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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第九章 5)音のない世界
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戦いが始まると時間の流れ方が変わる。
どんなふうに変わるのかと聞かれても上手く答えることは出来ないけれど、とにかく濃密で、濃厚で、重くて、全ての瞬間が意味に満ちていて、何もかもが軽いものではなくなる。
その時間の中、兵士の一人が逆方向に走り出した。他の仲間に報せに行こうとしたようである。
それ以外の敵は一斉に、アリューシアに向かって突進してくる。
アリューシアが心配で、その頃には私も物陰から顔を出し、辺りの様子を見ていた。カルファル、それからアリューシアの付き人であるドニやエドガルも同様だ。
「おっと、俺も仕事をしなければいけない」
逃げ始めた敵に気づいて、カルファルも敏捷な動きで路地に出て、アリューシアのほうに走り寄る。
「お前たち、あいつを追え!」
アリューシアのほうに駆け寄りながら、カルファルはエドガルとドニにそのような指示も出した。
二人は素直にその支持を受け入れ、剣を抜いて走り出す。
本当に戦闘が始まったのだ。私はその輪の外にいたが、それは始まった。
しかしアリューシアは軽い混乱状態にあるようだった。武器を持った男たちが自分のほうに突進してくるのを前にして、自分のやるべきことを完全に見失ってしまっている。
恐怖で固まった表情で、うしろに後ずさりしているのだ。
あれほど大言を吐いていたのにこの始末。
彼女の危機であるが、私は拍子抜けしたし、呆れてしまった。
もちろん、仕方のないことなのかもしれない。恐るべき魔法使いではあるが、まだまだ子供なのだ。
そしてこれが初めての戦い。
とにかくアリューシアを笑っている場合ではない。彼女は敵に襲われているのだ。
それを救ったのもカルファルだった。彼は魔法を使い、先頭を走っていた兵士を即死させた。
その男は断末魔を上げて路面に伏す。しかし二列目を走っていた兵士は、彼をすり抜けた。
それどころかその兵士の突き出した槍が、アリューシアの身体に当たった。
私はその瞬間、アリューシアよりも先に心臓が止まりそうになったと思う。
サンチーヌとの約束を呆気なく反故にしてしまった責任。それより何より、あのアリューシアが殺されてしまった衝撃。
敵の槍は完全に彼女の腹部を貫いたように見えた。
しかしガラスが弾ける音だけが響いて、アリューシアは済ました表情で身体を起こした。
「え?」
「シールドだ。魔法のシールドを貼ってあるんだ。魔法使いなら当然だ。しかしそれが壊れた今、彼女は裸も同然、次の攻撃はヤバいぞ、アリューシア、さっさと攻撃に移れ」
カルファルが私の疑問に答えると同時に、アリューシアへのアドバイスも送る。
「わかってるわ!」
ようやくアリューシアの瞳に光が宿った。さっきまで恐怖と混乱しかなかった目に、明確な意思が。
尻餅をついた状態のまま、アリューシアが魔法を放った。
路面から凄まじい勢いで火柱が昇っていった。その炎が兵士たちの身体を包む。
兵士たちは足を止め、その炎を消し去ろうと、身体をバタバタさせる。しかし炎の威力は甚大で、そんなことで消えるわけもない。
そしてそれは全て無音の世界で起きた。
兵士たちは大きく口を開け、激しくのたうち回り、声の限りに痛みを叫んでいる様子だったのに、少しも悲鳴は聞こえず、物音一つ聞こえなかった。
これがカルファルの放った魔法の効果だ。彼はあらゆる音を消すことが出来る魔法を得意としているらしい。
それは完璧に効果を上げていた。そう言いたいところであったが、しかしその魔法の効果が出たのは、一人の兵士が街の隅にまで響き渡るように絶叫したあとだった。
どうやら魔法を放つタイミングが少しだけ遅れてしまったようだ。
「しくじったぜ。まあ、いいか」
カルファルは涼しい表情でそんなことを言っている。
彼の声は聞こえる。音が聞こえなくなったのは、彼が魔法を放った相手だけ。私の耳がおかしくなったわけではない証拠。
どんなふうに変わるのかと聞かれても上手く答えることは出来ないけれど、とにかく濃密で、濃厚で、重くて、全ての瞬間が意味に満ちていて、何もかもが軽いものではなくなる。
その時間の中、兵士の一人が逆方向に走り出した。他の仲間に報せに行こうとしたようである。
それ以外の敵は一斉に、アリューシアに向かって突進してくる。
アリューシアが心配で、その頃には私も物陰から顔を出し、辺りの様子を見ていた。カルファル、それからアリューシアの付き人であるドニやエドガルも同様だ。
「おっと、俺も仕事をしなければいけない」
逃げ始めた敵に気づいて、カルファルも敏捷な動きで路地に出て、アリューシアのほうに走り寄る。
「お前たち、あいつを追え!」
アリューシアのほうに駆け寄りながら、カルファルはエドガルとドニにそのような指示も出した。
二人は素直にその支持を受け入れ、剣を抜いて走り出す。
本当に戦闘が始まったのだ。私はその輪の外にいたが、それは始まった。
しかしアリューシアは軽い混乱状態にあるようだった。武器を持った男たちが自分のほうに突進してくるのを前にして、自分のやるべきことを完全に見失ってしまっている。
恐怖で固まった表情で、うしろに後ずさりしているのだ。
あれほど大言を吐いていたのにこの始末。
彼女の危機であるが、私は拍子抜けしたし、呆れてしまった。
もちろん、仕方のないことなのかもしれない。恐るべき魔法使いではあるが、まだまだ子供なのだ。
そしてこれが初めての戦い。
とにかくアリューシアを笑っている場合ではない。彼女は敵に襲われているのだ。
それを救ったのもカルファルだった。彼は魔法を使い、先頭を走っていた兵士を即死させた。
その男は断末魔を上げて路面に伏す。しかし二列目を走っていた兵士は、彼をすり抜けた。
それどころかその兵士の突き出した槍が、アリューシアの身体に当たった。
私はその瞬間、アリューシアよりも先に心臓が止まりそうになったと思う。
サンチーヌとの約束を呆気なく反故にしてしまった責任。それより何より、あのアリューシアが殺されてしまった衝撃。
敵の槍は完全に彼女の腹部を貫いたように見えた。
しかしガラスが弾ける音だけが響いて、アリューシアは済ました表情で身体を起こした。
「え?」
「シールドだ。魔法のシールドを貼ってあるんだ。魔法使いなら当然だ。しかしそれが壊れた今、彼女は裸も同然、次の攻撃はヤバいぞ、アリューシア、さっさと攻撃に移れ」
カルファルが私の疑問に答えると同時に、アリューシアへのアドバイスも送る。
「わかってるわ!」
ようやくアリューシアの瞳に光が宿った。さっきまで恐怖と混乱しかなかった目に、明確な意思が。
尻餅をついた状態のまま、アリューシアが魔法を放った。
路面から凄まじい勢いで火柱が昇っていった。その炎が兵士たちの身体を包む。
兵士たちは足を止め、その炎を消し去ろうと、身体をバタバタさせる。しかし炎の威力は甚大で、そんなことで消えるわけもない。
そしてそれは全て無音の世界で起きた。
兵士たちは大きく口を開け、激しくのたうち回り、声の限りに痛みを叫んでいる様子だったのに、少しも悲鳴は聞こえず、物音一つ聞こえなかった。
これがカルファルの放った魔法の効果だ。彼はあらゆる音を消すことが出来る魔法を得意としているらしい。
それは完璧に効果を上げていた。そう言いたいところであったが、しかしその魔法の効果が出たのは、一人の兵士が街の隅にまで響き渡るように絶叫したあとだった。
どうやら魔法を放つタイミングが少しだけ遅れてしまったようだ。
「しくじったぜ。まあ、いいか」
カルファルは涼しい表情でそんなことを言っている。
彼の声は聞こえる。音が聞こえなくなったのは、彼が魔法を放った相手だけ。私の耳がおかしくなったわけではない証拠。
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