私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第二章 9)アリューシアの章

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 (この人は、私の父を心の底から馬鹿にしているようだ)

 アリューシアは父と魔法使いのやり取りを伺いながら思った。

 (確かに父は何度も戦いに敗れ、疲れ切っている。まるで別人みたいになっている。それでも世界に冠たるボーアホーブ家の当主。そんな父をこんなふうに扱うなんて!)

 アリューシアはこの魔法使いに不思議な好感を抱いていた。
 いや、好感なんて生ぬるい表現だ。見た瞬間、彼の異様な雰囲気に、すっかりと魅了されてしまっていた。
 しかし父に対するあまりに無礼な態度に、その好感は跡形もなく消え去ろうとしている。

 (こんな人の言いなりになるくらいなら、この城を捨てて、逃げたほうがましだわ!)

 アリューシアの考えはそんなふうに傾き始めていた。

 (人の弱みに付け込もうとするなんて、どんな人でも許すことは出来ないもん!)

 アリューシアの父も、彼女の同じ意見のようであった。
 この魔法使いと相対してからずっと厳しい面持ちであったが、今、その眉の皺は更に険しく刻み込まれた。

 「魔法使いとは楽な商売だな。そなたはきっと、この戦いに勝とうが負けようが、報酬だけは受け取り、ここから去っていくだろう。この戦いの勝ち敗けに関係なく、利だけを得る。一方、我がボーアホーブ家は、そなたに財産を毟り取られ、ギャラック家からも奪われる。二重の屈辱を受けることになるかもしれない。危険な賭けだ」

 「その危険な賭けに挑むか、避けるか、それはあなたが判断するべきこと」

 魔法使いの男は、父の器量を試すかのように言う。「僕の知ったことではありませんよ」

 「私に判断しろだと! お前などに言われるまでもなく、私はこれまで数々の修羅場で重い判断を下してきた。その判断の結果、ボーアホーブ家の繁栄を築いてきたのだ」

 「まあ、そのようですね」

 魔法使いの男は父のこれまでの功績は認めるとでも言いたげに、高い天井の部屋を見渡し、その部屋に飾られた豪勢な調度品を見渡す。
 それは確かに高価で、貴重な品物ばかり。

 「私が今より少しでも若ければ、すぐに判断を下していたであろう。答えはノーだ。お前のような無礼な魔法使いなどすぐに追い出し、もう一度兵をまとめ、最後の戦いに死力を尽くしていたであろう」

 「ち、父上! 待って下さい!」

 兄のアランが慌てて声を上げた。「この戦いに敗れれば、我々ボーアホーブ家は何もかも奪われ、永遠に再興することは不可能になります。しかし今、多くの財産を差し出したとしても、領民たちと領地さえ守ることが出来れば、これからまた、いくらでも財産を築き出すことは可能なはず。今は耐えるべきときです」

 「アラン! それがお前の意見か!」

 父はもう椅子に腰掛けようともしないで、立ったまま語り続けた。「先の見えない明日のために、この卑劣な魔法使いにボーアホーブ家の財産の大半を明け渡すなど、私には考えることも出来ない。それくらいならば」

 「その心情、このアランも変わりありません。しかしこのままでは、ギャラック家との戦いに敗れることは確実。その最悪の明日はすぐそこに迫っています。それを回避するのがまず先決のはず」

 「その最悪の明日を回避出来るかどうもわからない」

 「ですが戦ってみなければ!」

 そう反論しかけたアランを制して父は続ける。

 「たとえ、もしこの戦いに勝ったとしても、これからの私の人生は暗い雲に包まれ続けるだろう。莫大な借財を前に、心が晴れることはひと時もないはずだ」

 そこまで語って、父の口調は更に意気消沈した感じに変わった。「私は老いた。残された時間は少ない。遠い明日の希望に想いを馳せることは出来ない。この戦いに賭ける熱意もかき消えたようだ」

 「父上、しかし!」

 父のあまりに弱気で身勝手な意見を前にして、いつでも冷静なアランの感情も、激しい怒りに震えているようにアリューシアには見えた。
 その怒りのせいなのか、アランは反論の言葉が上手く出てこないよう。
 アリューシアにも兄の怒りは理解出来た。
 父はボーアホーブ家が滅亡することを受け入れているのも同然。しかも、ちっぽけな誇りを優先して、戦うことを諦めようとしている。

そんな父は、アランに向かって更に言葉を投げ放つ。
しかし父の次の言葉を聞いて、アランの表情から怒りは消えた。

 「私の熱意は消えた、そう言っただけだ。だがお前は若い。それゆえ未熟でお人好しだが、まだまだこの先がある」

 「・・・は、はい」

 言葉にならないほどの怒りから、それは困惑に変じた。

 「若いお前ならば、この暗い雲の先に光を見ることもあるかもしれない。ボーアホーブ家の行く末は全てお前に任せる。アラン、もはやお前の好きなようにするがいい」

 父はそう言って、その魔法使いのほうを振り向きもせずに部屋を出ていった。
 その後ろ姿はこれ以上話し合うのも不愉快。会談は決裂と語っているようである。
 しかし、結果はその逆。この魔法使いを雇い、最後の戦いに討って出るよう、アランに全てを託したのだ。

 アランはすぐに事態を飲み込めないようであったが、やがて父の言葉の真意を理解して、ぐっと唇をかんだ。

 「何としてでも、このボーアホーブ家を守ってみせます!」

 そう言って、感謝の込もった表情で父の背中を見送り続けた。
 そんなアランの横顔を、魔法使いは特に際立った表情を浮かべるでもなく、ただ静かに眺める。
 そしてアリューシアは、兄とその魔法使いの姿を交互に見つめる。
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