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3 二つの影
#1β1
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「うーん……」
意識を取り戻したわたしはゆっくりと目を覚ました。怪我も倒れたときの擦り傷程度、目眩も治まったようだ。
(あれ?)
周りをキョロキョロと見回した。さっきまでいた廃都市とは雰囲気が違う。
(ナニここ?)
見たことのない場所だ。わたしは立ち上がり改めて周囲を見渡す。
高級そうな調理家電と落ち着いた雰囲気の調度品、まるでモデルルームだ。
外の見える窓は見当たらないがここは誰かの部屋だろうか?
(えっと……)
わたしはとりあえず状況を把握しようと視線を自分の体に向けた。そしてギョッとした。
わたしは病院で入院患者が着るような前開き式の病衣を身につけていた。左胸には『T大』の徽章が刺繍されている。
(まさか)
わたしは恐る恐る立ち上がって自分が寝ていた場所を確かめた。
(やっぱり……)
わたしが寝ていたのは最新型のリクライニングベッドの上だった。
(なんでこんなことに……)
わたしは混乱しつつも必死に記憶を呼び起こそうとした。
(確かラブラクラに追いかけられて……)
わたしはラブラクラが放った攻撃と謎の敵のガスで意識を失ったのだ。
ここは病院なのか?でもそれじゃあこの格好に誰かが着替えを……
その時、ガチャと部屋のドアが開く音がして反射的にわたしは音の方に振り向いてしまった。
「あら、目が覚めたのね。気分はどうかしら?」
声の主は丈が少し長めの白衣を纏った年齢不詳の女の子だった。見ようによっては大人にも子供にも見える。(誰?)
わたしは困惑しつつ彼女を観察……しようと思ったけど、 彼女はいきなりわたしに顔を近づけると、「ふむ」と一言。
「な、なんですか?」
「顔色があんまり良くないわよ。貧血気味かしら?エアコンの設定温度上げる?」
「え、あ、いや……」
「それともお腹空いてる?」
「えぇ?」
ぶかぶかの白衣の下にはタキシードのような意匠のバックレスドレスとバイオレットのネクタイ。かなり奇抜なファッションだ。
(そんな涼しそうな格好でよくも……鳥肌立ちそー……)わたしは心の中で突っ込みを入れる。
「ほら、食事は大事じゃない。ちゃんと食べておかないといざという時に動けないわよ。あ、そうだ。私、これから夜食の時間なんだけど一緒にどう?」
「はぁ……」
よく分からないうちに話が進んでいく。
「あ、あの、あなたはいったい……?それとここってどこなんでしょう?わたしはどうしてここにいるんですか?教えてください!」
わたしは一気にまくし立てた。
「……」
女の子はしばらく無言でわたしをじっと見つめていたが、やがてクスッと笑う。
「そうね。まず自己紹介から始めましょうか。私は……まぁいいか、今は。私のことはドクちゃんと呼んで頂戴」
「ドクちゃん?」
「そう。ドクター・コンプレックスの略よ。可愛い名前でしょ」
そう言ってドクはバイオレットの瞳を細めてニヤリと笑みを浮かべた。
「あの、質問に答えてもらってませんが……」
「そうね。じゃあ順番に答えるわね。私はあなたの敵じゃない。だから安心して。それとここは『T大』の特別病棟。地下にあるから外の様子は見えないけど、地上にはいつも通りの街並みが広がっているはずよ」
「特別病棟……」
わたしは改めて部屋を見回す。確かに普通の病室ではない。長期入院の患者や家族のために家の中にいるように生活できる設備がかつて大きい病院にはあったらしい。
「あなたが倒れているのを親切なクマさんが見つけてくれたの。感謝なさい」
わたしを助けた?こいつらが?わざわざ刺客を寄越しておいて?訳がわからない。
「……ありがとうございます。ところでわたしを助けてくれて、その、助けたついでと言っては何ですけど、ここから出る道を教えてもらえますか?」
わたしはなるべく平静を装いながら聞いた。
「んー、それはちょっと無理かな。だって私が連れてきたんだもの ふふ。これから面白い見世物が始まるからお姉さんと一緒に見物しよ?美味しいお菓子も用意させるし。その後で今のあなたの家に送ってあげる」
「なっ!?」
わたしは絶句した。すると彼女はかけている眼鏡のブリッジを指で押し上げ
「ワカちゃんは和菓子と洋菓子どっちが好き?今作らせるね。それでね、今日のお勧めはロマノフで……」
体を密着させながら甘い声でわたしの耳元に囁く。
わたしは慌てて彼女を突き飛ばすと「何が目的なんですか?」
思わず怒鳴り声を上げた。
「目的?う~ん。強いて言えば、あなたのお姉さん達の腕試し。かしら?ふふ。なかなか楽しいショーになりそうだわ。でも大丈夫よ。あなたに危害を加えるつもりはないわ。ただ楽しんでもらうだけよ。ほら、どれにする?」ドクはどこかから取り出したメニュー表を広げながら言った。
(もういい加減にして……)わたしは頭を抱えたくなった。
(えーいっ、色々と面倒くさい奴!)
わたしは自棄になって「黄金どら焼き!黄金どら焼き!能登大納言100%!」と叫んだ。
「へぇ、意外と渋いの選ぶじゃない。でも残念。それは無いのよね。ごめんなさい。代わりにこれなんかどう?」
ドクはメニュー表の中から苺のロマノフを二人前注文した。
「なッ……」
「ふふ。シェフを呼ぶから待ってて。彼の腕前、三ツ星レストラン級よ」
つづく
意識を取り戻したわたしはゆっくりと目を覚ました。怪我も倒れたときの擦り傷程度、目眩も治まったようだ。
(あれ?)
周りをキョロキョロと見回した。さっきまでいた廃都市とは雰囲気が違う。
(ナニここ?)
見たことのない場所だ。わたしは立ち上がり改めて周囲を見渡す。
高級そうな調理家電と落ち着いた雰囲気の調度品、まるでモデルルームだ。
外の見える窓は見当たらないがここは誰かの部屋だろうか?
(えっと……)
わたしはとりあえず状況を把握しようと視線を自分の体に向けた。そしてギョッとした。
わたしは病院で入院患者が着るような前開き式の病衣を身につけていた。左胸には『T大』の徽章が刺繍されている。
(まさか)
わたしは恐る恐る立ち上がって自分が寝ていた場所を確かめた。
(やっぱり……)
わたしが寝ていたのは最新型のリクライニングベッドの上だった。
(なんでこんなことに……)
わたしは混乱しつつも必死に記憶を呼び起こそうとした。
(確かラブラクラに追いかけられて……)
わたしはラブラクラが放った攻撃と謎の敵のガスで意識を失ったのだ。
ここは病院なのか?でもそれじゃあこの格好に誰かが着替えを……
その時、ガチャと部屋のドアが開く音がして反射的にわたしは音の方に振り向いてしまった。
「あら、目が覚めたのね。気分はどうかしら?」
声の主は丈が少し長めの白衣を纏った年齢不詳の女の子だった。見ようによっては大人にも子供にも見える。(誰?)
わたしは困惑しつつ彼女を観察……しようと思ったけど、 彼女はいきなりわたしに顔を近づけると、「ふむ」と一言。
「な、なんですか?」
「顔色があんまり良くないわよ。貧血気味かしら?エアコンの設定温度上げる?」
「え、あ、いや……」
「それともお腹空いてる?」
「えぇ?」
ぶかぶかの白衣の下にはタキシードのような意匠のバックレスドレスとバイオレットのネクタイ。かなり奇抜なファッションだ。
(そんな涼しそうな格好でよくも……鳥肌立ちそー……)わたしは心の中で突っ込みを入れる。
「ほら、食事は大事じゃない。ちゃんと食べておかないといざという時に動けないわよ。あ、そうだ。私、これから夜食の時間なんだけど一緒にどう?」
「はぁ……」
よく分からないうちに話が進んでいく。
「あ、あの、あなたはいったい……?それとここってどこなんでしょう?わたしはどうしてここにいるんですか?教えてください!」
わたしは一気にまくし立てた。
「……」
女の子はしばらく無言でわたしをじっと見つめていたが、やがてクスッと笑う。
「そうね。まず自己紹介から始めましょうか。私は……まぁいいか、今は。私のことはドクちゃんと呼んで頂戴」
「ドクちゃん?」
「そう。ドクター・コンプレックスの略よ。可愛い名前でしょ」
そう言ってドクはバイオレットの瞳を細めてニヤリと笑みを浮かべた。
「あの、質問に答えてもらってませんが……」
「そうね。じゃあ順番に答えるわね。私はあなたの敵じゃない。だから安心して。それとここは『T大』の特別病棟。地下にあるから外の様子は見えないけど、地上にはいつも通りの街並みが広がっているはずよ」
「特別病棟……」
わたしは改めて部屋を見回す。確かに普通の病室ではない。長期入院の患者や家族のために家の中にいるように生活できる設備がかつて大きい病院にはあったらしい。
「あなたが倒れているのを親切なクマさんが見つけてくれたの。感謝なさい」
わたしを助けた?こいつらが?わざわざ刺客を寄越しておいて?訳がわからない。
「……ありがとうございます。ところでわたしを助けてくれて、その、助けたついでと言っては何ですけど、ここから出る道を教えてもらえますか?」
わたしはなるべく平静を装いながら聞いた。
「んー、それはちょっと無理かな。だって私が連れてきたんだもの ふふ。これから面白い見世物が始まるからお姉さんと一緒に見物しよ?美味しいお菓子も用意させるし。その後で今のあなたの家に送ってあげる」
「なっ!?」
わたしは絶句した。すると彼女はかけている眼鏡のブリッジを指で押し上げ
「ワカちゃんは和菓子と洋菓子どっちが好き?今作らせるね。それでね、今日のお勧めはロマノフで……」
体を密着させながら甘い声でわたしの耳元に囁く。
わたしは慌てて彼女を突き飛ばすと「何が目的なんですか?」
思わず怒鳴り声を上げた。
「目的?う~ん。強いて言えば、あなたのお姉さん達の腕試し。かしら?ふふ。なかなか楽しいショーになりそうだわ。でも大丈夫よ。あなたに危害を加えるつもりはないわ。ただ楽しんでもらうだけよ。ほら、どれにする?」ドクはどこかから取り出したメニュー表を広げながら言った。
(もういい加減にして……)わたしは頭を抱えたくなった。
(えーいっ、色々と面倒くさい奴!)
わたしは自棄になって「黄金どら焼き!黄金どら焼き!能登大納言100%!」と叫んだ。
「へぇ、意外と渋いの選ぶじゃない。でも残念。それは無いのよね。ごめんなさい。代わりにこれなんかどう?」
ドクはメニュー表の中から苺のロマノフを二人前注文した。
「なッ……」
「ふふ。シェフを呼ぶから待ってて。彼の腕前、三ツ星レストラン級よ」
つづく
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