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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第九章 21)ちょっとした戦利品
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乱雑に散らかっていたものが、きれいに片付けられていく。それには焼くことが、最も効果的であることを証明するような方法。自由に動き回る、それぞれに我を主張しているものたちを、真っ黒な一色の灰に還元させてしまうのだから、さっぱりと整理されてしまうのは当然だろう。
焼くこと、プラーヌスの選んだ解決法だ。それは本当に鮮やかで、あっという間の好転であった。
下界は灼熱の炎で包まれている。地面から雑草のように火柱が立ち上がる。その炎が、仮面兵団たちを焼いていくのだ。
私たち、カルファル、アリューシアが空に浮いていることを逆手に取った作戦のようだった。
仮面兵団やギャラックの兵たちは皆、大地に足を着けている。その大地の全てが、プラーヌスの魔法で一瞬にして炎に包まれたのだ。彼らに逃げる場所はなかった。
バーレットですら、焼かれて死んでいった。
悪名高き傭兵団の総帥。私たちをこれほどにも苦しめた男。
しかしそんな彼も、彼の部下たちと同じようにして焼死。それはとても呆気ない結末。
下界の者たちが炎に焼かれている中、プラーヌスは上空にいる私を抱き寄せ、カルファルを手繰り寄せ、そしてアリューシアを引っ張り上げた。
首や手首を圧迫していた縄も切断される。私たちは中庭に張り出した城の内壁の通路に降り立った。
助かったのだ。圧倒的な苦しみから解放され、好きなだけ新鮮な空気を吸うことが出来るようになった。
私は生きていることに感謝して、これからの人生を精一杯に頑張ろうと、心持ちも新たに誓ったことを覚えている。
生きていることはとても素晴らしいことだと、本当に心の底から実感したのだ。
その一方、下では地獄のような光景が展開している。生きながらに焼かれる人間たちの苦しみ。その断末魔と肉の焼ける匂い。
「仮面兵団とかいう傭兵団らしいね。けっこう面倒な相手だ。こちらのシールドが通用しない。正面から戦えば、僕だって手こずったかもしれない。だから挨拶もなしに、いきなりの虐殺さ」
プラーヌスは満足げに微笑みながら言う。
「この魔法の炎は強い。そのかわり、調節が効かないんだ。もし君たちが下に居れば、一緒に焼け死んでいた可能性がある。だから皆が空に浮かぶのを待っていたのだけど・・・、おっと」
プラーヌスが眉をひそめて、語るのを辞めた。仮面兵団の中に、一人だけ機転の利いた者がいたのだ。
魔法のかかった縄を自分の腕に絡めたのだろう、その浮力で、大地から噴き出してくる炎を逃れようとしている。
右足に炎がまとわりついていたが、腰から剣を抜いて、躊躇なく足を切断した。それで彼の身体を燃やす炎は消えた。浮上していく縄の力で、下界の炎の地獄からも逃げ切った。
「なかなかやるね、あの男」
プラーヌスが感心したような眼差しを投げる。しかし彼は宝石を取り出して、その宝石を摘まみながら、その男に向けて指差しをする。とどめを刺そうとしているようだ。
「いや、殺すには惜しい。このまま空を彷徨うがいい」
プラーヌスは宝石を懐に収めた。「だけど仲間は全滅したから、結局いつか墜落死するのだろうか。それとも空に浮きながら、餓死か。それはもったいないね。使えそうな男だ。どうせならば塔に連れて帰るか。番犬として使うのもいいかもしれない」
独り言なのか、僕に向かって相談しているのか、プラーヌスはそのような言葉を発する。
「やい、そこの君。生きたいか、死にたいか?」
プラーヌスはその男に向かって声を張り上げた。
「い、生きたい」
男はプラーヌスの言葉の意図を瞬時に理解したようで、すぐに仮面を脱いだ。「あなたに降伏する」
「よし、いいだろう。塔に連れて帰ろう。ちょっとした戦利品だ」
さて、これで全て解決かな。
改めて彼は私を見た。「ああ、シャグラン、それにしても僕は怒りに狂っている」
プラーヌスは怒気を荒げ、そんなことを言ってきた。
焼くこと、プラーヌスの選んだ解決法だ。それは本当に鮮やかで、あっという間の好転であった。
下界は灼熱の炎で包まれている。地面から雑草のように火柱が立ち上がる。その炎が、仮面兵団たちを焼いていくのだ。
私たち、カルファル、アリューシアが空に浮いていることを逆手に取った作戦のようだった。
仮面兵団やギャラックの兵たちは皆、大地に足を着けている。その大地の全てが、プラーヌスの魔法で一瞬にして炎に包まれたのだ。彼らに逃げる場所はなかった。
バーレットですら、焼かれて死んでいった。
悪名高き傭兵団の総帥。私たちをこれほどにも苦しめた男。
しかしそんな彼も、彼の部下たちと同じようにして焼死。それはとても呆気ない結末。
下界の者たちが炎に焼かれている中、プラーヌスは上空にいる私を抱き寄せ、カルファルを手繰り寄せ、そしてアリューシアを引っ張り上げた。
首や手首を圧迫していた縄も切断される。私たちは中庭に張り出した城の内壁の通路に降り立った。
助かったのだ。圧倒的な苦しみから解放され、好きなだけ新鮮な空気を吸うことが出来るようになった。
私は生きていることに感謝して、これからの人生を精一杯に頑張ろうと、心持ちも新たに誓ったことを覚えている。
生きていることはとても素晴らしいことだと、本当に心の底から実感したのだ。
その一方、下では地獄のような光景が展開している。生きながらに焼かれる人間たちの苦しみ。その断末魔と肉の焼ける匂い。
「仮面兵団とかいう傭兵団らしいね。けっこう面倒な相手だ。こちらのシールドが通用しない。正面から戦えば、僕だって手こずったかもしれない。だから挨拶もなしに、いきなりの虐殺さ」
プラーヌスは満足げに微笑みながら言う。
「この魔法の炎は強い。そのかわり、調節が効かないんだ。もし君たちが下に居れば、一緒に焼け死んでいた可能性がある。だから皆が空に浮かぶのを待っていたのだけど・・・、おっと」
プラーヌスが眉をひそめて、語るのを辞めた。仮面兵団の中に、一人だけ機転の利いた者がいたのだ。
魔法のかかった縄を自分の腕に絡めたのだろう、その浮力で、大地から噴き出してくる炎を逃れようとしている。
右足に炎がまとわりついていたが、腰から剣を抜いて、躊躇なく足を切断した。それで彼の身体を燃やす炎は消えた。浮上していく縄の力で、下界の炎の地獄からも逃げ切った。
「なかなかやるね、あの男」
プラーヌスが感心したような眼差しを投げる。しかし彼は宝石を取り出して、その宝石を摘まみながら、その男に向けて指差しをする。とどめを刺そうとしているようだ。
「いや、殺すには惜しい。このまま空を彷徨うがいい」
プラーヌスは宝石を懐に収めた。「だけど仲間は全滅したから、結局いつか墜落死するのだろうか。それとも空に浮きながら、餓死か。それはもったいないね。使えそうな男だ。どうせならば塔に連れて帰るか。番犬として使うのもいいかもしれない」
独り言なのか、僕に向かって相談しているのか、プラーヌスはそのような言葉を発する。
「やい、そこの君。生きたいか、死にたいか?」
プラーヌスはその男に向かって声を張り上げた。
「い、生きたい」
男はプラーヌスの言葉の意図を瞬時に理解したようで、すぐに仮面を脱いだ。「あなたに降伏する」
「よし、いいだろう。塔に連れて帰ろう。ちょっとした戦利品だ」
さて、これで全て解決かな。
改めて彼は私を見た。「ああ、シャグラン、それにしても僕は怒りに狂っている」
プラーヌスは怒気を荒げ、そんなことを言ってきた。
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