私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

文字の大きさ
上 下
127 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第七章 2)呪いの仕組み

しおりを挟む
 「そうだな、君にわかりやすいよう、たとえ話しをすれば、肖像画家の君に破格の依頼が来た。一枚の絵画に金貨百枚の仕事だ」

 私が理解していないと見て取ったのか、プラーヌスはそのような話しを始めた。

 「金貨百枚だって? ありえないよ、そんな報酬」

 しかし私は首を傾げながら返す。

 「向こうは本気で君に仕事をして貰いたいと思っている。その熱意がしっかりと伝わってくる」

 「金貨十枚でも警戒するね」

 「たとえ話しだよ。肖像画家の相場なんて知らないさ。とにかく君はその仕事を引き受けた。しかし実はその仕事を狙っていた他の肖像画家がいた。その画家はずっと以前から、この仕事を請け負いたいと願っていた。しかし突然現れた君が、その仕事をかっさらいおうとしている。その男はどうするだろうか? 君を殺してでも、その仕事を取りたいと考えるはずだ」

 「そんなに血の気の多い肖像画家はいないだろうけど」

 「君はさっきから、イチイチ文句をつけてくるね。たとえ話しだと言っているではないか」

 「あ、ああ、わかっているけど・・・」

 「シュショテにもいたのさ、そのような魔法使いが。彼がガルディアンの契約を結んだその魔族を狙っていた魔法使いがね」

 「なるほど」

 ようやく話しが飲み込めてきたかもしれない。

 「相手が何者かわからない。しかし向こうはシュショテのあらゆる情報を入手しているようだ。まあ、シュショテが愚かで、あまりに無防備だったせいで、自らその相手にペラペラと喋ったのが原因だろうが」

 「その魔法使いが掛けた呪いのせいで、シュショテはあんなふうに突然、暴れ出したわけか」

 「その通り、シュショテは何やら、おぞましい幻覚を見せられているようだ。彼は魔法を放ちまくっていただろ? その幻覚を追い払うためだ。しかしそれは幻。あんなことをしても何の効果もない。逆にそれで自分の身体を傷つける危険もある。周りを害する可能性もある。実際、彼の身体は傷だらけだ。精神的にも随分追い詰められてもいる」

 「君の力でもどうにかならないのかい?」

 あの年齢に似つかわしくないくらいの、シュショテのどこか落ち着いた雰囲気、というか打ち沈んだ感じ。それはその呪いに苦しみ続けてきたからなのかもしれない。

 「その呪いの仕組みが、まだよくわからない。魔法というのは魔法使い自ら編み出すことが出来るからね。この世界には星の数以上、魔法の種類が存在している。向こうはシュショテのことを知り抜いているようだけど、こちら側は相手の手の内がまるでわからない。何一つ情報がないのさ。一つ確かなのはその魔法使いがそれなりの手練れということ。それくらい」

 「そうか・・・」

 「僕の近くにいれば、彼が誤って自分の身体を傷つけるようなことはないだろう。何とか守ってやれる。しかしそれはただ単に死の恐怖が遠のいただけ。その呪いの根本的な解決にはならない」

 「その魔法使いはシュショテを殺すことが目的?」

 「ああ、彼を殺さずして、そのガルディアンを手に入れることは出来ないからね。何とか遠距離から、シュショテの命を絶とうとしてくるだろう。もし、その魔法使いがシュショテの一挙手一投足を掴んでいるのならば、僕とシュショテの間を引き離すために何か細工を施してくるかもしれない。そのときがそいつの正体を突き止めるチャンスだ。そいつさえ殺せば、シュショテの呪いは終わるはずだから。しかしそれがいつ起こるのかわからない。そいつと僕たちとの根競べだ」

 それはそうと。
 プラーヌスがメインディッシュの肉料理をナイフで切り裂きながら言ってきた。「君たちは何やら、愚かな勘違いをしていたようだけど?」

 「誤解?」

 あ、ああ、あのことか。私は目に見えて、慌てふためいてしまう。

 「え? いや、違うんだ、それはアビュがね・・・」

 やはりプラーヌスは私たちの気配に気づいていたようだ。

 「アビュ? 君の恋人の女の子だね」

 「恋人じゃない、助手さ。彼女が君とシュショテが同衾しているのを目撃したと言ってきて・・・」

 「なるほど、しかし呆れるね、シャグラン」

 「あ、ああ、そ、そうだね・・・、本当に何と言っていいのか」

 もしかしたらプラーヌスは何もかも知った上で、このようになるよう仕向けていたのかもしれない。私はプラーヌスの淡々と話してくるその口調を聞きながら、ふとそんなことを思った。
 すなわち、アビュと私が妙な誤解をしていたことも、彼はとっくの昔から気づいていた。
 その誤解を解くために、あえてシュショテと私を組ませて、あの街に使いに出したのではないか。
 そしてもちろん、彼はシュショテがこの騒動を起こすことも予知していた。

 いや、さすがに何もかもプラーヌスが計算していたなんてことはないのかもしれない。あれかこれかは偶然なのかもしれない。
 しかしこうやってあらゆる問題が収まった今となっては、彼の計画と陰謀の中で、私はただ右往左往していただけに思えてくるのだ。

 すまなかったと謝るのも何か間違いのような気がして、私はひたすら彼の前で恥じ入るだけであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

処理中です...