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35)ブランジュ <戦闘9>
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「お、おい、ブランジュ! いったいどうつもりなんだ!」
エクリパンがブランジュに、今にも掴みかからんばかりに怒鳴っている。
怒りで言葉にならない。そのような感じである。敵である魔法使いから背を向けて、彼はその怒りに我を忘れていた。
「だ、だって・・・」とブランジュが口篭る。
爆弾少女の姿が消えた。
その部屋から完全に消え失せたのだ。
ブランジュが魔法を使ったのである。彼女の得意の魔法、どんな相手であっても、異なる空間に吹き飛ばす力。
あの少女は今、なぜ自分がこんなところにいるのかと不思議がりながらも、その異空間で元気にしているだろう。
「だって残酷過ぎるわ、そうでしょ? シユエト」
助けを求めるように、ブランジュはシユエトに顔を向けた、ようだ。
「ブ、ブランジュ。やっていいことと悪いことがある。君はやってはいけないことをした」
シユエトもブランジュの行動に唖然としていた。
当然である。目の前にいる、このとてつもないの強敵を、もしかしたら殺すことが出来るかもしれないチャンスを、彼女はさっき、自ら不意にしたのだから。
「わ、わかってるわ、私だって。で、でも見たくなかった。女の子が吹き飛ぶところなんて・・・」
シユエトにも非難されて、ブランジュも自分のやってしまったことの重みを実感し始めたようだ。彼女のゲシュタルトが、色と形を激しく変え始めた。
「いや、わかっていない。お前は本当に馬鹿だ。馬鹿女だ! お前なんかを仲間にしたことを、本当に心の底から後悔している。しかし次に後悔するのは、お前だ。お前自身だ。俺たちは必ずお前に報復するからな。さっきの軽率な行動を後悔させてやる」
「・・・ごめんなさい、エクリパン、でも私」
「謝って済む問題じゃないんだよ!」
エクリパンが声の限りに怒鳴る。しかしそんなエクリパンやシユエトよりも、更に怒り狂っている男がいた。
シャカルだ。
この作戦は彼が中心になって遂行されるはずだった。爆発の魔法を始動させようと意識を集中していたときに、ブランジュに邪魔されたのだ。
シャカルは怒りを通り越し、ほとんど理性が吹き飛びかけていた。
幸いにもシャカルとブランジュの距離は離れている。敵の魔法使いを挟んで反対側。もしシャカルが彼女の傍に立っていたならば、確実に彼は手を上げていただろう。
「お、おい、糞女! お前には脳ミソがないのか、え? 絶対に殺す。あのとき、お前を殺しておかなかったことを、俺はマジで後悔しているよ!」
シャカルが叫び出した。あまりの感情の高ぶりで、何を言っているのか聞き取れないが、とにかくシャカルは彼女を罵倒している。「俺はお前を絶対に許さない!」
そのとき、シャカルのその声を遮るようにして、少し甲高い、乾いた笑い声が聞こえてきた。
「今度は仲間割れか。君たちはいったい、僕の部屋に何をしにきたのだ」
敵の魔法使いが呆れたような声で、彼の仲間たちを嘲笑していたのだ。「茶番劇を演じに来たのか、そうだろ?」
「何だと!」
その笑い声を聞いて、シャカルの真っ赤な怒りが更に燃え上がった。ほんのわずかに残っていた理性も吹き飛ぶ寸前。
「だけどそこの君」
怒り狂うシャカルを、本当に馬鹿にするように笑っていたかと思うと、敵の魔法使いはその笑いを一瞬にして鞘に収めた。
そして言った。
「その女性を責めても意味はない。あの少女自体が何かの武器だったんだろ? そんな作戦、とうの昔に見破っていたよ。彼女が手を出さなければ、僕があの少女を殺していた。君たちの作戦は最初から失敗していたんだよ」
「な、何だって?」
その言葉を聞いて、シャカルはいくらか理性を取り戻したようだ。「・・・そ、そんなの負け惜しみだろ? なあ、ダンテスク」
――いや、残念ながら奴の言うとおりだ。俺の力が及ばなかった。奴を騙し切ることが出来なかったのだと思う・・・。
(今になってわかったことであるが)
敵の魔法使いのゲシュタルトの中で、不気味に点滅していた黄色い光。それが少女への警戒心を現していたようだ。
その光は最初から消えることはなく、彼女が一気に近づいてきたときに、最大の光を点した。そして彼女が消えた瞬間、その光も消えた。
(その黄色い光の近くで、激しく点滅していた赤い光のほうを、少女への警戒心を現す標しだと思っていた。しかしそうではなかった。それは俺の勘違いだった。だとすればおそらく一瞬とて、奴の騙すことは出来ていなかった・・・)
――シャカル。ブランジュが手を出さなくても、この作戦は失敗していた可能性がある。諦めよう。
いや、本当のところはわからない。真実はダンテスクにも判別がつかない。もう少し分析が必要だろう。
とはいえ、この作戦が失敗したことだけは、もはや動かしがたい事実。この失敗を切り替えて、次の作戦に進むためにも、ダンテスクは仲間たちにそう声を掛けた。
(ああ、しかしこの作戦が失敗したとは・・・)
仲間たちには諦めるようにと言いつつも、ダンテスクの心には、とてつもないほどの絶望感が去来していた。
この作戦はダンテスクが中心になって練り上げた作戦。彼の全ての能力を注いだ殺しの計画だった。
それが失敗したのだ。まだいくつか作戦は残っているが、この作戦Dを越える作戦はない。
(俺たちの敗北は確定したのかもしれない)
「・・・そ、そうか、失敗していたのか。しかしそうだとしても糞女! お前の行動は許せない!」
「わ、わかった。償いはするわ」
「はあ、償いだって? お前にどんな償いが出来るんだよ!」
お前だけは許さない。最高に苦しめてやる。世界中の男にお前を犯させる。
そして生きたまま、お前を少しずつ喰ってやるからな!
仲間同士で言い争っていることが敵に嘲笑われているというのに、シャカルの怒りは一向に収まる気配を見せなかった。
ブランジュの謝罪に耳を傾ける気がないだけでなく、この作戦が失敗していたかもしれないという、ダンテスクの言葉も頭に入っていないかのようだ。
「ふーん、これだけ怒っているということは、その作戦にはかなり自信があったようだね」
敵の魔法使いがそのようなことを言って、シャカルの怒りの中に割り込み始めた。「僕が推測するところ、君たちの行おうとしていた作戦はこうだ。君たちの中に、驚くべき攻撃魔法を使える魔法使いが、一人いる。僕の部屋の窓に貼っていたシールドを一撃で壊した者」
敵の魔法使いは仲間たちの反応を伺うように、彼らを見渡した、ようだ。
「その魔法はどうやら、時間差で攻撃を発生させることも出来る。真っ向から攻撃をしても僕に効果がないと考えた君たちは、さっきの少女にその魔法を仕掛けた。もし僕がその少女に近づいていたら、それを稼動させるつもりだったのかな。彼女は人形を抱えていた。それにでも魔法を仕掛けていたのだろう」
(ほとんど奴の推測通りだ。これだけの材料で見抜くとは、かなり戦闘の経験があるのだろう)
「そして僕が推測するに、その凄まじい破壊力を秘めた攻撃魔法の使い手は、その女性だ」
さっきまでそちらの方向に一度も視線を向けたことがなかった魔法使いが、身体ごと視線を動かした、ようだ。
そして彼はアンボメの姿を指差した、ようだ。
「しかし彼女には攻撃の時期を見定めるだけの力はないようだ。それに手を貸していたのは隣の男だな。頭のいかれたお前」
敵の魔法使いに真っ向から見つめられても、何の反応も示さず虚ろな表情をしているだけのアンボメを見て、彼は苦笑いする。
苦笑いする彼が指差したのはシャカルだ。
(これも完全に的中している。なんという直観力か)
「君たちを甘く見ていたことも事実だ。もしちょっとでも油断していたら、僕が死んでいた可能性もある。いや、それはないかな、しかし多少の怪我は負っていたかもしれないね。それは認めてあげよう」
だから今から、僕のターンだ。
魔法使いはそう言うや否や、手に持っていた傘を掲げた。
さっきまでのどことなく億劫そうにしていた態度と打って変わり、その動きはまるで獲物を見つけた獣のように敏捷だった。
その瞬間、シャカルのゲシュタルトが消え去った。
あまりに一瞬の出来事でダンテスクは何が起きたのかすぐに理解することが出来なかったが、シャカルが死んだのだ。
エクリパンがブランジュに、今にも掴みかからんばかりに怒鳴っている。
怒りで言葉にならない。そのような感じである。敵である魔法使いから背を向けて、彼はその怒りに我を忘れていた。
「だ、だって・・・」とブランジュが口篭る。
爆弾少女の姿が消えた。
その部屋から完全に消え失せたのだ。
ブランジュが魔法を使ったのである。彼女の得意の魔法、どんな相手であっても、異なる空間に吹き飛ばす力。
あの少女は今、なぜ自分がこんなところにいるのかと不思議がりながらも、その異空間で元気にしているだろう。
「だって残酷過ぎるわ、そうでしょ? シユエト」
助けを求めるように、ブランジュはシユエトに顔を向けた、ようだ。
「ブ、ブランジュ。やっていいことと悪いことがある。君はやってはいけないことをした」
シユエトもブランジュの行動に唖然としていた。
当然である。目の前にいる、このとてつもないの強敵を、もしかしたら殺すことが出来るかもしれないチャンスを、彼女はさっき、自ら不意にしたのだから。
「わ、わかってるわ、私だって。で、でも見たくなかった。女の子が吹き飛ぶところなんて・・・」
シユエトにも非難されて、ブランジュも自分のやってしまったことの重みを実感し始めたようだ。彼女のゲシュタルトが、色と形を激しく変え始めた。
「いや、わかっていない。お前は本当に馬鹿だ。馬鹿女だ! お前なんかを仲間にしたことを、本当に心の底から後悔している。しかし次に後悔するのは、お前だ。お前自身だ。俺たちは必ずお前に報復するからな。さっきの軽率な行動を後悔させてやる」
「・・・ごめんなさい、エクリパン、でも私」
「謝って済む問題じゃないんだよ!」
エクリパンが声の限りに怒鳴る。しかしそんなエクリパンやシユエトよりも、更に怒り狂っている男がいた。
シャカルだ。
この作戦は彼が中心になって遂行されるはずだった。爆発の魔法を始動させようと意識を集中していたときに、ブランジュに邪魔されたのだ。
シャカルは怒りを通り越し、ほとんど理性が吹き飛びかけていた。
幸いにもシャカルとブランジュの距離は離れている。敵の魔法使いを挟んで反対側。もしシャカルが彼女の傍に立っていたならば、確実に彼は手を上げていただろう。
「お、おい、糞女! お前には脳ミソがないのか、え? 絶対に殺す。あのとき、お前を殺しておかなかったことを、俺はマジで後悔しているよ!」
シャカルが叫び出した。あまりの感情の高ぶりで、何を言っているのか聞き取れないが、とにかくシャカルは彼女を罵倒している。「俺はお前を絶対に許さない!」
そのとき、シャカルのその声を遮るようにして、少し甲高い、乾いた笑い声が聞こえてきた。
「今度は仲間割れか。君たちはいったい、僕の部屋に何をしにきたのだ」
敵の魔法使いが呆れたような声で、彼の仲間たちを嘲笑していたのだ。「茶番劇を演じに来たのか、そうだろ?」
「何だと!」
その笑い声を聞いて、シャカルの真っ赤な怒りが更に燃え上がった。ほんのわずかに残っていた理性も吹き飛ぶ寸前。
「だけどそこの君」
怒り狂うシャカルを、本当に馬鹿にするように笑っていたかと思うと、敵の魔法使いはその笑いを一瞬にして鞘に収めた。
そして言った。
「その女性を責めても意味はない。あの少女自体が何かの武器だったんだろ? そんな作戦、とうの昔に見破っていたよ。彼女が手を出さなければ、僕があの少女を殺していた。君たちの作戦は最初から失敗していたんだよ」
「な、何だって?」
その言葉を聞いて、シャカルはいくらか理性を取り戻したようだ。「・・・そ、そんなの負け惜しみだろ? なあ、ダンテスク」
――いや、残念ながら奴の言うとおりだ。俺の力が及ばなかった。奴を騙し切ることが出来なかったのだと思う・・・。
(今になってわかったことであるが)
敵の魔法使いのゲシュタルトの中で、不気味に点滅していた黄色い光。それが少女への警戒心を現していたようだ。
その光は最初から消えることはなく、彼女が一気に近づいてきたときに、最大の光を点した。そして彼女が消えた瞬間、その光も消えた。
(その黄色い光の近くで、激しく点滅していた赤い光のほうを、少女への警戒心を現す標しだと思っていた。しかしそうではなかった。それは俺の勘違いだった。だとすればおそらく一瞬とて、奴の騙すことは出来ていなかった・・・)
――シャカル。ブランジュが手を出さなくても、この作戦は失敗していた可能性がある。諦めよう。
いや、本当のところはわからない。真実はダンテスクにも判別がつかない。もう少し分析が必要だろう。
とはいえ、この作戦が失敗したことだけは、もはや動かしがたい事実。この失敗を切り替えて、次の作戦に進むためにも、ダンテスクは仲間たちにそう声を掛けた。
(ああ、しかしこの作戦が失敗したとは・・・)
仲間たちには諦めるようにと言いつつも、ダンテスクの心には、とてつもないほどの絶望感が去来していた。
この作戦はダンテスクが中心になって練り上げた作戦。彼の全ての能力を注いだ殺しの計画だった。
それが失敗したのだ。まだいくつか作戦は残っているが、この作戦Dを越える作戦はない。
(俺たちの敗北は確定したのかもしれない)
「・・・そ、そうか、失敗していたのか。しかしそうだとしても糞女! お前の行動は許せない!」
「わ、わかった。償いはするわ」
「はあ、償いだって? お前にどんな償いが出来るんだよ!」
お前だけは許さない。最高に苦しめてやる。世界中の男にお前を犯させる。
そして生きたまま、お前を少しずつ喰ってやるからな!
仲間同士で言い争っていることが敵に嘲笑われているというのに、シャカルの怒りは一向に収まる気配を見せなかった。
ブランジュの謝罪に耳を傾ける気がないだけでなく、この作戦が失敗していたかもしれないという、ダンテスクの言葉も頭に入っていないかのようだ。
「ふーん、これだけ怒っているということは、その作戦にはかなり自信があったようだね」
敵の魔法使いがそのようなことを言って、シャカルの怒りの中に割り込み始めた。「僕が推測するところ、君たちの行おうとしていた作戦はこうだ。君たちの中に、驚くべき攻撃魔法を使える魔法使いが、一人いる。僕の部屋の窓に貼っていたシールドを一撃で壊した者」
敵の魔法使いは仲間たちの反応を伺うように、彼らを見渡した、ようだ。
「その魔法はどうやら、時間差で攻撃を発生させることも出来る。真っ向から攻撃をしても僕に効果がないと考えた君たちは、さっきの少女にその魔法を仕掛けた。もし僕がその少女に近づいていたら、それを稼動させるつもりだったのかな。彼女は人形を抱えていた。それにでも魔法を仕掛けていたのだろう」
(ほとんど奴の推測通りだ。これだけの材料で見抜くとは、かなり戦闘の経験があるのだろう)
「そして僕が推測するに、その凄まじい破壊力を秘めた攻撃魔法の使い手は、その女性だ」
さっきまでそちらの方向に一度も視線を向けたことがなかった魔法使いが、身体ごと視線を動かした、ようだ。
そして彼はアンボメの姿を指差した、ようだ。
「しかし彼女には攻撃の時期を見定めるだけの力はないようだ。それに手を貸していたのは隣の男だな。頭のいかれたお前」
敵の魔法使いに真っ向から見つめられても、何の反応も示さず虚ろな表情をしているだけのアンボメを見て、彼は苦笑いする。
苦笑いする彼が指差したのはシャカルだ。
(これも完全に的中している。なんという直観力か)
「君たちを甘く見ていたことも事実だ。もしちょっとでも油断していたら、僕が死んでいた可能性もある。いや、それはないかな、しかし多少の怪我は負っていたかもしれないね。それは認めてあげよう」
だから今から、僕のターンだ。
魔法使いはそう言うや否や、手に持っていた傘を掲げた。
さっきまでのどことなく億劫そうにしていた態度と打って変わり、その動きはまるで獲物を見つけた獣のように敏捷だった。
その瞬間、シャカルのゲシュタルトが消え去った。
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