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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第九章 3)戦いの始まり
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夜の中に隠れ、物陰に身を潜め、見張りの視線から逃げる。敵たちに察知されることなく、当初の目的を遂げる。それが我々の作戦であった。
つまり、戦いは避ける。戦いを避けることで、死そのものことを避けることが出来るはず。
「こそこそ逃げ回るために、ここに来たんじゃない。殺すために来たのよ、殺し尽くすために!」
しかしアリューシアはそう言って、私に向かって吠えてくるのであった。「次に逃げたら、あなたを許さないから!」
私たちは角を曲がり、目に着いた物陰に飛び込むようにして身を潜めた。
崩れ落ちたレンガ作りの建物の背後。私がそこを見つけて隠れることにしたのだが、しかし五人で隠れ続けるには心許ないサイズだった。
しかも、アリューシアは辺りをはばかることなく悪態をついてくる。
「や、奴らが追いついてきた、静かにするんだ、アリューシア!」
アリューシアも馬鹿ではない。私をにらみながらも口をつぐみ、身体を低くした。
消えたぞ。
どこかに隠れたんだ。
この辺りに居るはずだ。探せ。
ギャラックの哨戒兵たちが、私たちの隠れるそのレンガ造りの建物の前でウロウロしながら、そのような会話を交わしている。
鉄のプレートがこすれる音が、夜の中で響いた。敵は多い。武器を持ち、鎧で身を固めた屈強な男たちだ。
奴らは私たちがこの辺りに隠れているということに、確信を抱いているようだった。隠れる場所が悪かったのだろう。
そこは私が選んでしまった場所。責任を感じないわけにいかなった。私が臆病だから、手っ取り早く飛び込んだ最初の物陰。
ギャラックの兵たちの足音は更に増えて、こちらに近づいてくる。このままでは発見されるのも時間の問題。
「あいつらを殺していいでしょ? ねえ?」
そのとき、アリューシアは私の耳に着けるように囁いてきた。
その声に背筋がゾクリとした。私はアリューシアという少女を、根本的に勘違いしていたことを、はっきりと確信したと思う。
彼女も魔法使いなのだ。私とは種類の違う人間。「殺す」という選択肢が、当たり前のように存在していて、それを実行することを躊躇わないメンタリティ。
プラーヌスの課題をクリアーして、レベルの高い魔族と契約を果たしたから、彼女は変わったわけではないと思う。
そもそもアリューシアは、このような考え方をしていたのだ。それが魔法使いという生き物。
プラーヌスの前でドキドキしたり、アビュと口喧嘩したりしているアリューシアを見て、街にいる普通の少女だと思っていたが、それは大きな勘違いだったわけである。
「アリューシアの言う通りだ。このままだと見つかる。殺したほうがいい」
カルファルも賛同する。
「しかし敵は多い。彼ら全てを殺し尽くさなければ、我々の存在が他の仲間に知られるぞ。隠れているほうが得策ではないのか?」
私は精一杯、声をひそめてカルファルに反論した。
「殺し尽くせばいい。無理なことではない。まだ追っ手はそれほど多くはない」
「全て殺し尽くすだって・・・」
カルファルもそうなのだ。彼だってあっち側の人間。
確かにギャラックの兵士たちは、私たちを見つければその首に剣を振り落としてきて、心臓に向かって槍を突き出しもするのであろう。それが敵というもの。
しかし私自身は彼らに恨みはない。怒りはない。殺さずに済むものであるならば、そっちのほうがいい。
「それに俺の魔法なら、物音ひとつ立てずに殺すことが出来る。敵たちに断末魔の叫びを一切上げさせない」
「ああ、あの魔法ね!」
「あの魔法?」
「あの魔法よ。やっぱりシャグラン、あなたは足手まといだったわ!」
アリューシアは声を少しもひそめることなく、そう言い放った。
彼女の声は当然、敵たちの耳にも届いたようだ。彼らの足音が一斉に消えた。
ボーアホーブに到着して、最初の戦いが始まる。
つまり、戦いは避ける。戦いを避けることで、死そのものことを避けることが出来るはず。
「こそこそ逃げ回るために、ここに来たんじゃない。殺すために来たのよ、殺し尽くすために!」
しかしアリューシアはそう言って、私に向かって吠えてくるのであった。「次に逃げたら、あなたを許さないから!」
私たちは角を曲がり、目に着いた物陰に飛び込むようにして身を潜めた。
崩れ落ちたレンガ作りの建物の背後。私がそこを見つけて隠れることにしたのだが、しかし五人で隠れ続けるには心許ないサイズだった。
しかも、アリューシアは辺りをはばかることなく悪態をついてくる。
「や、奴らが追いついてきた、静かにするんだ、アリューシア!」
アリューシアも馬鹿ではない。私をにらみながらも口をつぐみ、身体を低くした。
消えたぞ。
どこかに隠れたんだ。
この辺りに居るはずだ。探せ。
ギャラックの哨戒兵たちが、私たちの隠れるそのレンガ造りの建物の前でウロウロしながら、そのような会話を交わしている。
鉄のプレートがこすれる音が、夜の中で響いた。敵は多い。武器を持ち、鎧で身を固めた屈強な男たちだ。
奴らは私たちがこの辺りに隠れているということに、確信を抱いているようだった。隠れる場所が悪かったのだろう。
そこは私が選んでしまった場所。責任を感じないわけにいかなった。私が臆病だから、手っ取り早く飛び込んだ最初の物陰。
ギャラックの兵たちの足音は更に増えて、こちらに近づいてくる。このままでは発見されるのも時間の問題。
「あいつらを殺していいでしょ? ねえ?」
そのとき、アリューシアは私の耳に着けるように囁いてきた。
その声に背筋がゾクリとした。私はアリューシアという少女を、根本的に勘違いしていたことを、はっきりと確信したと思う。
彼女も魔法使いなのだ。私とは種類の違う人間。「殺す」という選択肢が、当たり前のように存在していて、それを実行することを躊躇わないメンタリティ。
プラーヌスの課題をクリアーして、レベルの高い魔族と契約を果たしたから、彼女は変わったわけではないと思う。
そもそもアリューシアは、このような考え方をしていたのだ。それが魔法使いという生き物。
プラーヌスの前でドキドキしたり、アビュと口喧嘩したりしているアリューシアを見て、街にいる普通の少女だと思っていたが、それは大きな勘違いだったわけである。
「アリューシアの言う通りだ。このままだと見つかる。殺したほうがいい」
カルファルも賛同する。
「しかし敵は多い。彼ら全てを殺し尽くさなければ、我々の存在が他の仲間に知られるぞ。隠れているほうが得策ではないのか?」
私は精一杯、声をひそめてカルファルに反論した。
「殺し尽くせばいい。無理なことではない。まだ追っ手はそれほど多くはない」
「全て殺し尽くすだって・・・」
カルファルもそうなのだ。彼だってあっち側の人間。
確かにギャラックの兵士たちは、私たちを見つければその首に剣を振り落としてきて、心臓に向かって槍を突き出しもするのであろう。それが敵というもの。
しかし私自身は彼らに恨みはない。怒りはない。殺さずに済むものであるならば、そっちのほうがいい。
「それに俺の魔法なら、物音ひとつ立てずに殺すことが出来る。敵たちに断末魔の叫びを一切上げさせない」
「ああ、あの魔法ね!」
「あの魔法?」
「あの魔法よ。やっぱりシャグラン、あなたは足手まといだったわ!」
アリューシアは声を少しもひそめることなく、そう言い放った。
彼女の声は当然、敵たちの耳にも届いたようだ。彼らの足音が一斉に消えた。
ボーアホーブに到着して、最初の戦いが始まる。
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