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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第五章 18)予測不可能。ミステリアス
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バルザ殿は私を大変に爽やかな笑顔で迎えてくれた。
この塔で仕事をしていることに、バルザ殿が複雑な思いを抱いていることは間違いない。
ほとんど無理やりにプラーヌスに拉致されたも同然。それどころか、何らかの邪悪な魔法によって、この塔で働かざるを得ない状況に陥っている可能性すらある。
そして、彼の部下たちはこの前の戦いで大勢死んだばかり。
あの戦闘からもう二日が経っていた。
私はもっと早くバルザ殿の元に赴かなければいけなかったと思う。
塔が引っくり返るほど忙しかったのは理解してくれているかもしれないが、今頃、のこのこやって来た私を歓迎出来るような心境ではないはず。
しかしバルザ殿は作業の手を止め、私の話しを聞こうとする姿勢を見せてくれるだけでなく、本当の友人に向けるような態度を示してくれるのだ。
「すいませんでした、バルザ殿。僕はもっと早くここに伺うべきだったと思います」
私はそんな自分に恥じ入って、どこかに消え入りたくなる。
「何を仰られる、シャグラン殿。あなたの主から預かった大勢の戦士を傷つけ、亡くしてしまったのは私の罪です。謝らなければいけないのは私のほう。いったいどうやって償えばいいのか、このバルザ、その術を知りません」
「バルザ殿、そのようなことは決して」
「私はこの咎を生涯背負って生きるしかありません。しかし亡くなった命は戻ってこない」
わざと大袈裟なことを言って、私を恐縮させたいわけではないだろう。
バルザ殿は本気で責任を感じておられるのである。それが騎士バルザという御方。
もちろん、バルザ殿に謝られれば謝られるほど、私の心は張り裂けそうになるくらい苦しくなるのであるが、多分、バルザ殿はそのことに気づいておられない。
バルザ殿は更に続けられる。
「幸いなことにあれからまだ蛮族は襲来していません。これからの戦い、我が部隊の誰一人も失うことのない戦いをしてみせます。それが私に出来る、たった一つの死者たちへの餞」
その言葉を待っていたわけではないが、例の話題を切り出すためのきっかけになった。
私は用意していた言葉をバルザ殿に向かって述べる。
「バルザ殿、実はこれからの塔の防備に関して話し合うためにここに来ました。兵の補充も急いで手配します。そして砦の建設も急ぎたいと思っている次第」
「それは有り難い! 砦があれば、守る側はずっと楽に戦えるのです。別に頑丈な砦は必要ありません。堀と柵と、弓を射るための台などがあれば」
「兵の補充はこちらに任せて下さい。一刻も早く傭兵たちを雇います。しかし砦の建設に関しては、バルザ殿にも力を貸して頂きたいのです・・・」
「もちろん、それに関しては全て任せて頂きたい。どこに見張り台を設置して、どこに堀を掘り、どのような砦を築くのか、それは前線の指揮官である私に一任して欲しい。むしろ、口を差し挟むのは慎んで貰いたい。戦うのは私たちなのです。私が保証して欲しいのは、塔の前に砦を作る許可と、その材料である大量の木材、資金の供給」
「それなのです、バルザ殿。しかしその前に、えーと、彼はサンチーヌ。今は私と共に、この塔の管理をしてもらっていて」
私はまずサンチーヌを紹介する。万が一のことを考え、サンチーヌにもこの話題に加わってもらうためだ。
私はまだバルザ殿のことをよく理解していない。彼がどのようなときに不興を覚えられるのかわからない。
シャグラン殿、そなたはこの騎士バルザに、このような人夫の仕事をあてがわれるのか! 剣ではなく、斧を振るえと? 馬鹿にするのもいい加減にするのだ!
そんなことを言われるかもしれない。言われないかもしれない。とにかく何もわからない。
バルザ殿は予測不可能。ミステリアス。そういうわけでサンチーヌもこの話しに参加してもらって、もしもの場合に備える。
この塔で仕事をしていることに、バルザ殿が複雑な思いを抱いていることは間違いない。
ほとんど無理やりにプラーヌスに拉致されたも同然。それどころか、何らかの邪悪な魔法によって、この塔で働かざるを得ない状況に陥っている可能性すらある。
そして、彼の部下たちはこの前の戦いで大勢死んだばかり。
あの戦闘からもう二日が経っていた。
私はもっと早くバルザ殿の元に赴かなければいけなかったと思う。
塔が引っくり返るほど忙しかったのは理解してくれているかもしれないが、今頃、のこのこやって来た私を歓迎出来るような心境ではないはず。
しかしバルザ殿は作業の手を止め、私の話しを聞こうとする姿勢を見せてくれるだけでなく、本当の友人に向けるような態度を示してくれるのだ。
「すいませんでした、バルザ殿。僕はもっと早くここに伺うべきだったと思います」
私はそんな自分に恥じ入って、どこかに消え入りたくなる。
「何を仰られる、シャグラン殿。あなたの主から預かった大勢の戦士を傷つけ、亡くしてしまったのは私の罪です。謝らなければいけないのは私のほう。いったいどうやって償えばいいのか、このバルザ、その術を知りません」
「バルザ殿、そのようなことは決して」
「私はこの咎を生涯背負って生きるしかありません。しかし亡くなった命は戻ってこない」
わざと大袈裟なことを言って、私を恐縮させたいわけではないだろう。
バルザ殿は本気で責任を感じておられるのである。それが騎士バルザという御方。
もちろん、バルザ殿に謝られれば謝られるほど、私の心は張り裂けそうになるくらい苦しくなるのであるが、多分、バルザ殿はそのことに気づいておられない。
バルザ殿は更に続けられる。
「幸いなことにあれからまだ蛮族は襲来していません。これからの戦い、我が部隊の誰一人も失うことのない戦いをしてみせます。それが私に出来る、たった一つの死者たちへの餞」
その言葉を待っていたわけではないが、例の話題を切り出すためのきっかけになった。
私は用意していた言葉をバルザ殿に向かって述べる。
「バルザ殿、実はこれからの塔の防備に関して話し合うためにここに来ました。兵の補充も急いで手配します。そして砦の建設も急ぎたいと思っている次第」
「それは有り難い! 砦があれば、守る側はずっと楽に戦えるのです。別に頑丈な砦は必要ありません。堀と柵と、弓を射るための台などがあれば」
「兵の補充はこちらに任せて下さい。一刻も早く傭兵たちを雇います。しかし砦の建設に関しては、バルザ殿にも力を貸して頂きたいのです・・・」
「もちろん、それに関しては全て任せて頂きたい。どこに見張り台を設置して、どこに堀を掘り、どのような砦を築くのか、それは前線の指揮官である私に一任して欲しい。むしろ、口を差し挟むのは慎んで貰いたい。戦うのは私たちなのです。私が保証して欲しいのは、塔の前に砦を作る許可と、その材料である大量の木材、資金の供給」
「それなのです、バルザ殿。しかしその前に、えーと、彼はサンチーヌ。今は私と共に、この塔の管理をしてもらっていて」
私はまずサンチーヌを紹介する。万が一のことを考え、サンチーヌにもこの話題に加わってもらうためだ。
私はまだバルザ殿のことをよく理解していない。彼がどのようなときに不興を覚えられるのかわからない。
シャグラン殿、そなたはこの騎士バルザに、このような人夫の仕事をあてがわれるのか! 剣ではなく、斧を振るえと? 馬鹿にするのもいい加減にするのだ!
そんなことを言われるかもしれない。言われないかもしれない。とにかく何もわからない。
バルザ殿は予測不可能。ミステリアス。そういうわけでサンチーヌもこの話しに参加してもらって、もしもの場合に備える。
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