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シーズン1 魔法使いの塔
第九章 3)女神の夢
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フローリアは少しも休憩することなく、患者たちの面倒を看続けている。
ここまで最も働いてきたのは、老医師とフローリアだ。
老医師は眠っているが、彼女は変わらず動き回っている。これで疲れるなと言うほうが無茶であろう。
「フローリア、もう眠ったほうがいい」
私はフローリアの傍まで行き、そう声を掛けた。
ただ単に、そんなことが言いたかっただけではなかった。
彼女の近くにまで行って改めて彼女の体温を感じたり、汗の匂いなどを嗅いだりしたら、女神なんて考えが、どれだけ馬鹿げた思い込みなのかわかるだろう。
そう思ったのだ。
やはり彼女もさすがに疲れを隠せないようだった。
かすかに息使いの乱れを感じたし、顔色も青白い。
そのように疲れが顔に出ているフローリアを間近で見て、彼女が女神なんかじゃないことが確信出来た。
もし女神であったなら、フローリアは今でも涼しい顔をしていたに違いない。
しかしさすがにフローリアも、疲労の限界が近いようだ。私はその事実に安堵感を覚えた。
「フローリア、やはり休んだほうがいい」
私は彼女にもう一度言う。
しかしフローリアは私の言葉に静かに首を振った。
「大丈夫です、少しでも役に立てるなら、この程度の疲れは」
「いや、君は前にも倒れたじゃないか。まだ完全にあれが治りきっていないかもしれないのに」
それでもフローリアは首を振っている。
このように頑な女神なんていないだろう。これは自分の限界を知らない子供の行いではないか。
「い、いいよ、や、休んでくれ」
私とフローリアの遣り取りを聞いていたのだろう、フローリアに手を握られながらベッドに横になっていた患者が、痛みに顔を顰めながらも言った。
「で、でも」
フローリアが言った。
「も、もしあんたに倒れられたら、俺たちは完全に生きる気力を失うよ。なあ、みんな?」
その声はあまりに小さかったので、彼のすぐ下、ベッドが足りなくて床に寝かされている兵にしか聞こえなかったようだ。
しかしその兵も苦しげに同意した。「ゆっくり寝てくれ・・・、そしてまた明日、会いに来てくれればいい」
「そうさ、フローリア、もう孤独で悲しい夜は終わったよ、夜明けはすぐだ」
私がそう言っても、フローリアはまだ首を振っていた。
しかし少し強引にフローリアを部屋に下がらせることにした。
椅子の上で欠伸ばかりしているアビュも一緒に部屋から出した。
医務室に残ったのは、私と元から看護士を勤めている者だけになった。
看護士たちはアビュやフローリアほど職務熱心でもないから、その辺りで疲れ果てて既に眠っている。
私も彼らと同じように眠ることにした。
少し強引にフローリアを部屋に下がらせたのは、彼女の健康を思いやったのはもちろんだが、もしかしたら嫉妬の感情もあったかもしれない。
こんな美しいフローリアを独り占めにしている患者たちに、私は情けないことに妬いているのかもしれないのだ。
アビュとの会話では必死に否定をしたが、実はアビュの言う通り、フローリアという女性の虜になっている。
そのことを認めざるを得ないだろう。
まだまだ彼女のことを何も知らないが、もっともっと彼女のことを知りたいし、傍にいたいと思うのだ。
そんなだから、もしフローリアが女神だったりしたら、私の嫉妬の感情はとんでもないことになるだろう。
だってそうなると、フローリアを蛮族たちに返さなければいけなくなるのだから。
そんなことに私は耐えられそうにない。
まあ、しかしそんなことはあり得ないことだろう。
フローリアが女神なんて考えが、改めて馬鹿馬鹿しく思われてきた。
私はただ、「美しくて清らか」というフレーズに引っ掛かっただけに過ぎない。フローリアが女神なんて考えには、とんでもない飛躍があるだろう。
そんなことを考えながら、疲れていた私はすぐに眠りに落ちた。
しかし夢を見た。フローリアは女神だったという夢だ。
ここまで最も働いてきたのは、老医師とフローリアだ。
老医師は眠っているが、彼女は変わらず動き回っている。これで疲れるなと言うほうが無茶であろう。
「フローリア、もう眠ったほうがいい」
私はフローリアの傍まで行き、そう声を掛けた。
ただ単に、そんなことが言いたかっただけではなかった。
彼女の近くにまで行って改めて彼女の体温を感じたり、汗の匂いなどを嗅いだりしたら、女神なんて考えが、どれだけ馬鹿げた思い込みなのかわかるだろう。
そう思ったのだ。
やはり彼女もさすがに疲れを隠せないようだった。
かすかに息使いの乱れを感じたし、顔色も青白い。
そのように疲れが顔に出ているフローリアを間近で見て、彼女が女神なんかじゃないことが確信出来た。
もし女神であったなら、フローリアは今でも涼しい顔をしていたに違いない。
しかしさすがにフローリアも、疲労の限界が近いようだ。私はその事実に安堵感を覚えた。
「フローリア、やはり休んだほうがいい」
私は彼女にもう一度言う。
しかしフローリアは私の言葉に静かに首を振った。
「大丈夫です、少しでも役に立てるなら、この程度の疲れは」
「いや、君は前にも倒れたじゃないか。まだ完全にあれが治りきっていないかもしれないのに」
それでもフローリアは首を振っている。
このように頑な女神なんていないだろう。これは自分の限界を知らない子供の行いではないか。
「い、いいよ、や、休んでくれ」
私とフローリアの遣り取りを聞いていたのだろう、フローリアに手を握られながらベッドに横になっていた患者が、痛みに顔を顰めながらも言った。
「で、でも」
フローリアが言った。
「も、もしあんたに倒れられたら、俺たちは完全に生きる気力を失うよ。なあ、みんな?」
その声はあまりに小さかったので、彼のすぐ下、ベッドが足りなくて床に寝かされている兵にしか聞こえなかったようだ。
しかしその兵も苦しげに同意した。「ゆっくり寝てくれ・・・、そしてまた明日、会いに来てくれればいい」
「そうさ、フローリア、もう孤独で悲しい夜は終わったよ、夜明けはすぐだ」
私がそう言っても、フローリアはまだ首を振っていた。
しかし少し強引にフローリアを部屋に下がらせることにした。
椅子の上で欠伸ばかりしているアビュも一緒に部屋から出した。
医務室に残ったのは、私と元から看護士を勤めている者だけになった。
看護士たちはアビュやフローリアほど職務熱心でもないから、その辺りで疲れ果てて既に眠っている。
私も彼らと同じように眠ることにした。
少し強引にフローリアを部屋に下がらせたのは、彼女の健康を思いやったのはもちろんだが、もしかしたら嫉妬の感情もあったかもしれない。
こんな美しいフローリアを独り占めにしている患者たちに、私は情けないことに妬いているのかもしれないのだ。
アビュとの会話では必死に否定をしたが、実はアビュの言う通り、フローリアという女性の虜になっている。
そのことを認めざるを得ないだろう。
まだまだ彼女のことを何も知らないが、もっともっと彼女のことを知りたいし、傍にいたいと思うのだ。
そんなだから、もしフローリアが女神だったりしたら、私の嫉妬の感情はとんでもないことになるだろう。
だってそうなると、フローリアを蛮族たちに返さなければいけなくなるのだから。
そんなことに私は耐えられそうにない。
まあ、しかしそんなことはあり得ないことだろう。
フローリアが女神なんて考えが、改めて馬鹿馬鹿しく思われてきた。
私はただ、「美しくて清らか」というフレーズに引っ掛かっただけに過ぎない。フローリアが女神なんて考えには、とんでもない飛躍があるだろう。
そんなことを考えながら、疲れていた私はすぐに眠りに落ちた。
しかし夢を見た。フローリアは女神だったという夢だ。
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