私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第九章 16)全ての目標を果たして

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 その炎の外延は、空を焦がすように跳ね上がるかと思えば消えたり、再びほとばしったり、ときに大空を飛ぶドラゴンのように見えたり、あるいは路地を横切る泥ネズミのようにも見えたり。
 いずれにしろアリューシア渾身の炎の魔法は、ギャラック家の次期当主ブルーノの身体にまとわりついて離れない。

 当然、ギャラックの兵士たちは色めき立った。自分たちの主人が攻撃に曝され、大きな炎に包まれているのである。子供が相手だと油断していたとはいえ、大いなる過失。
 ギャラックの兵士は、アリューシアにに向かって突撃を仕掛ける集団と、炎で焼かれ、痛みに暴れるブルーノを助ける集団に二分された。
 ブルーノを助けようとする一方は、マントで叩いたり、水を掛けたりして、炎を消そうと試みる。
 しかし魔法の魔法が簡単に消えるわけがなかった。むしろその努力は、ブルーノの苦痛を引き延ばすだけの無駄な処置。

 アリューシアは満面の笑みでもって、その様子を眺めていた。
 人が苦しむところを、愉快そうに眺めている。残虐で、無邪気で、無垢な笑顔。これで心が晴れたわ! 彼女は全身でそのような言葉を叫んでいる気配。
 実際、彼女はこれで満足して、戦う気力をなくしたようだった。敵に背を見せて、入ってきた扉から出ていこうとする。

 しかしギャラックの兵たちは彼女に向かって殺到する。
 突進の足音と、強烈な殺意に襲われても、彼女は振り向きもしない。代わりにカルファルが炎の魔法で彼らを威嚇する。先頭を走っていた数人が炎上して、後続の兵士たちは足を止めた。

 魔法の力の凄まじさ。私は何度、それを見せつけられただろうか。一瞬のきらめきで、これだけの兵を足止めすることが出来る奇跡。
 その力には何も不可能なことがないのではないか、そんな気にさせられる。
 結局、私たちは、二人の魔法の力で全ての目的を果たして、ここから颯爽と退却することが出来るのではないか。
 そんなことすら思った。家族の遺体の回収、ギャラックの次期当主殺害。アリューシアはとても強引で、大いなるリスクを冒しながらであるが、全ての目標を遂げた。

 しかし、世界は私たちに都合良いようには成り立ってはいなかった。
 まず、カルファルが私に向かって手を差し出してきた。私は彼をいぶかしげに見返す。
 カルファルは自分の革袋を指した。どうやら宝石が尽きたというサインだったらしい。そんなことを言われても、私が宝石を持っているわけがない。
 宝石を持っているとすれば、アリューシアだけだ。私たちは同時にアリューシアのほうを振り返る。
 扉のほうに歩いていたアリューシアは足を止めていた。

 彼女は宙を見上げていた。何かに怯えるような仕草で、両手で視界を覆うようにして、少し身体を斜めに、左のほうに重心を傾け、虚を突かれたように、呆然とした様子で。
 アリューシアは何を見ているのか、私も同じように見上げる。

 人が浮いていた。縄で首をくくられて。
 それは私たちがよく知っている男、エドガルだった。アリューシアが塔に連れてきた付き人の一人。
 城壁の上で、アリューシアの家族を棺桶に収容していたはずのエドガル。彼が今、首を吊られて宙に浮いていたのだ。
 私はエドガルを知っているが、今の彼は見違えるような表情をしている。首を絞められれいる彼は、必死にもがき、縄と首の隙間に指を突っ込み、何とか圧迫から逃れようとしている。
 その顔色は真っ赤で、表情は苦悶に歪み、両足をバタバタさせている。

 「エドガル!」

 アリューシアが声を上げた。カルファルの魔法が解けたようだ。

 「死刑さ。死刑」

 くぐもった声が私たちに届く。
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