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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第七章 28)ボーアホーブ領からの報せ
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やはり嘘などつくべきではない。嘘には特別な力があるに違いない。いずれ白日の下に曝され、最悪の形で罰せられるという力学。私はそれを実感する。
目の前にバルザ殿がおられる。アリューシアを深く愛する執事たちがいる。その前で、私の嘘は裁かれようとしている。好きでもないのに、気があるふりをした罪を。
まあ、しかしその罪が裁かれるのが、あまりに早過ぎはしないかとは思うのだけど。
「シャグラン、あなたの言葉は有り難かった。でも私、独りで考えてたんだけど」
今もまだ悩みの中にあるような訥々とした話し方で、アリューシアは言ってくる。
「やっぱりあなたの誘い、受けることは出来ない」
「あなたの誘い」という言葉で、部屋がざわつく。部屋の中にいる誰もが、私に対して視線を向けてきた。シャグラン殿、お嬢様にコソコソと何をしていたのですか? そのような表情で見られているようだ。
「違うんです、誤解なんです」
私は激しく首を振ってを否定する。アリューシアに対しては、「ちょっと待つんだ」と告げる。しかし彼女は私の懇願に耳を傾けるき気などないようだ。アリューシアはは何もためらうことなく、昨日の私たちの間の会話を全て曝そうとしている。
「あなたの誘いは嬉しかったけど、でもそんな簡単に諦められるはずがなくて」
そう言って、アリューシアは声を張り上げた。
「私はプラーヌス様が好き。あの人の魔法が好きなの。色々っと考えて、それを思い出したわ。プラーヌス様のの魔法を初めて見たときの感動! それは本当に特別だった。だから諦められない。私はプラーヌス様に認めれらるためなら何でもするつもり」
「何だってアリューシア!」
しかし私はその言葉を聞いて、この状況を切り抜けるためにどうすべきかという考えは、全て吹き飛んだ。
「アリューシア、それはいけない!」
彼女はその答えに辿り着いてしまったのか。こんなことになるのだったら、躊躇するべきではなかった。嘘でもいいから、あのままアリューシアを・・・。
魔法のために何でもする。アリューシアが言い出したそれはすなわち、自分で自分の身体を傷つけ、その痛みで、魔族を惹きつけるという方法。
とても効果的らしいが、あまりに残酷なやり方。
「だから、ごめんね、シャグラン。あなたの想いに応えられない。もちろん、カルファルにも同じことを言うから。それは大丈夫」
「待つんだ、アリューシア」
「あなたの気持ちは本当にありがたかったけど」
「シャグラン殿、あなたはお嬢様にいったい!」
サンチーヌが私の肩に手を置いてくる。
「サンチーヌ殿、そんなことはどうでもいいことです。あなたも彼女の決断を引き留めなければ!」
私は言う。この気まずい状況を誤魔化すためではない。本当にアリューシアの身を案じたからだ。しかしサンチーヌは魔法のことをよくわかっていないようだ。
「あなたは、我らの大切なお嬢様に何を!」
「今はそんなことはどうでもいいことなんです。それよりも」
じゃあね。私は忙しいから。アリューシアは部屋を出ていこうとする。待つんだ、アリューシア! いや、待つのはあなただ、サンチーヌ殿が私の腕を掴む。
「離して下さい、サンチーヌ殿。このままではアリューシアは」
自らの腕か足を切って。
そのとき、ちょうどアリューシアが出ていこうとした扉をくぐり、この部屋に雪崩れ込んできた者がいた。
本当に雪崩のように、とてつもない勢いで、半ば倒れ込むように部屋の中に入ってきた男性。どこかの兵士のようだ。
軽装ではあるが鎧を着ている。腰に剣など差してはいないようではあるが、どこかに武器を隠し持っているかもしれない。
別の世界からの侵入者のように、突然、現れたその男は「アリューシア様はいずこか?」と叫んでいる。
バルザ殿がとっさに身構えて、アリューシアを守ろうとする。スザンナも機敏に動いた。
私はその男に最も近いところに立っていたが、驚きのあまり身動き一つ出来ず、ただ呆然と突っ立っていることしか出来ない。
「ああ、サンチーヌ様もおられましたか」
その侵入者はサンチーヌにも視線を向ける。サンチーヌも私に対する怒りをひとまず置いて、その男の呼び掛けにすぐに応答した。
「ボーアホーブに仕える者です! 害はありません」
サンチーヌはその男に駆け寄る。男性をこの部屋にまで連れてきたのだろう、我が塔の召使いが少し戸惑いながら扉の外に立っている。私はそれを見て、ようやく事態が出来てきた。
ボーアホーブ家からの使者が、アリューシアを求め、我が塔にやってきたのだ。
彼は武装している。しかしよく見ると、衣服はくたびれ、腕などに傷を負っているようだ。
それより何より男性は疲れ果て、憔悴しきっているという状態。この塔まで、ほとんど休むことなく馬を走らせてきたのだろうか。
「ボーアホーブ家は、ギャラックめに・・・」
その使者はアリューシアに向かって、悔しさをかみ殺すような表情で言った。
「え?」
アリューシアがその言葉に反応する。
「も、申し訳ありません、アリューシア様。ボーホーブの居城は陥落して、ギャラックの手に落ちました」
「どういうことよ?」
「卑怯なるギャラックどもが・・・」
「じゃあ、パパやママは?」
その使者はそれに答えず、ガクリとうな垂れた。
目の前にバルザ殿がおられる。アリューシアを深く愛する執事たちがいる。その前で、私の嘘は裁かれようとしている。好きでもないのに、気があるふりをした罪を。
まあ、しかしその罪が裁かれるのが、あまりに早過ぎはしないかとは思うのだけど。
「シャグラン、あなたの言葉は有り難かった。でも私、独りで考えてたんだけど」
今もまだ悩みの中にあるような訥々とした話し方で、アリューシアは言ってくる。
「やっぱりあなたの誘い、受けることは出来ない」
「あなたの誘い」という言葉で、部屋がざわつく。部屋の中にいる誰もが、私に対して視線を向けてきた。シャグラン殿、お嬢様にコソコソと何をしていたのですか? そのような表情で見られているようだ。
「違うんです、誤解なんです」
私は激しく首を振ってを否定する。アリューシアに対しては、「ちょっと待つんだ」と告げる。しかし彼女は私の懇願に耳を傾けるき気などないようだ。アリューシアはは何もためらうことなく、昨日の私たちの間の会話を全て曝そうとしている。
「あなたの誘いは嬉しかったけど、でもそんな簡単に諦められるはずがなくて」
そう言って、アリューシアは声を張り上げた。
「私はプラーヌス様が好き。あの人の魔法が好きなの。色々っと考えて、それを思い出したわ。プラーヌス様のの魔法を初めて見たときの感動! それは本当に特別だった。だから諦められない。私はプラーヌス様に認めれらるためなら何でもするつもり」
「何だってアリューシア!」
しかし私はその言葉を聞いて、この状況を切り抜けるためにどうすべきかという考えは、全て吹き飛んだ。
「アリューシア、それはいけない!」
彼女はその答えに辿り着いてしまったのか。こんなことになるのだったら、躊躇するべきではなかった。嘘でもいいから、あのままアリューシアを・・・。
魔法のために何でもする。アリューシアが言い出したそれはすなわち、自分で自分の身体を傷つけ、その痛みで、魔族を惹きつけるという方法。
とても効果的らしいが、あまりに残酷なやり方。
「だから、ごめんね、シャグラン。あなたの想いに応えられない。もちろん、カルファルにも同じことを言うから。それは大丈夫」
「待つんだ、アリューシア」
「あなたの気持ちは本当にありがたかったけど」
「シャグラン殿、あなたはお嬢様にいったい!」
サンチーヌが私の肩に手を置いてくる。
「サンチーヌ殿、そんなことはどうでもいいことです。あなたも彼女の決断を引き留めなければ!」
私は言う。この気まずい状況を誤魔化すためではない。本当にアリューシアの身を案じたからだ。しかしサンチーヌは魔法のことをよくわかっていないようだ。
「あなたは、我らの大切なお嬢様に何を!」
「今はそんなことはどうでもいいことなんです。それよりも」
じゃあね。私は忙しいから。アリューシアは部屋を出ていこうとする。待つんだ、アリューシア! いや、待つのはあなただ、サンチーヌ殿が私の腕を掴む。
「離して下さい、サンチーヌ殿。このままではアリューシアは」
自らの腕か足を切って。
そのとき、ちょうどアリューシアが出ていこうとした扉をくぐり、この部屋に雪崩れ込んできた者がいた。
本当に雪崩のように、とてつもない勢いで、半ば倒れ込むように部屋の中に入ってきた男性。どこかの兵士のようだ。
軽装ではあるが鎧を着ている。腰に剣など差してはいないようではあるが、どこかに武器を隠し持っているかもしれない。
別の世界からの侵入者のように、突然、現れたその男は「アリューシア様はいずこか?」と叫んでいる。
バルザ殿がとっさに身構えて、アリューシアを守ろうとする。スザンナも機敏に動いた。
私はその男に最も近いところに立っていたが、驚きのあまり身動き一つ出来ず、ただ呆然と突っ立っていることしか出来ない。
「ああ、サンチーヌ様もおられましたか」
その侵入者はサンチーヌにも視線を向ける。サンチーヌも私に対する怒りをひとまず置いて、その男の呼び掛けにすぐに応答した。
「ボーアホーブに仕える者です! 害はありません」
サンチーヌはその男に駆け寄る。男性をこの部屋にまで連れてきたのだろう、我が塔の召使いが少し戸惑いながら扉の外に立っている。私はそれを見て、ようやく事態が出来てきた。
ボーアホーブ家からの使者が、アリューシアを求め、我が塔にやってきたのだ。
彼は武装している。しかしよく見ると、衣服はくたびれ、腕などに傷を負っているようだ。
それより何より男性は疲れ果て、憔悴しきっているという状態。この塔まで、ほとんど休むことなく馬を走らせてきたのだろうか。
「ボーアホーブ家は、ギャラックめに・・・」
その使者はアリューシアに向かって、悔しさをかみ殺すような表情で言った。
「え?」
アリューシアがその言葉に反応する。
「も、申し訳ありません、アリューシア様。ボーホーブの居城は陥落して、ギャラックの手に落ちました」
「どういうことよ?」
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