私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

文字の大きさ
上 下
166 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第九章 3)戦いの始まり

しおりを挟む
 夜の中に隠れ、物陰に身を潜め、見張りの視線から逃げる。敵たちに察知されることなく、当初の目的を遂げる。それが我々の作戦であった。
 つまり、戦いは避ける。戦いを避けることで、死そのものことを避けることが出来るはず。

 「こそこそ逃げ回るために、ここに来たんじゃない。殺すために来たのよ、殺し尽くすために!」

 しかしアリューシアはそう言って、私に向かって吠えてくるのであった。「次に逃げたら、あなたを許さないから!」

 私たちは角を曲がり、目に着いた物陰に飛び込むようにして身を潜めた。
 崩れ落ちたレンガ作りの建物の背後。私がそこを見つけて隠れることにしたのだが、しかし五人で隠れ続けるには心許ないサイズだった。
 しかも、アリューシアは辺りをはばかることなく悪態をついてくる。

 「や、奴らが追いついてきた、静かにするんだ、アリューシア!」

 アリューシアも馬鹿ではない。私をにらみながらも口をつぐみ、身体を低くした。

 消えたぞ。
 どこかに隠れたんだ。
 この辺りに居るはずだ。探せ。

 ギャラックの哨戒兵たちが、私たちの隠れるそのレンガ造りの建物の前でウロウロしながら、そのような会話を交わしている。
 鉄のプレートがこすれる音が、夜の中で響いた。敵は多い。武器を持ち、鎧で身を固めた屈強な男たちだ。
 奴らは私たちがこの辺りに隠れているということに、確信を抱いているようだった。隠れる場所が悪かったのだろう。
 そこは私が選んでしまった場所。責任を感じないわけにいかなった。私が臆病だから、手っ取り早く飛び込んだ最初の物陰。
 ギャラックの兵たちの足音は更に増えて、こちらに近づいてくる。このままでは発見されるのも時間の問題。

 「あいつらを殺していいでしょ? ねえ?」

 そのとき、アリューシアは私の耳に着けるように囁いてきた。
 その声に背筋がゾクリとした。私はアリューシアという少女を、根本的に勘違いしていたことを、はっきりと確信したと思う。
 彼女も魔法使いなのだ。私とは種類の違う人間。「殺す」という選択肢が、当たり前のように存在していて、それを実行することを躊躇わないメンタリティ。

 プラーヌスの課題をクリアーして、レベルの高い魔族と契約を果たしたから、彼女は変わったわけではないと思う。
 そもそもアリューシアは、このような考え方をしていたのだ。それが魔法使いという生き物。
 プラーヌスの前でドキドキしたり、アビュと口喧嘩したりしているアリューシアを見て、街にいる普通の少女だと思っていたが、それは大きな勘違いだったわけである。

 「アリューシアの言う通りだ。このままだと見つかる。殺したほうがいい」

 カルファルも賛同する。

 「しかし敵は多い。彼ら全てを殺し尽くさなければ、我々の存在が他の仲間に知られるぞ。隠れているほうが得策ではないのか?」

 私は精一杯、声をひそめてカルファルに反論した。

 「殺し尽くせばいい。無理なことではない。まだ追っ手はそれほど多くはない」

 「全て殺し尽くすだって・・・」

 カルファルもそうなのだ。彼だってあっち側の人間。
 確かにギャラックの兵士たちは、私たちを見つければその首に剣を振り落としてきて、心臓に向かって槍を突き出しもするのであろう。それが敵というもの。
 しかし私自身は彼らに恨みはない。怒りはない。殺さずに済むものであるならば、そっちのほうがいい。

 「それに俺の魔法なら、物音ひとつ立てずに殺すことが出来る。敵たちに断末魔の叫びを一切上げさせない」

 「ああ、あの魔法ね!」

 「あの魔法?」

 「あの魔法よ。やっぱりシャグラン、あなたは足手まといだったわ!」

 アリューシアは声を少しもひそめることなく、そう言い放った。
 彼女の声は当然、敵たちの耳にも届いたようだ。彼らの足音が一斉に消えた。
 ボーアホーブに到着して、最初の戦いが始まる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

処理中です...