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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第三章 22)暗く陰惨な魔法の世界
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「なあ、おい、プラーヌスは本当に恐ろしい男だぜ」
カルファルは何もやることがなくて暇なのか、私の執務室までついてくる。
まだこれから色々と仕事があると遠回しに匂わせたのだけど、彼のような厚かましい男には通用しないようだ。
「シャグラン、君は彼の部下か? 雇われているのか? 悪いことは言わない、さっさとここから逃げ出すべきだな」
「ちょっと、私のプラーヌス様の悪口言うのやめてくれる?」
いや、私のあとをついてきたのはカルファルだけではない。
アリューシアもだ。彼女も当然のような面持ちで、執務室に入ってくる。
「君もだよ、アリューシア、あんな奴のどこがいいんだ、あいつは本当に性格が悪いぜ」
カルファルがアリューシアに言った。
「あの人は、この世界で最も美しくて、優れた人間だもの。性格なんてどうでもいい」
その口振りでは、アリューシアもプラーヌスの性格の悪さは認めているるようだ。
「まあ、君がプラーヌスを慕おうが俺の知ったことではない。しかし確実に言えることが一つある。アリューシア、君は五日後に破門されるだろうってことさ」
「いいえ、絶対に合格しみてみせる。これから一睡もしないで頑張るから」
「ふーん。それだけの意気込みがあるのならば、もしかしたらそれなりのガルディアンを見つけられるかもしれない。その代わり」
カルファルは勿体つけたように、そこで一瞬黙った。
「その代わり?」
私は尋ねる。
「その代わり、手か足を失うことになるだろう」
いや、あるいは視力か聴力かもしれない。「いずれにしろ、本気で魔法使いを目指すのならば、君は何がしかの美を失うぜ」
「ど、どういうことだよ?」
私はカルファルに尋ねた。なぜ彼はアリューシアを脅すようなことを言うのだろうか、私は彼に不快感を禁じえなかった。
「言うまでもない。それが魔法の法則だからだよ。魔族は我々魔法使いに魔法の力を与える代わりに、それなりの見返りを要求してくる。違う、それなりの要求なんて言葉は生温いな。凄惨で、壮絶な要求、そう言ったほうが正確かもしれない」
「ああ、プラーヌスもそのせいで、とてつもない頭痛に苦しんでいるっていう例の」
忘れていた。というよりも、この幼くて健やかなアリューシアにも、あのような恐ろしい法則が適用されるという事実を、私は実感することが出来ていなかった。
しかし当然のことかもしれない。
いくらアリューシアが上級貴族の出で、両親に大切に育てられた愛らしい娘であろうが、魔族にはそんなこと関係がない。それで何か手心が加えられるわけではないのだ。
「アリューシア、君はそれなりのレベルの魔族と契約を結ぼうとしているんだ。これまでのような甘っちょろい魔法使いではなくなる。君はもう以前のままの君ではいられなくなるんだぜ」
カルファルは更に続ける。
「自分のキャパシティー以上の魔族と契約を望むのだから、犠牲は大きくなる。それは当然のことだ。しかも魔族との契約を急げば尚更、奴らの要求は厳しくなる。君はそれに耐えられるのか?」
「そんなの」
嫌に決まってるじゃない。「私は私のまま、立派な魔法使いになる。いいえ、なってみせるわ」
「甘いガキだ。まだ魔族の恐ろしさを知らない。暗く陰惨な魔法の世界に飛び込むということが、どういうことなのかわかっていない。それも君がまだ、未熟な魔法使いだという証しだ。何かを得るためには、何かを失わなければいけない。魔族の要求から逃げることは出来ない」
「じゃあ、あなたも何か失ったの?」
アリューシアが尋ねた。
「何だって?」
「あなただって魔族と契約を結んだんでしょ? そのとき何か失ったのって聞いてるの」
「俺が何か失ったかだって?」
カルファルという男、よく喋って、表情も豊かであるが、何を考えているのか掴めないところがある。常に演技をしていているかのようなのだ。
「俺が失ったもの、か・・・」
しかし今、そんなカルファルがその本心をあらわにした瞬間に思えた。彼が常にかぶっている演技の仮面が外れたかのような。
その失ったものに想いを馳せたのであろうか、カルファルの素顔に、寂し気な表情が浮かんだように、私には見えた。
「失ったもの、・・・そんなもの、ないよ」
しかし彼はまた仮面を被ったかのようにして、その感情をぐっと奥に引っ込めた。
彼はまたニヤニヤと微笑み始める。
「俺が失ったもの、本当に何一つないぜ。強いて言えば、若さくらいかな」
そんなことをうそぶく。
カルファルは何もやることがなくて暇なのか、私の執務室までついてくる。
まだこれから色々と仕事があると遠回しに匂わせたのだけど、彼のような厚かましい男には通用しないようだ。
「シャグラン、君は彼の部下か? 雇われているのか? 悪いことは言わない、さっさとここから逃げ出すべきだな」
「ちょっと、私のプラーヌス様の悪口言うのやめてくれる?」
いや、私のあとをついてきたのはカルファルだけではない。
アリューシアもだ。彼女も当然のような面持ちで、執務室に入ってくる。
「君もだよ、アリューシア、あんな奴のどこがいいんだ、あいつは本当に性格が悪いぜ」
カルファルがアリューシアに言った。
「あの人は、この世界で最も美しくて、優れた人間だもの。性格なんてどうでもいい」
その口振りでは、アリューシアもプラーヌスの性格の悪さは認めているるようだ。
「まあ、君がプラーヌスを慕おうが俺の知ったことではない。しかし確実に言えることが一つある。アリューシア、君は五日後に破門されるだろうってことさ」
「いいえ、絶対に合格しみてみせる。これから一睡もしないで頑張るから」
「ふーん。それだけの意気込みがあるのならば、もしかしたらそれなりのガルディアンを見つけられるかもしれない。その代わり」
カルファルは勿体つけたように、そこで一瞬黙った。
「その代わり?」
私は尋ねる。
「その代わり、手か足を失うことになるだろう」
いや、あるいは視力か聴力かもしれない。「いずれにしろ、本気で魔法使いを目指すのならば、君は何がしかの美を失うぜ」
「ど、どういうことだよ?」
私はカルファルに尋ねた。なぜ彼はアリューシアを脅すようなことを言うのだろうか、私は彼に不快感を禁じえなかった。
「言うまでもない。それが魔法の法則だからだよ。魔族は我々魔法使いに魔法の力を与える代わりに、それなりの見返りを要求してくる。違う、それなりの要求なんて言葉は生温いな。凄惨で、壮絶な要求、そう言ったほうが正確かもしれない」
「ああ、プラーヌスもそのせいで、とてつもない頭痛に苦しんでいるっていう例の」
忘れていた。というよりも、この幼くて健やかなアリューシアにも、あのような恐ろしい法則が適用されるという事実を、私は実感することが出来ていなかった。
しかし当然のことかもしれない。
いくらアリューシアが上級貴族の出で、両親に大切に育てられた愛らしい娘であろうが、魔族にはそんなこと関係がない。それで何か手心が加えられるわけではないのだ。
「アリューシア、君はそれなりのレベルの魔族と契約を結ぼうとしているんだ。これまでのような甘っちょろい魔法使いではなくなる。君はもう以前のままの君ではいられなくなるんだぜ」
カルファルは更に続ける。
「自分のキャパシティー以上の魔族と契約を望むのだから、犠牲は大きくなる。それは当然のことだ。しかも魔族との契約を急げば尚更、奴らの要求は厳しくなる。君はそれに耐えられるのか?」
「そんなの」
嫌に決まってるじゃない。「私は私のまま、立派な魔法使いになる。いいえ、なってみせるわ」
「甘いガキだ。まだ魔族の恐ろしさを知らない。暗く陰惨な魔法の世界に飛び込むということが、どういうことなのかわかっていない。それも君がまだ、未熟な魔法使いだという証しだ。何かを得るためには、何かを失わなければいけない。魔族の要求から逃げることは出来ない」
「じゃあ、あなたも何か失ったの?」
アリューシアが尋ねた。
「何だって?」
「あなただって魔族と契約を結んだんでしょ? そのとき何か失ったのって聞いてるの」
「俺が何か失ったかだって?」
カルファルという男、よく喋って、表情も豊かであるが、何を考えているのか掴めないところがある。常に演技をしていているかのようなのだ。
「俺が失ったもの、か・・・」
しかし今、そんなカルファルがその本心をあらわにした瞬間に思えた。彼が常にかぶっている演技の仮面が外れたかのような。
その失ったものに想いを馳せたのであろうか、カルファルの素顔に、寂し気な表情が浮かんだように、私には見えた。
「失ったもの、・・・そんなもの、ないよ」
しかし彼はまた仮面を被ったかのようにして、その感情をぐっと奥に引っ込めた。
彼はまたニヤニヤと微笑み始める。
「俺が失ったもの、本当に何一つないぜ。強いて言えば、若さくらいかな」
そんなことをうそぶく。
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