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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第五章 29)暗い雲の流れ
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しかしアリューシアはそう言うと、あれだけ楽しげに微笑んでいた表情が暗く沈ませた。雲が流れてきて、明るい木漏れ日の光が遮られたことだけが原因ではなさそうだ。
「どうしてプラーヌス様は私を弟子にしてくれないのかしら。面倒な試験なんて出してきて・・・」
アリューシアはそんなことを言い出す。
「この試験にパスしなければ、塔を出ていかなければいけないのよ。こんなに楽しい時間だってなくなってしまうかもしれない」
プラーヌス様は、私に優しくない、よね?
アリューシアは心に突き刺さりそうなくらい、鋭利な声を出してきた。
「そ、そうだろうか。まあ、彼は何て言うか・・・、誰にだってそういう男だよ」
こんな言葉で彼女を慰められるかどうかわからないが、私は言葉に詰まりながらそう答える。
「まあ、そうね、私だって知ってる。少し変わった性格をしていらっしゃるのは。でもシャグラン、あなたに対しては少しだけ態度が違うんじゃないの?」
「僕に対して? そ、そうだろうか。僕も随分と大変な思いをしているよ」
いや、確かにアリューシアと比べると、私に対する態度は優しいと言えるのかもしれない。
しかしプラーヌスと私との間に流れる感情は友情である。一方、アリューシアが求めているものは愛情。
それはまるで種類の違うものだ。同じ扱いは出来ない。彼女はプラーヌスが一つしか持っていないものを欲しがっているのだ。
「ああ、本当に面倒な人を好きになっちゃった。でも普通の人じゃ満足出来ないことも事実なのよね、わかるでしょ、そういう感じ?」
「ああ、どうだろうか」
「ねえ、あなたはそういう人いないの? いわゆる恋人って存在?」
「僕に? いや、僕は・・・」
しかし私に質問を投げ掛けたくせに、その答えなど興味がないとばかり、アリューシアは話しを独りで先に進める。
「結局、そういう人を好きになった私が悪いんだろうな・・・。仕方ない、とにかく頑張って魔法の勉強をして、この課題をクリアーする。今はそのことだけを考える」
再び雲が晴れて、明るい木漏れ日が降り注いできた。その明るい光の降臨と共に、アリューシアの表情も、パッと明るく切り替わった。
いつものアリューシアらしいさっぱりした表情。勝ち気で、ひた向きで、明朗なあの感じ。
これがアリューシアの性格か、あっさりと機嫌を直したようだ。
しかし彼女のこのさっぱりした部分こそ、魔法使いに不向きな特性なのかもしれない。そんな気がする。
世の中の魔法使いたちは誰も彼もが陰鬱で、執念深い性格の奴ばかり。
別に勝手な私のイメージではない。それが世間一般のが思う魔法使い。あのプラーヌスだって、さっぱりしたタイプでないのは確実。
アリューシアの人柄の良さが、彼女を魔法から遠ざけている障害なのかもしれない。
私がアリューシアの横顔を見ながら、そのようなことを思っていたときだ。
「や、やばいかもしれません・・・」
突然、シュショテのそんな声が聞こえてきて、私とアリューシアは同時に彼を見る。
さっきまでいるのかいないのかわからないくらい、大人しい表情で私たちの話しに耳を傾けていたシュショテ。そんな彼の表情が酷く蒼ざめていた。
いや、もしかしたらシュショテの顔色はいつだってこのような感じだったのかもしれない。
しかし顔色のことは置いておくとしても、とても珍しいことが起きているのである。
シュショテにしては大きな声で叫んだこと。そしてその口調に、切羽詰まった何かが込められていること。
「どうしたんだい?」
私は声を掛ける。シュショテは私たちに背を向け、キョロキョロと遠くのほうを見渡していた。彼の視線の先を辿って、私も遠くに目をやる。
「何か来たのかい?」
しかし何も見えなかった。街道とその周辺の野原が見えるだけだ。その街道を走る馬車の姿すら見えない。誰もが昼寝でもしているかのように、辺りは静まり返っていた。
「なあ、シュショテ?」
私は彼の小さな肩に手を掛ける。私を頼りにしているかのように、彼は少しだけ身体を傾けてきた。子供特有の妙に熱い体温が伝わってくる。
「そっちに何かいるのかい?」
「はい。・・・い、いえ。わかりません。ただ、嫌な予感がしただけなのかもしれません」
「嫌な予感?」
「すいません、嫌な予感というのも言い過ぎです。たまにこんなときがあって。・・・でも、大丈夫みたいです」
「だったらいいのだけど」
「何よ、ちょっと驚かさないでよね!」
アリューシアが居丈高な口調で言う。しかしそれは心配の裏返しだろう。口だけでは気が済まなかったようで、彼女はシュショテの肩の辺りを小突き始める。
「す、すいません」
シュショテがペコペコと頭を下げる。私はシュショテを庇うようにして彼の肩を抱く。
しかしアリューシアはそんなことお構いなしに、「私を驚かせるなんて許せないわ」と、私の手ごと小突き続けてくる。
「さっさと街に向かおう。ここでいつまでも休んでいられない。僕たちは忙しいんだ」
知らない街にきて、繊細過ぎるシュショテは何か幻でも見てしまったのだろうか。
もしかしたら、それくらいに神経質なのが魔法使い的な性質かもしれない。だからこそ彼はとても優秀な魔法使いだということ。
そんなふうに解釈することにして、私は嫌な予感を拭う。実際、何の気配もないようなのだ。だったらそれは幻にに決まっているではないか。
「行こう、街へ」
「そうね、もう十分休んだわ」
アリューシアの言葉の後にシュショテも頷くが、やはりその表情は不安に曇っているようであった。
ああ、シュショテ、それでは不安を拭うことは出来ないではないか。
「どうしてプラーヌス様は私を弟子にしてくれないのかしら。面倒な試験なんて出してきて・・・」
アリューシアはそんなことを言い出す。
「この試験にパスしなければ、塔を出ていかなければいけないのよ。こんなに楽しい時間だってなくなってしまうかもしれない」
プラーヌス様は、私に優しくない、よね?
アリューシアは心に突き刺さりそうなくらい、鋭利な声を出してきた。
「そ、そうだろうか。まあ、彼は何て言うか・・・、誰にだってそういう男だよ」
こんな言葉で彼女を慰められるかどうかわからないが、私は言葉に詰まりながらそう答える。
「まあ、そうね、私だって知ってる。少し変わった性格をしていらっしゃるのは。でもシャグラン、あなたに対しては少しだけ態度が違うんじゃないの?」
「僕に対して? そ、そうだろうか。僕も随分と大変な思いをしているよ」
いや、確かにアリューシアと比べると、私に対する態度は優しいと言えるのかもしれない。
しかしプラーヌスと私との間に流れる感情は友情である。一方、アリューシアが求めているものは愛情。
それはまるで種類の違うものだ。同じ扱いは出来ない。彼女はプラーヌスが一つしか持っていないものを欲しがっているのだ。
「ああ、本当に面倒な人を好きになっちゃった。でも普通の人じゃ満足出来ないことも事実なのよね、わかるでしょ、そういう感じ?」
「ああ、どうだろうか」
「ねえ、あなたはそういう人いないの? いわゆる恋人って存在?」
「僕に? いや、僕は・・・」
しかし私に質問を投げ掛けたくせに、その答えなど興味がないとばかり、アリューシアは話しを独りで先に進める。
「結局、そういう人を好きになった私が悪いんだろうな・・・。仕方ない、とにかく頑張って魔法の勉強をして、この課題をクリアーする。今はそのことだけを考える」
再び雲が晴れて、明るい木漏れ日が降り注いできた。その明るい光の降臨と共に、アリューシアの表情も、パッと明るく切り替わった。
いつものアリューシアらしいさっぱりした表情。勝ち気で、ひた向きで、明朗なあの感じ。
これがアリューシアの性格か、あっさりと機嫌を直したようだ。
しかし彼女のこのさっぱりした部分こそ、魔法使いに不向きな特性なのかもしれない。そんな気がする。
世の中の魔法使いたちは誰も彼もが陰鬱で、執念深い性格の奴ばかり。
別に勝手な私のイメージではない。それが世間一般のが思う魔法使い。あのプラーヌスだって、さっぱりしたタイプでないのは確実。
アリューシアの人柄の良さが、彼女を魔法から遠ざけている障害なのかもしれない。
私がアリューシアの横顔を見ながら、そのようなことを思っていたときだ。
「や、やばいかもしれません・・・」
突然、シュショテのそんな声が聞こえてきて、私とアリューシアは同時に彼を見る。
さっきまでいるのかいないのかわからないくらい、大人しい表情で私たちの話しに耳を傾けていたシュショテ。そんな彼の表情が酷く蒼ざめていた。
いや、もしかしたらシュショテの顔色はいつだってこのような感じだったのかもしれない。
しかし顔色のことは置いておくとしても、とても珍しいことが起きているのである。
シュショテにしては大きな声で叫んだこと。そしてその口調に、切羽詰まった何かが込められていること。
「どうしたんだい?」
私は声を掛ける。シュショテは私たちに背を向け、キョロキョロと遠くのほうを見渡していた。彼の視線の先を辿って、私も遠くに目をやる。
「何か来たのかい?」
しかし何も見えなかった。街道とその周辺の野原が見えるだけだ。その街道を走る馬車の姿すら見えない。誰もが昼寝でもしているかのように、辺りは静まり返っていた。
「なあ、シュショテ?」
私は彼の小さな肩に手を掛ける。私を頼りにしているかのように、彼は少しだけ身体を傾けてきた。子供特有の妙に熱い体温が伝わってくる。
「そっちに何かいるのかい?」
「はい。・・・い、いえ。わかりません。ただ、嫌な予感がしただけなのかもしれません」
「嫌な予感?」
「すいません、嫌な予感というのも言い過ぎです。たまにこんなときがあって。・・・でも、大丈夫みたいです」
「だったらいいのだけど」
「何よ、ちょっと驚かさないでよね!」
アリューシアが居丈高な口調で言う。しかしそれは心配の裏返しだろう。口だけでは気が済まなかったようで、彼女はシュショテの肩の辺りを小突き始める。
「す、すいません」
シュショテがペコペコと頭を下げる。私はシュショテを庇うようにして彼の肩を抱く。
しかしアリューシアはそんなことお構いなしに、「私を驚かせるなんて許せないわ」と、私の手ごと小突き続けてくる。
「さっさと街に向かおう。ここでいつまでも休んでいられない。僕たちは忙しいんだ」
知らない街にきて、繊細過ぎるシュショテは何か幻でも見てしまったのだろうか。
もしかしたら、それくらいに神経質なのが魔法使い的な性質かもしれない。だからこそ彼はとても優秀な魔法使いだということ。
そんなふうに解釈することにして、私は嫌な予感を拭う。実際、何の気配もないようなのだ。だったらそれは幻にに決まっているではないか。
「行こう、街へ」
「そうね、もう十分休んだわ」
アリューシアの言葉の後にシュショテも頷くが、やはりその表情は不安に曇っているようであった。
ああ、シュショテ、それでは不安を拭うことは出来ないではないか。
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