私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第七章 21)後先を考えることなく

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 私の部屋の寝台に腰掛けて、カルファルにキスされそうになったと語るアリューシアは、ひどく傷つき、怯え、大変に深い怒りを抱えているように見える。そしてそれを私に向かって、言葉と表情で必死に訴えている。

 可哀想なアリューシアよ。
 当然、私は彼女の悲しみに同調する。そしてカルファルへの怒りに拳を握り締める。

 いや、最初は怒りで手が震えていたのであるが、彼女の話しを聞くに連れて、それは緩んでいく。
 何と言うか、アリューシアのその怒りが偽物、というのは言い過ぎかもしれないが、演技がかって見えてきたからかもしれない。

 「本当に危なかったわ。私は大切なものを失うところだった」

 アリューシアは私に言う。しかしそれは心の底からの真実ではないようなのだ。
 多分、アリューシアはカルファルを恐れていない。アリューシアがカルファルのことを嫌ってはいないことが、何か肌感覚で伝わってくる。
 
 確かに彼女は驚いたのだろう。ショックを受けているであろう。しかしその横顔の不思議な輝き。私がそれを絵に描けば、「恋する乙女」とでも表題をつけられるかもしれない静かな自信。

 アリューシアは深いため息を吐く。それは本当に深いため息。
 しかしうんざりしているとか、憂鬱で堪らないといったニュアンスのため息ではない。おそらく、何か迷いの中にいるときの吐くため息。

 「どうしよう、シャグラン、私さあ・・・」

 ほら、やっぱりね。

 「ど、どうしようだって?」

 「お前に最高の人生を送らせてやるって」

 「カルファルに言われたのかい?」

 「そうよ、言われたのよ! 最高の人生ってどんなのかしら。毎日、新しいことばかりで、ドキドキしてワクワクして。それが最高の人生?」

 「さあ、僕は知らないけど」

 「今の奥さんたちと別れて、お前だけと生きたいんだって」

 「そ、そんなことも言われたのか?」

 やはりカルファル。アリューシアに何を言えば、彼女が喜ぶのか完璧にわかっていて、そしてそれを何の躊躇いもなく口に出来る男。

 「言われたわ。本当はそれを伝えるためにここに来たんだって」

 「アリューシア、君はそんなことを信じるのかい?」

 「え?」

 アリューシアは愕然とした表情で私を見る。そして、その表情を慌てて消し去る。

 「し、信じないわ。子供じゃないんだから。騙されるわけないじゃない!」

 どうやら、すっかり信じていたようだ。私に指摘されて、初めて気づいたといった表情。

 「そうだよな」

 「赤ちゃんもいるんだし。あの子にはたくさんのお母さんが必要だわ」

 「ああ、うん」

 アリューシアの心が揺れている。というのはもう過去のことに違いない。揺れていた時期は終わり、それは今、一つの方向に向かって転がりかけている。彼女は本気で、カルファルと共に、この塔を去ることを考えているようだ。
 しかしそれも仕方がないことなのかもしれない。プラーヌスにまるで相手にされず、この塔を追い出されようとしている。
 そんなアリューシアに対して、今のお前のままで素晴らしいと言い続けてくれるカルファルに、心がなびかないわけがないのかもしれない。
 しかしアリューシアよ。カルファルは君を幸せにするはずがない。

 「私の年齢の頃には、もうお姉ちゃんたちは結婚していたのよ」

 突然、アリューシアが私に向かって言い訳してくる。もしかしたら彼女の決意に反対していることを、私の表情から悟ったのかもしれない。

 「私だって別に早くはないわ」

 「そうかもしれないね。まあ、きっとその結婚相手を、君の両親は吟味に吟味を重ねたはずだけど」

 「そうだ、パパとママにも報告しないといけない!」

 「反対されるだろうけど」

 「でもパパとママは結局のところ、私に甘いから。魔法の勉強だって許してくれたし」

 ああ、今頃、みんなは何しているのかなあ。
 アリューシアはそんなことを言いながら遠い目をする。自分の両親のこと、生まれ育った屋敷や庭の光景などを思い浮かべているのだろうか。
 その表情は幸せそうに輝いている。しかしそれでいながら少し悲しげで、何やら不安げ、微笑みながら泣きそうな表情にも見える。その幸せだった時代を、今まさに失おうとしているからなのだろうか。誰かを愛することで終わる時代。

 やっぱりこれは間違いだ。私はアリューシアを見つめながら思ってしまった。カルファルに渡すわけにはいかない。まだ彼女は、その時代に留まっているべきだ。

 「アリューシア、カルファルは駄目だ。僕が君の面倒を見る」

 だから私はそんなことを言ってしまった。まるで後先を考えることなく。
 アリューシアの反応を見て、自分がとんでもないことを言ってしまったことに気づいた。

 「ちょっと待って、ちょっと待って、どういうこと?」
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