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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第五章 7)スティグマ
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「シャグラン、お前だってアリューシアが傷物になるのは嫌だろ、え?」
カルファルが言う。
「傷物だって?」
「魔族と契約するために、自ら足を切ったり、片目を潰したり」
「ああ、もちろん駄目だ。それだけは絶対に阻止しなくてはいけない。実際にそんな魔法使いは多いのかい?」
いや、聞くまでもない。私だって見かけたことはある。片足の魔法使い、片腕の魔法使い、片目の魔法使い。
この塔に侵入してきた魔法使い、今、医務室で寝ているあの中年の男だって、そうだったではないか。
「多い」
「効果は?」
「ある。激烈な痛みだ。痛みや絶望を魔族は喜ぶ。欠損というスティグマは、魔族たちには魅力的なのだ。これだけで魔族の注目を簡単に惹くことが出来るのさ」
「な、なるほど」
「そのやり方を使えば、あいつも課題をクリアーすることが出来るかもしれない」
「でも、それだけは阻止しなければいけないな」
何が何でも、プラーヌスの手を借りてでも阻止しよう。
プラーヌスが禁じれば、アリューシアは必ず耳を傾けるはずだ。
しかし問題は、プラーヌスがそれを言ってくれるかどうか。
プラーヌスには、私たちが普通に持っている常識が欠落しているのだ。
私たちが普通に持っている常識、健康的で美しいアリューシアが、そんなことまでして魔法使いになる必要はないという想い。
しかしプラーヌスはそんなこと知ったことではないと言うだろう。
「まあ、アリューシアも馬鹿じゃなようだ。すぐにこのやり方に飛びつく気はないようではある」
私があまりに深刻な表情をしていたからだろうか、カルファルがまるで慰めでもするかのように言ってくる。
「彼女はシュショテを捉まえて、あのガキからアドバイスを仰いでいるんだ。その気はないという証拠。正攻法で魔族と交渉しようとしている。しかしもちろん、追い込まれたら何をするかわかったものではない」
「自分の力だけで契約を成功させるのは、それほど難しいことなのだろうか?」
おそらくそれが最も望ましい結末だ。別にアリューシアが魔法使いになることに反対ではない。
彼女が望むのならば、厭きるまでプラーヌスの傍にいればいいと思うのだ。
そのためにこの課題をクリアーしなければいけないのであるから、その後押しはしたい。
「俺の命を賭けて言ってやる。正攻法では絶対に無理だ。何かの奇跡が起きない限り。これから四日間、死に物狂いで勉強しても、無理なものは無理。それが魔法の世界」
「わ、わかった、でもそもそも、正攻法のやり方っていうのは具体的にどんな感じなんだよ?」
「お前はそんなことも知らないで、俺と会話していたのか」
「いや、何となくのイメージは掴めているけど」
「仕方ない教えてやるか。簡単に言えば女を口説くのと同じようなものだ。魔族を口説くのさ。自分はどれだけ優れた魔法使いで、自分と契約をすれば得をすることになるのか、魔族を説得するんだよ。それにはとにかく魔法言語のセンス、コミュニケーションの力が必要だ。しかし、もともと魅力的な男はたいした努力なしで、女にもてるのと同じ。ずば抜けた資質のある魔法使いは、魔族のほうから契約を申し込まれることもある」
「ああ、なるほど」
「これまで交わされた契約のパターン。魔族たちが気に入る言い回しを勉強する。魔法使いと魔族との交流の歴史は長い。遣り取りのパターンは出揃っている。しかしそれを学んだからといって、自分の身の丈に合わない魔族との契約は不可能。ってことで、話しは最初のところに戻る。アリューシアには不可能」
「だとすると、シュショテのアドバイスは無駄ってことか」
「そうだろうな、あの坊やには悪いけど。いや、きっと坊やもわかっている。教えていても虚しいはずだ」
シュショテには面倒を掛けている。ただでさえ、アリューシアの性格は傲慢。プライドが高くて、とにかく扱いにくい。生徒としては最悪な部類に入るに違いない。
そしてこのやり方を継続していても、解決策は見出せないのである。いずれアリューシアの努力は暗礁に乗り上げるだろう。そのときシュショテはアリューシアにとてつもない八つ当たりをされるかもしれない。
いや、そんなことは小さなこと。その絶望の果て、アリューシアがその最終手段に手を出さないという保証はない。
最終手段、すなわち自らの身体に傷をつけて、それを餌にして魔族を呼び寄せるという方法。
それは最悪の手段。そんなことがないように四六時中彼女を見張ってなくてはいけない。
「君も反対しているようで安心している」
唯一の救いはこれだろうか。カルファルという、それなりに優秀な魔法使いがどうやら私と意見と同じであること。
カルファルを信用しているわけではないけれど、かなり心強い味方である。
「当たり前だろ。俺は基本的にプラーヌスのやること全て反対なんだから」
「そ、そんなことが理由なのかい。そんな奴がどうしてこの塔に来たのさ?」
「旅の途中に偶然立ち寄っただけだ」
「嘘だろ、それ」
「ああ、嘘だ。あいつが夢に出てくるくらい嫌いなんだよ。もういい加減にして欲しい。そう言いに来たんだ」
「はあ・・・」
二人の過去のことは知らない。しかし何か穏やかならぬことが生じていたのだろう。それはプラーヌスのカルファルに対する態度からも明らか。
どのようなことがあったのか、私はさりげなく尋ねようとする。
しかしカルファルが言ってきた。
「それに、俺はアリューシアを自分の女にしたいんだ」
「はあ? 何だって?」
私はカルファルの言葉に絶句する。
カルファルが言う。
「傷物だって?」
「魔族と契約するために、自ら足を切ったり、片目を潰したり」
「ああ、もちろん駄目だ。それだけは絶対に阻止しなくてはいけない。実際にそんな魔法使いは多いのかい?」
いや、聞くまでもない。私だって見かけたことはある。片足の魔法使い、片腕の魔法使い、片目の魔法使い。
この塔に侵入してきた魔法使い、今、医務室で寝ているあの中年の男だって、そうだったではないか。
「多い」
「効果は?」
「ある。激烈な痛みだ。痛みや絶望を魔族は喜ぶ。欠損というスティグマは、魔族たちには魅力的なのだ。これだけで魔族の注目を簡単に惹くことが出来るのさ」
「な、なるほど」
「そのやり方を使えば、あいつも課題をクリアーすることが出来るかもしれない」
「でも、それだけは阻止しなければいけないな」
何が何でも、プラーヌスの手を借りてでも阻止しよう。
プラーヌスが禁じれば、アリューシアは必ず耳を傾けるはずだ。
しかし問題は、プラーヌスがそれを言ってくれるかどうか。
プラーヌスには、私たちが普通に持っている常識が欠落しているのだ。
私たちが普通に持っている常識、健康的で美しいアリューシアが、そんなことまでして魔法使いになる必要はないという想い。
しかしプラーヌスはそんなこと知ったことではないと言うだろう。
「まあ、アリューシアも馬鹿じゃなようだ。すぐにこのやり方に飛びつく気はないようではある」
私があまりに深刻な表情をしていたからだろうか、カルファルがまるで慰めでもするかのように言ってくる。
「彼女はシュショテを捉まえて、あのガキからアドバイスを仰いでいるんだ。その気はないという証拠。正攻法で魔族と交渉しようとしている。しかしもちろん、追い込まれたら何をするかわかったものではない」
「自分の力だけで契約を成功させるのは、それほど難しいことなのだろうか?」
おそらくそれが最も望ましい結末だ。別にアリューシアが魔法使いになることに反対ではない。
彼女が望むのならば、厭きるまでプラーヌスの傍にいればいいと思うのだ。
そのためにこの課題をクリアーしなければいけないのであるから、その後押しはしたい。
「俺の命を賭けて言ってやる。正攻法では絶対に無理だ。何かの奇跡が起きない限り。これから四日間、死に物狂いで勉強しても、無理なものは無理。それが魔法の世界」
「わ、わかった、でもそもそも、正攻法のやり方っていうのは具体的にどんな感じなんだよ?」
「お前はそんなことも知らないで、俺と会話していたのか」
「いや、何となくのイメージは掴めているけど」
「仕方ない教えてやるか。簡単に言えば女を口説くのと同じようなものだ。魔族を口説くのさ。自分はどれだけ優れた魔法使いで、自分と契約をすれば得をすることになるのか、魔族を説得するんだよ。それにはとにかく魔法言語のセンス、コミュニケーションの力が必要だ。しかし、もともと魅力的な男はたいした努力なしで、女にもてるのと同じ。ずば抜けた資質のある魔法使いは、魔族のほうから契約を申し込まれることもある」
「ああ、なるほど」
「これまで交わされた契約のパターン。魔族たちが気に入る言い回しを勉強する。魔法使いと魔族との交流の歴史は長い。遣り取りのパターンは出揃っている。しかしそれを学んだからといって、自分の身の丈に合わない魔族との契約は不可能。ってことで、話しは最初のところに戻る。アリューシアには不可能」
「だとすると、シュショテのアドバイスは無駄ってことか」
「そうだろうな、あの坊やには悪いけど。いや、きっと坊やもわかっている。教えていても虚しいはずだ」
シュショテには面倒を掛けている。ただでさえ、アリューシアの性格は傲慢。プライドが高くて、とにかく扱いにくい。生徒としては最悪な部類に入るに違いない。
そしてこのやり方を継続していても、解決策は見出せないのである。いずれアリューシアの努力は暗礁に乗り上げるだろう。そのときシュショテはアリューシアにとてつもない八つ当たりをされるかもしれない。
いや、そんなことは小さなこと。その絶望の果て、アリューシアがその最終手段に手を出さないという保証はない。
最終手段、すなわち自らの身体に傷をつけて、それを餌にして魔族を呼び寄せるという方法。
それは最悪の手段。そんなことがないように四六時中彼女を見張ってなくてはいけない。
「君も反対しているようで安心している」
唯一の救いはこれだろうか。カルファルという、それなりに優秀な魔法使いがどうやら私と意見と同じであること。
カルファルを信用しているわけではないけれど、かなり心強い味方である。
「当たり前だろ。俺は基本的にプラーヌスのやること全て反対なんだから」
「そ、そんなことが理由なのかい。そんな奴がどうしてこの塔に来たのさ?」
「旅の途中に偶然立ち寄っただけだ」
「嘘だろ、それ」
「ああ、嘘だ。あいつが夢に出てくるくらい嫌いなんだよ。もういい加減にして欲しい。そう言いに来たんだ」
「はあ・・・」
二人の過去のことは知らない。しかし何か穏やかならぬことが生じていたのだろう。それはプラーヌスのカルファルに対する態度からも明らか。
どのようなことがあったのか、私はさりげなく尋ねようとする。
しかしカルファルが言ってきた。
「それに、俺はアリューシアを自分の女にしたいんだ」
「はあ? 何だって?」
私はカルファルの言葉に絶句する。
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