獲を諦めたのか先程から重火器を盛大に撃ちまくって足場ごとラブラクラ達を瓦礫の生き埋めにする事に成功した。
「一時後退する、このまま……」
金色のリーダーが指示を出そうとしたその時だった。
「なんだ……あれは……?」
仲間の一人が叫んだ。
「まさか、100トン近い瓦礫の下で生きて……」
崩落した駅舎と高架の瓦礫。その中でも一際大きな瓦礫がゆっくりと押し上げられていく。
それはまるで、巨大な力が動いているような光景であった。
「……まずいな……えぇい」
リーダーが呟いた時、その巨大すぎる瓦礫の下からラブラクラ達が這い出して来た。どうやらラブラクラをアクリが庇ったようだ。
「くっ……、やはり駄目か……」
恐れおののくリーダー。だが、すぐに気持ちを切り替え、他のスケット達に命令を下す。
「逃げたら後ろから喰われる!総員抜槍」
「「「了解!」」」
スケット達は一斉にジャベリンを抜き構える。
「来い、化け物ども!」
リーダーが叫んだ。その声に「いや、違う!」
リーダーが彼の言葉を遮って否定する。
「あれは『怪物』だ。俺たちとは全然違う。あんなやつは見たことがない。捉えたぞ、撃てぇ!」リーダーの号令のもとランチャーが再び火を吹き、轟音とともに弾体が発射される。
ドォン!! 再び着弾地点を中心に爆風が巻き起こり、土煙が舞う。高架の一部が崩落し、破片がパラパラと降る。
「やったか……?」
土煙が晴れるとそこにはラブラクラの姿はなかった、
「マジか……?!嘘……だろ……」
「……化け物め!!」
ラブラクラは触手を手足のように動かし獣のように走るアクリに跨がって高架の上を器用に移動した。
「ハハッ!さっきのはなかなか面白かったぞ!」
「ウゥー!」
立て続けに砲撃を撃ち込んでくるスケットを見下ろしラブラクラが忌々しく吐き捨てた。アクリも不機嫌そうに鼻?を鳴らす。
「全く、無粋な連中だな」
***
「!、突然ですがリュウスケサン、肩に小さな蟹が着いてマスヨ」
「ん?」
バーシアに言われたリョウスケは自分の左肩を見る。そこには確かに黒い小蟹がいた。
「あ、本当だ」
「…………(ジー)」
「えっと、どうしたの?」
見られていることに気がついたリョウスケが問いかけると、彼女は黙ったままその黒い甲殻をひょいと摘まみ上げ、
パクリと口に放り込んだ。
「!?」
ボリボリと蟹を噛み砕く音が聞こえた。
「……」
「ね、ねぇ……」
「……ナニ?」
「それ、美味しいのかな……?」
「……アジなんてしなイ」
「そ、そうなんだ……。」
「……ただの栄養補給ト尺稼ぎデス。今ので200モジは埋まりましタ」
「え、そんなに!?」
「君達、何してんの……」
「あ、クロエサン。実は……」
「それより、ヤバいことになってるみたい、さっきから小さい種類の異形が駅前から逃げ出してるみたいだ。さっきの爆発と関係があるかもしれない。少し急ごうか」
「はイ。ではワタシが先導しまスネ。」
「あ、お願いします……」
クロエ達は駅に向かって歩いた。遂に駅舎の周りに立ち並ぶ廃ビル街の地帯にやって来た。すると……
***
「叩き落とせぇー」
「生き埋めにしろぉ」
スケット達はラブラクラの捕獲を諦めたのか先程から重火器を盛大に撃ちまくって足場ごとラブラクラ達を瓦礫の生き埋めにする事に成功した。
「一時後退する、このまま……」
金色のリーダーが指示を出そうとしたその時だった。
「なんだ……あれは……?」
仲間の一人が叫んだ。
「まさか、100トン近い瓦礫の下で生きて……」
崩落した駅舎と高架の瓦礫。その中でも一際大きな瓦礫がゆっくりと押し上げられていく。
それはまるで、巨大な力が動いているような光景であった。
「……まずいな……えぇい」
リーダーが呟いた時、その巨大すぎる瓦礫の下からラブラクラ達が這い出して来た。どうやらラブラクラをアクリが庇ったようだ。
「くっ……、やはり駄目か……」
恐れおののくリーダー。だが、すぐに気持ちを切り替え、他のスケット達に命令を下す。
「逃げたら後ろから喰われる!総員抜槍」
「「「了解!」」」
スケット達は一斉にジャベリンを抜き構える。
「来い、化け物ども!」
リーダーが叫ぶ。その声に「いや、違う!」
リーダーが彼の言葉を遮って否定する。
「あれは『怪物』だ。俺たちとは全然違う。あんなやつは見たことがない。捉えたぞ、撃てぇ!」リーダーの号令のもとランチャーが再び火を吹き、轟音とともに弾体が発射される。
ドォン!! 再び着弾地点を中心に爆風が巻き起こり、土煙が舞う。高架の一部が崩落し、破片がパラパラと降る。
「やったか……?」
土煙が晴れるとそこにはラブラクラの姿はなかった、
「マジか……?!嘘……だろ……」
「……化け物め!!」
ラブラクラは触手を手足のように動かし獣のように走るアクリに跨がって高架の上を器用に移動した。
「ハハッ!さっきのはなかなか面白かったぞ!」
「ウゥー!」
立て続けに砲撃を撃ち込んでくるスケットを見下ろしラブラクラが忌々しく吐き捨てた。アクリも不機嫌そうに鼻?を鳴らす。
「全く、無粋な連中だな」
***
「!、突然ですがリュウスケサン、肩に小さな蟹が着いてマスヨ」
「ん?」
バーシアに言われたリョウスケは自分の左肩を見る。そこには確かに黒い小蟹がいた。
「あ、本当だ」
「…………(ジー)」
「えっと、どうしたの?」
見られていることに気がついたリョウスケが問いかけると、彼女は黙ったままその黒い甲殻をひょいと摘まみ上げ、
パクリと口に放り込んだ。
「!?」
ボリボリと蟹を噛み砕く音が聞こえた。
「……」
「ね、ねぇ……」
「……ナニ?」
「それ、美味しいのかな……?」
「……アジなんてしなイ」
「そ、そうなんだ……。」
「……ただの栄養補給ト尺稼ぎデス。今ので200モジは埋まりましタ」
「え、そんなに!?」
「君達、何してんの……」
「あ、クロエサン。実は……」
「それより、ヤバいことになってるみたい、さっきから小さい種類の異形が駅前から逃げ出してるみたいだ。さっきの爆発と関係があるかもしれない。少し急ごうか」
「はイ。ではワタシが先導しまスネ。」
「あ、お願いします……」
クロエ達は駅に向かって歩いた。遂に駅舎の周りに立ち並ぶ廃ビル街の地帯にやって来た。すると……
***
「叩き落とせぇー」
「生き埋めにしろぉ」
スケット達はラブラクラの捕獲を諦めたのか先程から重火器を盛大に撃ちまくって足場ごとラブラクラ達を瓦礫の生き埋めにする事に成功した。
「一時後退する、このまま……」
金色のリーダーが指示を出そうとしたその時だった。
「なんだ……あれは……?」
仲間の一人が叫んだ。
「まさか、100トン近い瓦礫の下で生きて……」
崩落した駅舎と高架の瓦礫。その中でも一際大きな瓦礫がゆっくりと押し上げられていく。
それはまるで、巨大な力が動いているような光景であった。
「……まずいな……えぇい」
リーダーが呟いた時、その巨大すぎる瓦礫の下からラブラクラ達が這い出して来た。どうやらラブラクラをアクリが庇ったようだ。
「くっ……、やはり駄目か……」
恐れおののくリーダー。だが、すぐに気持ちを切り替え、他のスケット達に命令を下す。
「逃げたら後ろから喰われる!総員抜槍」
「「「了解!」」」
スケット達は一斉にジャベリンを抜き構える。
「来い、化け物ども!」
リーダーが叫ぶ。その声にその声に応えるようにラブラクラが触手を伸ばす。その時……
「どおりゃあああああ!!」
若い女の掛け声と共に黒い塊がラブラクラとスケット達の間に砲弾のように飛び込んできた。
「うわぁ!」
「びゃゃあ!?」
リーダーの金色以外のスケット達はその衝撃で吹き飛ばされてしまった。
「こいつはアタシの獲物だぁ!」
「何……?」
突然の闖入者の正体を見抜いたリーダーは警戒を強める。
(なるほど、あれが噂の……)
そこに立っていたのは銀髪の異形もどき。クロエだった。
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